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02 記憶

「皆さんはこれから二年間、魔術師としてこの国を守るための術を学んで頂きます」


今日は入学式。

壇上では学園長が挨拶をしている。

それを聞き流しながらミナはこの世界の事を考えていた。


『マリーと秘密の魔法使い』

かつてミナが前世で遊んだ乙女ゲームだ。

この学園に入った元平民のマリーが、魔法を学びながら王子や高位貴族の子息達と恋に落ちる定番の内容だったが、ビジュアルが美しくかなりの人気が出て、公式からスピンオフ小説とそれを基にしたコミックが発売された。


その小説というのが衝撃的な内容で———ゲームのヒロイン、マリーは攻略対象全員を落とす、いわゆる逆ハーエンドを迎えたのだが。

なんと彼女は魅了の魔法を使う『魔女』だったのだ。


魅了魔法を解くには術者が死ななければならないとしてマリーは処刑されてしまう。

だが最期の瞬間、魔女マリーは『呪い』をこの国にかける。

そのせいで国中に疫病が流行り、魔物が増えたのだ。


スピンオフ小説は魔女マリーの処刑から約五年後が舞台。

魔法学園に入学したヒロイン、ローゼリアが聖女の力に目覚め、第二王子と共に魔物と戦い、国を平和に導き最後は王子と結ばれるという内容だ。



乙女ゲームのヒロインが処刑されるという公式にあるまじき設定に、発売当初はファンの間に衝撃が走ったが…呪いを引き起こした原因である乙女ゲームのメインヒーロー第一王子や、その弟の第二王子の苦悩などが丁寧に描かれ、なかなか好評だったのだ。

前世のミナも、小説、コミック版両方とも読んでいた。


(その世界に転生するとか…しかも悪役令嬢…)


ミナことヴィルヘルミーナは、宰相であるフォルマー侯爵の娘で第二王子の婚約者だ。

第二王子とヒロインが親しくなっていくのが許せず、嫌がらせをしたり危害を加えようとするのだが、最後は聖女を害しようとした罪で捕われる。

処刑されそうになったのだが、聖女ローゼリアの温情で貴族社会からの追放でとどまり、平民に落とされるという悪役だ。



(…でも私、もう平民なんだけど?)


ミナは内心首を傾げた。


確かにかつて、ミナはヴィルヘルミーナ・フォルマーという侯爵令嬢だった。

だが八年前に起きた事故をきっかけに自ら家を捨て…今日も平民ミナとして入学したのだ。

もちろん王子の婚約者でもないし、面識もない。


(うーん。どういう事なんだろう…)


視線を彷徨わせると、薄桃色の髪を捉えた。

———珍しいあの髪色。

きっとあれが〝ヒロイン〟なのだろう。


やはり存在したのか。

それに…

ミナは再び壇上を見上げた。


新入生代表として、第二王子アルフォンスの挨拶が始まった。


(あれが…私の婚約者になったかもしれない人)


燃える炎のように真っ赤な髪に、知性を宿した黒い瞳。

大人びた面差しには、十六歳にして既に王としての気品と風格がある。



小説の中でアルフォンスとヴィルヘルミーナが婚約したのも、魔女と関係がある。

魅了されてしまった攻略対象者の中に、当時の宰相の息子が含まれていたのだ。


魅了された者達は魔法が解けた後も復権する事はなく、宰相も息子の件やその後の対応に手落ちがあったとして失脚してしまった。

その後を継いで宰相となったのがヴィルヘルミーナの父、フォルマー侯爵だ。


また当時王太子であった第一王子ハルトヴィヒも、責任を取る形で王太子の肩書きを剥奪され、今は魔物討伐の中心である魔術団の副団長として国中を駆け巡っている。

代わりに次期王と目されているのが第二王子アルフォンスだ。

そしてアルフォンスと新宰相の娘を婚約させる事で、互いの権力を強めようとする…つまりは政略結婚だ。


(でも私は父が宰相になる前に家を出たから…)


今、王子に婚約者はいるのだろうか。

田舎の孤児院で暮らしていたミナには…あえて貴族社会の情報を耳に入れないようにしていたのもあるが、そのあたりの事情は全く分からなかった。



(まあ…ともかく。王子と聖女になるヒロインが存在するからきっと平和が来るはず。私はただの平民だし…彼らと関わらないように学園生活を送ろう)


挨拶するアルフォンスを見つめながら、ミナはそう決意した。

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