03 魔力テスト
入学式の後は魔力テストだ。
個々の魔法属性や魔力の量を調べてクラス分けを行うのだ。
今年の新入生は約六十名、内平民は十名。
それぞれの能力から判断して三クラスに振り分けられるという。
元々この魔法学園は貴族のみが入れる学園だった。
だが五年前の魔女の呪いで国中に魔物が溢れたため、魔術師を多く養成する必要が生じた。
そのため三年前から、魔力を持つ平民にも入学を認めるようになったのだ。
魔力はこの世界の人間ならば全て持っている。
だがその量には個人差が大きく、魔物と戦えるほどの魔法を使える人間は限られている。
貴族には高い魔力を持つ者が多いが平民の中で高い魔力を持つ者は少ない。
また幼い頃から魔法を扱う術を学ぶ貴族の子息と違い、平民は魔力を持つ事が判明しても実際に魔法を使えるようになるのは学園に入ってからの者がほとんどで、魔術師になれるかどうかも学園で学んでみないと分からない。
それでも一人でも多くの魔術師が必要なため平民を受け入れざるをえないのがこの国の現状だ。
新入生達は訓練場へと集められた。
「分かっている者もいるだろうが全員改めて測るからな。名前を呼ばれたら前へ出ろ」
教師の前に置かれているのは大きな水晶玉だ。
ここに手をかざすとその者の属性と魔力が分かるという。
属性は基本『水』『火』『土』『風』の四つ。
ほかに王族ならば『光』属性を持つ者もいる。
あとは『闇』があるが、これもごく稀だ。
小説では聖女として目覚めたヒロインが『聖』の属性を持つと判定されていた。
「では最初にアルフォンス殿下」
「はい」
名前を呼ばれ、アルフォンスが前へ出る。
途端に貴族令嬢の集団から黄色い歓声が上がった。
生徒達は特に言われたわけではないが、自然と貴族、平民と分かれて集まっている。
同じ制服を着ているとはいえ、貴族と平民とではあきらかに持つ雰囲気が異なるのだ。
当然ミナも平民達の中にいる。
「あれが王子様…」
「飛び抜けて素敵だわ」
平民の中で女子はミナを入れて三名。
実家が農家のエマと、商家のハンナだ。
二人とは二日前から学生寮で既に一緒に生活していて仲良くなっていた。
「本当に…」
二人がそう呟いているのでミナも同意するように頷いた。
確かにアルフォンスは存在感が違う。
(なんか眩しい…これがオーラってやつ?それとも…属性のせい?)
小説を読んだミナにはアルフォンスの属性は分かっていた。
アルフォンスは二つの属性を持っているのだ。
それは『火』と…
「おおっ」
アルフォンスが手をかざすと、水晶から赤と金、二種類の強い光が放たれた。
「さすがの魔力量!しかも火と光、二つの属性があるとは…!」
教師の声に生徒達から大きな歓声が上がる。
「光って特別なのでしょう?」
「お兄様のハルトヴィヒ殿下も持っていらっしゃらないはずだわ」
「さすがアルフォンス殿下ね…」
歓声に応えるようにアルフォンスは手を挙げると、生徒達の中へ戻っていった。
(ここまでは小説と同じね…)
名前を呼ばれた生徒達が次々と判定されていくのを眺めながらミナは思った。
そして貴族の生徒達の中で最後に呼ばれるのは…
「ローゼリア・リーベル」
「はい」
ヒロインが呼ばれて前へ出ると、水晶へと手をかざす。
水晶は弱い緑色の光を帯びた。
(あれ…?)
ミナは心の中で首を傾げた。
確か小説のヒロインは水属性で、かなり強力な魔力を持っていたはずだ。
水属性ならば青く光るはず。
「風属性で、魔力量はそこそこといった所だな」
メモを取りながら教師が言った。
「え、おかしくない?」
ふいに上がった大きな抗議の声に———生徒達の視線が一斉にローゼリアへ向けられた。
「何で私水属性じゃないの?量もしょぼいし。この水晶おかしくない?」
「この水晶は何十年も学園に伝わるものだ、間違いはない」
頬を膨らませるローゼリアに呆れたように教師が答えた。
「まあ…何なんですのあの人」
「リーベル家といえば、最近爵位を受けたばかりの男爵家ね」
「これだから成り上りは困りますわ」
貴族令嬢達のささやき声がミナの元まで聞こえてきた。
(うわあ貴族ってやっぱり怖い)
彼女達の嘲るような眼差しに内心震えながらもミナはさらに首を傾げた。
(あの人…ヒロインじゃない?でも名前も見た目も同じだし…。というか今自分が水属性じゃないのかって言った?)
———もしかして。
ミナの頭にある考えがよぎった。