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24 兄と妹

ミナがフランツィスカと指導室へ向かうと、ドアの前にアルフォンスが立っていた。


「…殿下も呼ばれたのですか」

「いや。昨日の事だろうからリーダーとして同席した方がいいかと思ってな」


「殿下って責任感が強いというかお人好しというか…」

フランツィスカは口角をあげた。

「そういえば、兄から聞いたのですが。ミナの事、可愛いって言ったそうですね」


「え」

「可愛いと思ったからそう言っただけだ。違うか?」

アルフォンスは首を傾げた。

「ミナは可愛いし、フランツィスカは美人だと思うぞ」


「———やっぱり殿下はそういう方面は疎いんですね」

はあ、とフランツィスカはため息をついた。




「何だ大勢だな」


ライプニッツ先生がやってきた。

「俺はミナだけを呼んだはずだが」


「チームリーダーとして同席した方がいいと思ったのだが」

「私は保護者代理です」

フランツィスカはミナの腕を取るとそう答えた。


「何だそれは。まあいい、とりあえず入れ」

先生は三人を促した。





「ミナ。昨日の事だが」

全員が座ると先生は口を開いた。


「授業でも言ったが、あの出来事自体は新人にはあり得る事だし仕方のない事だ」

「…はい」

「ただし、ミナがネズミに対しての苦手意識を克服しないと、お前はこれから魔術師としてはやっていけないだろう」


「———はい」

ミナは頷いた。




「そこで、克服するためにはまず原因を知らなければならないのだが。昨日ミナが口走っていた事から察するに…母親が関係あるんだな」

ミナは視線を落とすと小さく頷いた。


「それからミナの素性について、平民ではないのではという声が多くてな。おそらく魔術団に入ってもその事は言われるだろうし、既に副団長達も気になっているようだ。———その辺りの事を今のうちにスッキリさせておいた方が良いだろう」

俯いたままのミナを見つめて先生は言った。

「俺はミナの素性の事と、ネズミの事は関係があると思っている。違うか?」



「…ミナ」

フランツィスカはミナの肩に手を触れた。

「心の準備がまだなら…」


「———いいえ。大丈夫、です」

ミナは顔を上げた。




「…私の…元の名前は、ヴィルヘルミーナ・フォルマーと言います」


「フォルマー…侯爵?」

「…宰相との関係は?」


「私の父です」

アルフォンスの問いにミナは答えた。



「———言われてみれば…アルトゥールに似ているが…」

ミナをまじまじと見つめて、アルフォンスはフランツィスカを見た。


「フランツィスカ…君はこの事を知っていたのか?」

「昨日、ちょうどアルトゥール様とお会いした時にミナの事をお話ししたら、妹かもしれないと言われました」


「侯爵令嬢が…何故平民になったんだ?」

先生が首を傾げた。




「私が生まれた時…黒髪だったため、母は不貞を疑われたそうです」

ミナはそう答えると、再び視線を落とした。


「私はずっと母に嫌われ続けて…叩かれたり、怒鳴られたりしていました。庭の用具庫に閉じ込められて…その時にネズミに噛まれました。父はそれらに見て見ぬフリをしていて…」

ミナは膝に置いた手をぎゅっと握りしめた。


「八歳の時、領地へ向かっていた馬車が脱輪する事故がありました」

それは狭い山道を走っている時だった。

ミナは車外へ投げ出され、そのまま崖を落ちていったのだ。


全身を打ち、動けなくなっていたミナを発見したのは行商帰りの夫婦だった。

彼らはミナの身体に古い傷跡があるのを不審に思い、問われるままミナは母親から受けていた仕打ちの事を話した。

それを聞いた夫婦は家に帰らずこのまま自分達の娘になればいいと言ってくれ———ミナもそれを受け入れたのだ。


夫婦は子供に恵まれず、養子を取ろうかと話していたところだったという。




「…そうだったのか」

ミナの話を聞いて先生はため息をついた。


「あの宰相がそのような事をするとは…」

「———アルトゥール様の話では、ミナがいなくなった後、家族は後悔したそうですわ」

呆れ顔のアルフォンスにフランツィスカが言った。

「…後から悔やんでも遅いんですけれどね」




「———そうなると、だ」

先生は思案するように顎に手を当てた。


「家族との確執を解決した方がいいだろうな」

「そうだな、宰相に謝罪させなければ」


「…家族に会うのは、正直怖いです」

ミナは口を開いた。



「———後はネズミに慣れさせていくという手もあるが。やはり根本の原因を解決しないと、どんなトラウマが出てくるか分からないからな」

先生はミナを見て言った。


「家族とすぐに会えとは言わないが。この件が解決するまでミナは実戦には参加させられない。魔鼠はどこにでも出るからな」

「…はい」

ミナは頷いた。

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