26 帰省
「———周辺、異常なし」
「団員異常なし」
無事に魔物の群れを殲滅できた事が分かり、ほう、とミナは息を吐いた。
「ご苦労。少し待て」
団員達を見渡してから、ハルトヴィヒが馬車へとやってきた。
「ミナ、ありがとう助かったよ」
「え?私は何も…」
「君が馬車を守っていてくれたから我々は魔物に専念できた」
ハルトヴィヒは淡い光に包まれた馬車を見た。
「この防御魔法はミナが掛けたのだろう。しっかりとした魔法だ」
「…お役に立てて良かったです」
ミナはハルトヴィヒを見上げた。
「ところでどうして君がここに?」
「孤児院へ帰る途中でした」
「孤児院?」
「はい、この森を抜けてすぐの、あの青い尖塔のある教会です」
ミナは森の先を指差した。
「そうか。ちょうどいい、案内してくれるか」
「案内ですか?」
「最近この辺りで魔物が増えたと報告を受けて来たんだ。教会で話を聞こうと向かっている途中だった」
「分かりました」
ミナは頷いた。
まだ魔物が出る可能性があるため馬車を護衛するように、魔術団も共に移動する事になったのだが。
何故かミナはハルトヴィヒの馬に乗せられていた。
「ミナは馬には乗れるか?」
前に乗せたミナの身体が硬直しているのに気づき、ハルトヴィヒは尋ねた。
「いいえ…」
「そうか。乗馬の授業は?」
「…これからあると聞いています」
「魔術団に入るならば馬に乗れないとならないからな。貴族は幼い時から馬に乗っているから慣れているのだが」
「…そうなんですね」
確かにミナの兄も小さい時から馬に乗っていた。
ミナは乗らせては貰えなかったが…こっそりと厩舎へ行き、馬を撫でていた事は覚えている。
ミナを拒否せず気持ちよさそうに撫でられていた馬達との触れ合いは、唯一と言っていいほど心が休まる時間だった。
「ミナはこの森の事は詳しいのか?」
「はい…よく木の実やキノコを採りに来ていました」
「という事は、前は魔物はいなかったという事だな」
「はい。町にも近いですし…熊などの危険な獣もいない、小さな森です」
「そうか。———最近、これまでいなかった場所に魔物が現れるという報告が増えているんだ」
ハルトヴィヒはそう言って息を吐いた。
「それにさっきや、先日の実戦の時のように、大群で現れる事も増えている」
「…何か起きているのでしょうか」
「エーミール達が調べているが…まだ分からないんだ」
(小説では…確か魔女の呪いが続いていて———そうだ、魔女が復活しようとするんだ)
ミナは思い出した。
それをハルトヴィヒに伝えるべきなのだろうが…どうしてミナがそんな事を知っているのか、説明が出来ない。
「前に魔物が増えたのは…魔女の呪いのせいなんですよね」
ミナはそれとなく話題にしてみる事にした。
「———ああ」
「今回の事も…関係あるのでしょうか」
「エーミールはそれを疑っているが。魔女は既に処刑されているし、死骸も燃やしてしまった。調べようがないんだ」
「…そうですか」
(エーミール様が動いているなら…分かるだろうか)
自分が知る事を伝えられないもどかしさを感じながら、ミナは近づいてきた教会を見つめた。