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チャプター2 犬たちと横になれば、 ノミとともに目を覚ます #1

「bellows-23へようこそ 転送装置の使い心地はいかがでしたか? ここはマルティニ社によって独占管理された惑星です」

 広大な空間に案内音声が流れる。少女が降り立ったこの場所はつまり空港だ。

 惑星間を一瞬で移動できる転送装置によってこの銀河の星々は結ばれ、僅かな金と時間で行き来できる。

 空港はシックで落ち着きのある暗めの色で統一されており、真鍮色の巨大なパイプが縦横に通り、むき出しの歯車があちこちで力強く動いている。


 歯車はマルティニ社の象徴だ。伝統的技術と格式、そして実用性と正確さ。それがマルティニ社の社是である。

 マルティニ社は古くから存在する銃器開発企業の一つで、幾つものパイプや歯車やガラス管を使った風変わりなデザインの銃器で有名である。

 その不思議な形状とは裏腹に非常に高精度であることが知られている。

 反面、特殊な部品が多いためメンテナンスが難しく、取り回しのしにくい面もあるという。


「ねぇー私急いでるんだけど・・・」

 入星管理窓口に並ぶ長蛇の列に少女は辟易し、通りかかった職員に文句を言った。

「申し訳ございません、今しばらくご辛抱ください」

「あっちのレーンはがらがらじゃん」

「あちらは当社の株主貴族様専用となっておりまして……」

「うぇー」

 少女はがっくりと肩を落とした。



「あーそれで 名前と年齢と渡航の目的は?」

 待つこと1時間、ようやく少女は管理窓口に座る中年の男の下まで来ることが出来た。

「名前はリベルタ・ドレッドホーク 年齢は10才と少し

 マルティニ社からのハンティングの依頼を受けて」

 少女は自分の名前を誇らしげに言った。


「ドレッドホークってあの伝説の男、ドクター・ドレッドホークか?てことは君が娘の?」

「そうそう」

「二年前の戦争でダレル社と戦った?」

「うん、8歳の時だね」

「フィスト・バンチ強盗団を一掃したのも?」

「それは6歳の時」

「わお!すげーな!ついこないだに君のパパを見たよ ああ、そういえば亡くなったんだったな…… すまない」

「いいのいいの、ガンマンが死ぬのは当たり前だもの さ、はやく手続きしてよ お腹ペコペコ!」


 手続き承認を終え、リベルタは空港を後にする。古めかしいフォルムだが格調高いクラシックカー風デザインのタクシーに乗りこみ、ハイウェイを走る。

 タクシーは無人で、行き先を伝えるだけで自動的に目的地へと着く仕様だ。

 窓の外ではゴシック調のビルディングからの照明が、夕闇に隠れようとする空を射抜くように照らしていた。


「そういえばパパも前にこの星に来てたんだったね まったく、私一人に仕事させてさ だからおっ死んじゃうんだよ……バカ」

「落チ込むナって 自由な奴ダったカらなあいツは」

 リベルタの銃に搭載されている支援AIが答える。かつては彼女の父親が所持していた銃だが今は唯一の形見だ。

「そういえばここで何してたの?」

「悪いガそイつは秘密ダ 機密指定サれていルから言えナい」

「ええぇーなによそれ感じわるーい」


 オートタクシーを降りた先は市街地だった、巨大なネオン看板にはサンドクリークへようこそとある。

 それが街の名前なのだろう。拡張を続けて入り組んだ薄暗い路地とレンガの道、ノスタルジックに赤く光るガス灯、行きかう馬車、そして不法居住者によるスリが名物の通りだ。

 リベルタは明るい大道りをあえて避け、薄暗い路地裏へと入っていく。


「盗品窟にイクなら気をツけろヨ」

「私がそこらの奴にやられる訳ないじゃん」

「違う、マルティニ社の兵士がうロついてルんだ、不法居住者を手当たリ次第ニ撃ってル そレに、最近ハお尋ね者ノ殺人鬼も居るっテ情報もあるゾ」

「へー、そいつをやっつければ賞金出るんでしょ?やったじゃん」


 華やかでいて洗練された空気感のあった空港や摩天楼とは一変し、路地の先は退廃と貧困に飲み込まれてしまった様な場所だった。

 崩れた道路に伸びた配管から立ち込める蒸気からは、ひどい悪臭がもれている。

 遠くに並ぶビルからのサーチライトと、二つある月の光だけが道を照らしていた。

 一般の市街地のどの建物もこの区画に向いた窓はつけていない。徹底的に廃絶された場所なのだ。


「タタ…… タタラ……? 社居留地……?」

 リベルタはひん曲がり、黒く汚れたブリキの看板を読み上げた。

「知らナいのカ? この星はマルティニが買収するマではタタラ社の持チ物だったンダ」

「タタラ社ってあのサイボーグニンジャ作ってる?」

「ソウ、あのタタラ社ダ こノ辺りの先住民トか、不法居住者とか言ワれてる連中は、見捨てラれた元タタラ社ノ社員なんダよ」

「へぇー」


 ZAPZAPZAP!!別の路地から銃声が響く

「コチラハマルティニ社ノセキュリティドロイドデス フホウキョジュウシャヘノ致死的攻撃ハホウリツで推奨サレテオリマス」

「あっちにもいるぞ! 撃て! 撃ち殺せ!!」

 3メートルほどの四本足の蜘蛛の様な機械と、山高帽にスーツ姿の数人の男が慌ただしく走り回り、あちこちでボロを着た住人を真空管ライフルで銃撃したりステッキで殴りつけている。

 マルティニ社の兵士たちによる過酷な迫害行為だ。だがそれを咎める者など一人もいやしない。

 リベルタはまったく興味なさげにさらに路地の奥へと入っていく。稀に視線を感じるが誰も襲ってくることは無かった。

 こんな路地裏をカウボーイ姿で歩く者は狂人かよほど腕の立つ者だ。

 どちらに関わってもロクな事が無いからだ。


「こいつは質がよくないね」

 真空管の並んだ顕微鏡のような装置を覗き込みながら、翁とも婆ともつかない老人が口を開いた。

 少女が立ち寄ったのは路地奥にひっそりと佇む故買商。リベルタが数時間前にゴアな肉の塊に変えた連中から失敬してきたものを売り払っているのだ。

「知ってる だけど数でつりあうでしょ?」

「へん、手間で赤字だよ」


 赤く光る砂粒が入った数十個のカプセルをいくつかの銃の部品と交換する。

 さて、少し長くなるがこの砂粒について説明しよう。

 この世界ではこの赤い砂粒が全てのものを支配している。金や命にも等しいものだ。

 生物以外の動くものは全てこの、あるいは単に石とか呼ばれる不思議な鉱石をエネルギー源としている。

 宇宙のあちこちの星でこれは見つかり、もちろんサイズが大きいものほど強力だ。

 先ほどの四足ドロイドや車や転送装置、サイバネティックホース、歯車もガス灯も、銃でさえも全てはこれがエネルギー源となっている。

 銃はこのアーチファッソルを銃本体に装着し、弾体を飛ばすかあるいはエネルギーそのものを加速して撃ち出すかするものだ。

 一万人を乗せた鉄の塊を銀河の端まで一瞬で飛ばす技術はあっても、この鉱石を合成したり、より効率的なエネルギー源を作ることはできない。

 そのためこの起源不明で貴重な鉱石の発見と採掘はとても重要な意味を持っているのである。

 説明終わり。


「まぁどうせあんたで最後の客だ あたしらぁここから逃げるでね」

「逃げるってなんで?」

「マルティニの連中さぁ あいつらまた間引きをやるんだ 何十年かに一度、ネイティブ達を殺しまくるんだよ」

「だからあんなに兵士たちがウロついてるんだ」

「だからここはもうお終いさ もっとましな星へいくよ」


 あんたが行ける様なマシな星なんてどこにも無いよ、とリべルタは思ったが口にしなかった。

 老人の店から出ると、ぼろを被った数人の子供たちが待ち構えていた。子供と言ってもリベルタよりは年上で背丈もずっと大きい。

「なぁお姉さん買い物してよ あんたガンマンだろ? ほらスコープあるよスコープ」「銃磨くよ 綺麗にする そのブーツも!」「タバコ要らない? タバコ!」

「あー…… 全然っ要らないんだけど……」

 それでも食い下がる子供たちに少女は苛立たしげに銃に手を掛ける。

「お、アのスコープは我等がサミュエル社ノ純正品だ 値打チもノだぜ」

「ライフル用でしょあれ ……はぁまぁわかったわよ タバコは吸わないしブーツは自動洗浄されるからそれも要らない でもスコープは買う それでOK?」


「やった! ありがとうお姉さん!」「かっこいい!」「髪の毛が綺麗!」

 子供たちの持つ電子端末に金を振り込む。この金で今夜彼らは暖かい食事と寝床にありつくのだろうか。そんなことを考えながら路地を大通りに向かって歩いていった。

「あーあー、無駄なお金使った…… まぁでも悪い気はしないけど さ、さっさとマルティニの事務所に……」

 その時、暗い路地裏に悲鳴が鳴り響いた。

tips1 タイトル インディアンのブラックフット族に伝わる言葉


tips2 マルティニ社 イギリスで使われたマルティニ・ヘンリー銃より


Tips3 アーチファッソル アーチの化石の意味

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