12 一組
「いい人たちが多くて良かった」
ミナは校舎を出て寮への道を歩いていた。
平民の自分がどう思われるか不安だったが、今の所好意的に受け入れてもらえているようだった。
確かにエドモントの発言はあったが、あの程度は想定内だし、それに孤児院にはもっと問題児が多かったのだ。
全くといっていいほどミナは気にしていなかった。
(フランとも仲良くなれそうだし)
代々の侍従の家という事は名家なのだろう。
そんな家の令嬢なのに騎士になりたかったり身分を気にしないというフランツィスカは中々変わっていると思う。
「…まったく、何なの一体!」
授業終わりに渡された魔術書に早く目を通したいと急いでいたミナの耳に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
(あれは…ヒロイン)
ローゼリア・リーベルがぶつぶつ言いながら歩いていた。
「小説と属性も違うし魔力だって少ししかないし。私ヒロインなのよ?!おかしいわ!」
(…ああ…やっぱり)
彼女も転生したのか。
ミナは確信した。
けれど彼女もまた、名前と容姿は小説通りだけれどその能力は小説と異なるようだった。
(一体どうして…)
「———それに悪役令嬢がいないじゃない!」
ローゼリアの声にミナはびくりと肩を震わせた。
「殿下には婚約者なんていないっていうし…。悪役令嬢がいなかったら恋が盛り上がらないじゃない!」
———彼女とは極力関わらないようにしよう。
気づかれないよう気配を消してミナはそっと離れた。
乙女ゲームのスピンオフだけれど、小説の方は恋愛要素は少なかった。
アルフォンスは最初ヒロインの事は優秀な魔術師として見ていて、恋愛感情を抱くのはずっと後の方だった。
ヴィルヘルミーナのヒロインへの嫉妬も、最初は自分よりも身分が低いのに魔力や能力が高い事への嫉妬だった。
(まず勉強を頑張って成績を上げないと殿下に認めてもらえないんじゃないのかな)
素性がバレるとまずいのでミナからローゼリアへそれをアドバイスするつもりはないけれど。
(ヒロインの事より…私も勉強、頑張らないと)
腕の魔術書を抱え直すとミナは急ぎ足で寮へと戻っていった。




