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アーチ #3

「故郷? どういうことだ?」

「エリーはここで生まれたってこと!?」

「違うわ、人類全部よ」

「全然わかんない! 説明してよ!」

「いいわ ……大変な事がわかったの」

女は静かに、ゆっくりと円柱型の部屋を回りながら語った。



「かつての人類は、今の様にアーチファッソルを使わずに暮らしていたそうよ 知ってる? 銃はカヤクという物を使って撃っていたの 車にはガソリン、家の電気には、セキユという物を燃やして使っていた」

「聞いたことない」

「お前の話はいつも遠まわしだな 何故使わなかった」


「アーチエネミーよ」

「またそれか」

「今調べて判ったのだけど、アーチエネミーは、どうやらアーチの力に引き寄せられるの 繁栄を謳歌していたアーチたちは突如、既知宇宙の外から現れた侵略者の支配を受ける事になった」

 エリーはそこまで言って黙ってしまった。リベルタもZERO-NEMOも押し黙った。


「つまり、アーチファッソルを使えば使うほど、アーチエネミーに襲われやすくなるという事よ かつてアーチは、また敵が襲ってくるのを恐れて自らその力を封印したのね」

「それで人類はアーチの力を使えなくなり、残ったアーチは石となったのか」

「そういうこと 冴えてるわねZERO-NEMO 私たち人類はずっと、ご先祖様の教えをやぶって、墓泥棒を繰り返しているって事ね」


「今の今まで誰も気が付かなかったのか?」

「遺跡に気が付いた人は居たわ 人型のアーチファッソルも見つかってるし、それがかつてのアーチだという推測をするのは難しくない でも遺跡のデータベースにアクセスできたのは私が最初よ アーチは支配者(アーチエネミー)たちから見つからないように、新しい人類を作り出して、アーチの力から遠ざけた

 でも人類は長い時間の中でアーチの事も支配者達の事も忘れ、その力を利用するようになってしまった そして銀河は、力こそが全ての世界になってしまったのよ」


「でもどうしたらいいの? 今更使わないでなんか無理じゃない?」

「そうね 今更原始人の生活に戻れなんてのは無理だわ それにおそらくもう遅い 多分支配者(アーチエネミー)はまた私たちを見つけているわ」

「じゃぁ戦うしかない! ねぇ、今石になってるアーチを元に戻せないの? 協力してもらえばいいじゃん」

「もっと時間をかけて調べれば戻す方法はあるかもしれないわ でも無理ね、私たちは一万年の間に沢山のアーチファッソルを掘り起こした

 それに今更、彼らを起こしてどうなると思う? 古代の化石人間の言う事をみなが素直に聞いてくれるかしら?」


「あーん、ちょっと無理そう」

「エンジェルレディ、お前はさっきから何を企んでいる?」

 ZERO-NEMOがリベルタを守るように二人の間に割って入る。エリーは目を一度伏せ、それからもう一度ZERO-NEMOを見た。その瞳には炎が揺らいでいる。


「この事はすべて公表するわ」

「そんな事したらまらダレルみたいなのが来るんじゃないの?」

「遅かれ早かれバレる事よ 銀河の全ての企業と、人々は備えるべきよ、支配者(アーチエネミー)に対して それに、誰も()()()()()に逆らう事は出来ないわ」


 空気が変わった。徐々に張り詰め始めていた空間が、決定的に変わった。ZERO-NEMOはゆっくりと間合いを測っている。彼女の企みに感づき始めたのだ。


「おい、オイオイ! オ前まサか!」

「アーチの武器を使う どうせ彼らは互いに歩み寄るなんて事はできないわ リベルタ、貴女は二年前の戦争でドレッドホークと共に戦ったでしょう?

 その時の戦いで何を学んだ? 敵を黙らせるには、何が一番良いと思う?」

「……銃で撃つ」

「そう、正しいわ 私も引き金を引く 私にはそのための力があるわ きっとアーチもこうなる事を予期して、私()()のようなエンジェルを残したのよ」

「待ってよ、落ち着いてエリー? あたしにどうしろって言うのさ!?」

「私と一緒に銀河連合を作るのよ 今こそ、全ての人々を纏め上げる強い力が必要なのよ アーチと、アーチの力で!」

 リベルタは眉をしかめ、たじろいだ。100人の敵が向ける銃口よりも、女のことがずっと恐ろしく感じた。女は続ける。


「私はアーチを再び蘇らせる、そして現人類との架け橋(アーチ)となる きっと人々は容易には従わないでしょうね、だけど問題は無いわ 力を見せ付けてやればいい ……本当はしたくないけれど、仕方ないわ」

 リベルタは首筋の毛が逆立つのを感じた。アドレナリンが分泌され、胸がざわつく。ほとんど無意識のまま銃に手をかけていた。次の言葉を言う前に、大きく息をはいた。


「そんな事、あたしが絶対許さない あんたなんかに、誰の自由(リバティ)も奪わせない」

「そうくると思ったわ まだ貴女は幼すぎる…… 私だってこんなことが本当に正しいとは思わない でもやるしかないの、それがエンジェルとしての使命だから」

 女が引き、部屋の中央の天体望遠鏡に近寄る。止めようとするリベルタとZERO-NEMOの前に、いくつもの球体が虚空から実体化し、行く手を阻んだ。女は二人に小さく頭を下げた後、部屋の中央で端末を操作した。

 女の居た部屋の中央部から大きな機械音が鳴りだし、周辺ごと上昇していった。


「クソッ! あイつ地上ニ出る気ダゾ! 二人とモ、ハヤく止めロ!」

「当然だ いくぞカウガール」

「OK!」


銃の出力は十分に上げた。

この旧世界の遺物をぶっ壊すには十分だ

ほとんど無意識のまま、体が最善の射撃ルートを割り出す。

頭で考えるより速く動く。

一度の射撃で数体の球体が破壊された。

球体から出る光線を、体をひねってかわす。

そのまま逆方向の球体を撃つ。


刀を抜き放ち駆けていた。

旧世界の異物を切り裂きながら進む。

スーツのAIが自動的に動作を先読みする。

最短の侵入コースが視界にハイライトされる。

一足で一気に球体を置き去る。

AIが効果的な投擲コースを指示する。

そのまま腕から伸びたフックロープを投げた。


「急げカウガール 置いていくぞ」

ZERO-NEMOは上昇する装置にフックをかけ、登っていく。

「今いく!」

リベルタは叫び、飛び上がると、球体に足をかけさらに飛び上がる。周囲に展開していた球体を足場に飛ぶ。しかし、ZERO-NEMOの周囲には球体は居ないため、明らかに飛距離が足りない。


「受け止めて! 出力全開!」

最後の球体を蹴ったあと、リベルタは後ろを振り返り、こちらに向き直った球体の群れに向かって全力の射撃を放った。反動で少女の軽い体は空中で加速し、残った球体たちを弾丸が貫通していく。


「Gotcha」

ZERO-NEMOはリベルタの手をつかみ、引き上げた。

「ナイスキャッチ!」

「もうすぐ地上だ あの女が何をするつもりかしらんが、ろくな事ではないだろうな」

「うん!止めなくちゃ!」



同時刻、全銀河に向けて、誰でもアクセス可能なオープンライン回線にメッセージが流れた。

<<この放送を聴く全ての人たちへ 私はアーチエンジェル  かつての世界を滅ぼした恐るべき敵が今また銀河に近づいている 私たちは、多いなる試練の時を迎えようとしてる 我らが祖先を支配していたアーチエネミーは再び我らを狙ってやってこようとしている それを防ぐにはアーチの力に頼るしかない アーチとアーチエンジェルの下に集い、備える時だ>>


<<信じない者もいるだろう だから今、アーチの力をここに示す 警告する、bellows-23 アーチの力を最も近く受けるだろう アーチの力を見よ>>


エリーの乗る装置は既に地上に出ていた。

ミサイルサイロのように左右に開いた遺跡の天井、つまり地上部分が閉まろうとしている。

「急いでZERO-NEMO!!」

リベルタたちの居る台座部分が眩い光を放ちはじめる。

「bellows-23が!」


ZERO-NEMOはリベルタを抱えて全力で柱を蹴りあげ、間一髪で閉まる天井を乗り越えて地上に降り立った。

だが装置はもはや止められなかった。エリーの乗る巨大な観測装置のようなそれが赤く輝き、振動する。

リベルタが銃撃するがバリアーにはじかれた。大きく、鈍い音が装置から響くと急激に光が収まる。


「ナんだ、何がオキた?」

「止まったの? ねぇグリップ君!」

「待テ! 今調べテ…… くそっbellows-23かラ応答がない!」

「なんだと……」

「待ってウィリアムは!?ウィリアムに繋いで!」

「判っタ! おーイ!聞こエるかウィリアム! オーい! おーイ!!」


<<………………zz………………zhzhzh……shush…………>>

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