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20 兄と妹

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ただいま」

フランツィスカが家に帰ると執事が出迎えた。



「お嬢様に来客でございます」

「来客?こんな時間に?」

もうすっかり日が暮れた時間に自分に来客があるとは思えない。

フランツィスカは不思議そうに首を傾げた。


「はい、アルトゥール様がいらっしゃっております。ただ今フリードリヒ様がお相手をなさっております」

「アルトゥール様が?」


アルトゥールはフランツィスカの婚約者だ。

婚約者とはいえこんな時間に来るとは珍しい。


「部屋に戻られる前にお二人にご挨拶をなさって頂けますか」

「…でも私、汚れているわ」

森で魔物と戦ったせいで、制服は泥やら魔物の血やらですっかり汚れている。

こんな姿、とても婚約者や兄に見せられるものではない。


「先に着替えてから…」

「お帰りフランツィスカ」

身を翻しかけたフランツィスカの背後から声が聞こえた。


「…お兄様」

「無事で良かった」

フランツィスカの前まで来ると、フリードリヒは妹の姿を見て眉をひそめた。


「———と思ったけれど。本当に無事だったか怪しいな」

「…少しは怪我もしましたけれどすぐに治してもらいましたから」


「フラン…」

はあ、とフリードリヒはため息をついた。

「やっぱり魔術師など危険な事は…」

「国を守るのは貴族の役目。殿下もそうおっしゃっていましたわ」

「だからといって。お前は女だろう」


「魔物の前では性別は関係ありませんわ」

前にミナが言った言葉を借りてそう言うと、フランツィスカは兄を見て眉をひそめた。



「お兄様は王宮で殿下の帰りを待たなくてよろしかったのですか」

「今日はその殿下の名代でアルトゥールと共に外へ出ていたんだ。直帰していいと許可も得ている。それでお前が森へ行っていると言ったらアルトゥールも心配してね、お前の無事を確認したいと一緒に帰ってきたんだ」

「…そうでしたの」

フランツィスカは自分の制服に視線を落とした。


「では着替えてからアルトゥール様にご挨拶します」

「…そうだな、そんな格好は見せない方がいい」

「では後程」

「ああフランツィスカ、夕食は?」

「森からの帰りの馬車の中で済ませましたわ」


「は?」

フリードリヒと執事が同時に声を上げた。



「馬車の中で食事?」

「お嬢様そんな行儀の悪い事を…!」


「仕方ないでしょう、戦えばお腹も空くもの」

ぷい、と顔を背けるとフランツィスカは自分の部屋へと戻った。





(本当に…貴族は面倒くさい)


部屋に入るとフランツィスカは制服を脱ぎ捨てた。

すかさず控えていた侍女がお湯で絞ったタオルで身体を拭き、ドレスを着せていく。


(私も寮に入りたかったな…)


そうすれば貴族の礼儀作法なんて関係ない、魔術にどっぷり浸かった生活ができるし…何よりミナ達と夜も一緒に過ごせるのに。


お泊まり会と称して、休日の前日に三人でベッドの上でお菓子を食べながら寝落ちするまでお喋りをして楽しむ事もあるのだという。

それを聞いて、どれだけ羨ましいと思った事か。


自分は貴族には向いていないのだとフランツィスカはつくづく思った。




(ミナ…大丈夫かしら)


森で倒れたミナは学園に戻っても意識を取り戻さなかった。

そのまま先生が寮へと運んで行ったが…明日には目を覚ますだろうか。


(そうよ、寮に入っていればミナの看病だって出来たのに)


フランツィスカが魔法学園に入る事に、家族は最初反対していた。

何とか通える事になったのは、フランツィスカの魔力はとても高く魔術団でも十分にやっていけるから是非にとハルトヴィヒから推薦されたからだ。

その代わり幾つかの条件を出されて、その内の一つが家から通い、貴族令嬢としての役目もしっかり果たす事だったのだ。


バウムガルト家は伯爵位だが、代々王家の侍従を務める由緒ある家としてその地位も高い。

フランツィスカにも相応の振る舞いを求められる。

それが正直、息苦しかった。


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