17 初めての実戦
「殿下は今日は帯剣しているんですね」
前方を歩くアルフォンスにエルンストが尋ねた。
学園内でアルフォンスが剣を持つ事はないが、彼のもう一つの属性である光魔法は剣と組み合わせる事でより強い効果を発揮すると、授業で教えられた。
「光魔法も学園では使いませんよね」
「ああ、光魔法は魔物を浄化するものだからな、目眩しにはなるが攻撃力は高くないから学園で使うのには向かない。それに教えられる教師もいないしな」
光魔法の持ち主は滅多に現れない。
アルフォンスの前に存在したのは百年以上昔の事だという。
「光魔法の持ち主が現れる時は、国に何かが起きる時だともいわれているね」
背後からエーミールの声が聞こえた。
「何かとは?」
「今の魔物が蔓延っている事ですか?」
「そう、それについてある可能性を考えていてね」
一同はエーミールを振り返った。
「アルフォンス殿下が産まれたのと同じくらいの時期に、魔女マリーに異変が起きていた事が最近の調査で分かったんだ」
「異変?」
「彼女は元々平民だったんだけど、五歳の時に高熱を出してね。それから周囲に奇妙な事を言うようになったらしい」
「奇妙?」
「私は〝ひろいん〟だとか、自分は本当は貴族の娘でやがて迎えが来て王妃になるんだとか…。貴族の娘だったというのは本当だったけれど、他の事はデタラメだったようだが」
エーミールはハルトヴィヒを見た。
「…あのまま我々が魅了魔法にかかったままだったら王妃になっていたかもしれないけれどね」
「———そうだな」
苦々しげにハルトヴィヒはため息をついた。
(え、待って…〝ヒロイン〟って!)
ミナは心の中で叫んだ。
(まさか魔女…乙女ゲームのヒロインも転生していたの?!)
それが本当ならば…魅了ではなく、ただヒロインはゲーム通りに攻略していただけではないのだろうか。
(でも呪いはかかって…疫病や魔物が増えたのは事実だから…?魅了魔法を使って攻略していた?魔女が日本人…?!)
「———待て」
ミナが混乱していると、アルフォンスが立ち止まった。
「いる」
アルフォンスの言葉にパーティの他の四人は一斉に身構えた。
前方に、三頭の魔犬がいた。
目が合うと一斉に唸り声を上げる。
「攻撃!」
アルフォンスの声に双子が前に飛び出すと同時に風の刃を放った。
風は鋭い音を立てて魔犬を斬りつけていく。
二頭が呻き声を上げて倒れたが、残りの一頭がこちらへ飛び出してきた。
すかさずアルフォンスが小さな炎の球を立て続けに放つ。
幾つもの炎が魔犬の首元へと当たると、残りの一頭も咆哮をあげて崩れ落ちた。
「三頭、絶命確認」
「周囲に異常なし」
双子とエドモントの声が聞こえた。
「———うん、いい感じだね」
見守っていたエーミールが口を開いた。
「アルフォンス。君達の戦略は」
「はい、数が少ない時は私とリヒテンベルガー兄弟が攻撃、二人は後衛。同時にエドモントが周囲に他の魔物がいないか見張り、ミナは人間側に異常がないか注視しあれば回復します」
ハルトヴィヒの問いにアルフォンスは答えた。
「基本通りだな、各自落ち着いているし動きも悪くない」
「魔術団のパーティに見劣りはしないね」
ハルトヴィヒと顔を見合わせてエーミールはそう言うと、五人を見た。
「じゃあ、次に魔物が出たら後衛二人に攻撃してもらうから」
「…後衛がですか」
「あらゆる状況を想定して役割を変えるのも訓練だよ」
「ですが今日は初めての実戦で…」
「彼らの能力は既に魔術団レベルだと報告をもらっているよ」
ライプニッツ先生にエーミールは言った。
「それに今日は我々が同行しているんだ。多少無茶をしても援護できるから」
「は…」
確かに、副団長のハルトヴィヒと、その参謀であるエーミールがいるのだし、この森ならば何かあっても対応できるのだろう。
「という訳で次はエドモントとミナ、頑張ってね」
「はい…」
笑顔でそう言うエーミールに、ミナは思わずエドモントと顔を見合わせた。