10 一組
「次は私の番だな」
アルフォンスが小さな火球を放った。
まるで矢のように、弧を描きながらいくつもの火球が飛んでいく。
ミナは水球を放ちそれらを消していくが、すぐにまた新たな火球が飛んでくる。
一つの火球は小さく威力も弱いとはいえ、同時に幾つもの火球を放つには相当の集中力と技術力が求められる。
こちらも優秀な魔術師でないとできない技だ。
だがアルフォンスは余裕の表情で炎の矢を操っていた。
「いちいち消していたらキリがないぞ」
ミナに向かってそう言うと、アルフォンスは口角を上げた。
反対にミナの口元が下がると、その瞳が強い光を帯びた。
アルフォンスが大量の火球を放った。
次の瞬間、ミナの身体が水色の光に覆われる。
火球はその光に触れる側から消えていった。
「…防御魔法もこなすか」
アルフォンスは更に笑みを深めた。
「ならば次は…」
「そこまで!」
先生の声が響いた。
「二人の実力は分かったから。それ以上は明日以降またやるから、戻ってくれ」
二人が戻ってくるのを見ながら、ライプニッツ先生は今の戦いを見て顔を強張らせている他の生徒達を見渡した。
「凹むなよ、この二人がおかしいんだから。なに、お前達も鍛えればあれくらいのレベルになれるからな」
苦笑いしながら先生はそう言った。
「へえ…ミナって凄いのね」
フランツィスカの話を聞いて、ハンナが目を丸くした。
「私もそんな風に魔法を使えるようになりたいなあ」
「三組はどんな感じなの?」
ミナがそう尋ねると、エマとハンナは顔を見合わせた。
「午前中は自己紹介と魔法の基本を学んだだけだから…」
「…でもちょっと…ね」
「ちょっと?」
「昨日、水晶の結果に文句を言っていた人がいたでしょう」
「…ええ」
ヒロインの顔がミナの脳裏によぎった。
「あの人、教室でも文句言ってたの。自分が三組なのはおかしいって」
「まあ、あの程度の魔力しかないのによく言うわ」
フランツィスカが口を開いた。
「三組が不満ならもっと魔力量を増やして魔法を使えるようになる事ね」
「魔力量って増やせるんですか」
「ええ、訓練次第でね」
フランツィスカの答えに、エマとハンナは顔を見合わせた。
「やった」
「頑張ろう!」
「二人は魔術団に入りたいの?」
「はい!…フラン様もご令嬢なのに魔術団に入るのですか?」
「———私、本当は男に生まれて騎士になりたかったのよね」
ふ、とフランツィスカは息を吐いた。
「他国にはいるけれどこの国に女騎士はいないし。でも私には魔力があるから、じゃあ魔術師になろうって。魔術団なら女でも入れるでしょう」
「…でも、フランは婚約者がいるんですよね」
朝のアルフォンスとの会話を思い出してミナは言った。
「結婚したらいられないのでは…?」
「そうね、一応結婚するまでは自由にしていいと先方と約束しているわ」
フランツィスカは答えた。
「だけど私を失ったら魔術団の大きな損失と思わせるくらいの魔術師になれば辞めなくても済むか…婚約自体がなしになるかもしれないから。頑張るの」
「…結婚したくないのですか?」
「婚約者様が嫌いなんですか?」
「婚約者はとてもいい人よ、私の気持ちも理解してくれるし。だけど私は自分の夢を諦めたくないの」
強い意志を秘めた顔でフランツィスカはそう言った。




