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18 初めての実戦

「出ませんねえ」

「いませんねえ」

「そろそろ別チームとの合流地点だな」


それからずっと森を進んでいたが、魔物に遭遇する事はなかった。

初心者向けの森だから魔物の数も少ないのだろうか。

そう思い…ミナはふと思い出した。


(確か小説でも…)


「…おかしいな、少なすぎる」

ライプニッツ先生が言った。


「ここは強くはないがそれなりの数の魔物がいるはずだ。学園の実戦でも毎回少なくとも五回は遭遇している」

「確かに…最近魔術団でもここは使っていないはずだな」

「はい」

ハルトヴィヒとエーミールが確認し合った。


(そう…あまりの少なさに皆が疑問を抱き始めた所で…)




「…上だ!」

アルフォンスが叫んだ。


ザワザワと頭上の木々の葉が揺れた。

見上げるとそこからキーという小さな声と共に降ってきたのは大量の…


(…ネズミ?!)


「いやあ!!」

叫ぶと共にミナの身体から水色の光が放たれた。


広がった光に当たったネズミに似た姿の魔物がぼとぼとと落ちてくる。


「いやあ!無理ぃ!」

「ミナ落ち着け!」

喚くミナの腕をライプニッツ先生が掴んだ。


「…アルフォンス!」

ハルトヴィヒの声にアルフォンスが剣を抜いた。



「消えろ!」


刃が金色の光に包まれた。

光が周囲へと広がると、地面に散らばった魔鼠の死骸が金色の光に包まれ消えていった。



「…これが浄化の光魔法…」

「魔物を消すのか…」


「ほら異常確認!」

初めて見たアルフォンスの光魔法に目を丸くしていたエドモントと双子は、ハルトヴィヒの言葉に慌てて周囲を確認した。




「ミナ、もう消えたから」

ライプニッツ先生はぐずぐずと子供のように泣き出したミナの頭を撫でた。


「…すみ…ませ…」


(ネズミじゃなかったのにい…)


小説でも大量の魔物が発生したが、それは魔犬や狐に似た複数の種類の魔物だったのだ。

まさか上から大量のネズミが降ってくるなんて。


「むかし…ネズミに噛まれて…それから…ダメで…」


ミナがまだ侯爵家にいた頃。

母親に閉じ込められた庭の用具庫でネズミに足を噛まれて高熱を出して以来、ミナはネズミが苦手だった。

養父の家や孤児院にもネズミは出たし、一匹二匹ならば耐えられるようになったのだが、それが大量に、しかも上から降ってくるとなるともう無理だった。



「そうか、誰にでも苦手はある。それを分かり克服するのも訓練の内だ」

「は…い…」

子供をあやすように頭を撫でられ、落ち着きを取り戻すと共に今度は恥ずかしさで一杯になったミナは、先生から身体を離すと涙で滲んだ目元を指で乱暴にこすった。


「ああ、ダメだよミナ」

ふいにミナの目の前に白いハンカチが差し出された。

「目を擦っては、傷がついてしまう」


顔を上げるとアルフォンスがミナを覗き込んでいた。

アルフォンスは手にしたハンカチでミナの目元をそっと押さえると、それをミナの手に握らせた。


「ほらこれで拭いて」

「…は…い…ありがとう…ございます…」




「———さすが王子様、こんな所でも紳士ですね」

「ミナさんもネズミが苦手なんてやっぱり女の子ですね」


「…けっ、ネズミが苦手な魔術師なんて恥ずかしい」

バルドゥルとエルンストが言い合う隣で、エドモントが呟いた。


「エド。そういうお前は克服したのか?確かクモが…」

「うわあっ」

慌てて言葉を遮ったエドモントにエーミールはにやりと笑みを浮かべた。




「———しかし、おかしいな」

周囲を見渡してハルトヴィヒが言った。

「これまでこの森で、魔鼠の大群など…聞いた事がない」

「そうですね」

「魔物が少なかった事といい…何か…」

次の瞬間、大量の魔物の気配を感じ一同は一斉に身構えた。



木々の間や幹の上、あらゆる場所に数えきれないほどの魔物がいた。


「何だこれ…」

「…全く気配を感じなかったぞ!」


「———これは学生の訓練の範囲を超えているな」

ハルトヴィヒは全員を見渡した。


「私が指揮を取る。光で先制、風が全体または複数攻撃、こぼれを火が倒せ。水は回復に専念、後衛はエーミールに任せてエドモントは攻撃に参加。アル!」

ハルトヴィヒの掛け声にアルフォンスが剣を抜いた。

剣を薙ぎ払うと金色の光が周囲へと放たれる。


「風!」

双子が目を眩ませた魔物達へと広域魔法を放った。


「くるぞ!」

風魔法で倒しきれなかった魔物達が咆哮を上げて襲いかかってきた。




「ひっ…」

初めて見る魔物の大群にミナは思わず悲鳴を上げた。


「大丈夫だよミナ」

ミナの頭に大きな手が乗せられた。

「初めてだから怖いだろうけれど、君は私が守るから人間だけを見て」

「…はい…」


パーティが壊滅しない為に重要なのは、唯一回復魔法を使える水属性の魔術師だ。

そのため水属性には護衛が付くことも多い。

エーミールはミナの護衛も務めてくれるのだろう。


(そうだ…しっかりしないと。私が皆を守るんだから)


ミナは口をぎゅっと結ぶと目の前で繰り広げられている戦闘を見据えた。


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