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チャプター8 アーチ・エンジェル #2

人物紹介

リベルタ カウボーイスタイルの10歳の少女 凄腕のガンマン 

グリップ君 リベルタの使用するサミュエル社製拳銃に搭載されている支援AI カタカナ混じりに喋るのはこいつ

ZERO-NEMO リベルタに仲間を助けられ同行するサイボーグニンジャ 

サワー 老スナイパー サミュエル社のスタッフの一人

コードウェル サミュエル社の現社長 ダメな青年

エリー アーチの秘密を知る女性 コードウェルの妹

 サワー、コードウェルの二人と、他の三人は別行動となった。コードウェルは自分も行くといって譲らなかったが、エリーの説得に結局は折れた。


「兄さんのためにどれだけ人が死んでると思ってるの?」


 この一言でコードウェルは、もうそれ以上何もいえなかった。二人はまたすぐに会うことを誓い、シェルターを離れた。

 それぞれ他の、まだダレル社に見つかっていないセーフハウスへと向かうことにしたのだ。


「トにかく、休息が必要ダ リベルタは骨折ガ5箇所、裂傷も14箇所あルシ、打撲傷ダラけだ 体重も昨日より2Kgも落ちテる」


 AIのグリップ君が声を上げる。たしかにここ数日はハードな状況が続いていた。


「パパみたいな事いうなぁグリップ君は でもたしかに疲れた!」

「ていうかそれで良く動いてられるわね貴女…… 時間は惜しいけど、どちらにしても日が暮れるし、今日は休みましょう」


 そんなわけで一向は近場にある新たな()()の一つへと向かった。幸いな事にそこはダレル社の痕跡は無かった。

 ダレルのイカれたチンピラ達が来ていたらなら、そこら中を汚物だらけにされていたはずだ。

小屋の内装はやはりアンティークな山小屋、といった風情の漂うものだ。


「ねぇ食べ物あったZERO-NEMO?」

「ふむ、缶詰があったぞ たしかこれはこの星の特産品だな」

「バッファローステーキ!?」

「いいや、スナ・ツナの缶詰だ」

 と、ZERO-NEMOが差し出したのは、黒目がちな巨大マグロを、カウボーイがライフルで狙うというパッケージデザインのされた缶詰だった。


「えー!! ツナぁ!? ツナ嫌い!」

「あら、どうしてリベルタ? 美味しいわよスナ・ツナは 私が貴方くらいの頃は、よくライフルでスナツナ漁をしてたわよ、懐かしい」

「やだよ、魚とか気持ち悪いし臭いし それになにこの目、どこ見てんだからわからないしキモイ」

「酷い言い草だ ワタシの居たスラムではツナは高級品だというのに……」

「あーあー! もう何でどこにも()()()()()()が無いの!? あれがあれば何でもデジタル生成できるのに!」

「サミュエルの人間は、みんな変わり者なのよ だからこそ最高の銃が作れたの さぁリベルタ、食事の前にシャワーにいって来たらどう?」

「はーい」


 リベルタは膨れつつも、エリーの言葉に素直に従った。そしてその場でブーツを脱ぎ捨て、ついでに服を投げ捨てるように脱いでいく。

「ちょっと! はしたないわよ!」


 エリーの抗議の声には肩をすくめただけで、裸のままドタドタと駆ける様にシャワーへ向かった。

 リベルタは何度も死線をくぐった凄腕のガンマンではあるが、同時にまだ10になったばかりの子供なのだ。


「ねぇニンジャさん あの娘、いつもこうなの?」

「さぁな まだ出会って二日ほどだ」

 エリーは両手を広げて首を横に降った。



「ふあぁー! シャワーなんていつぶりだろ!」


 別荘の外見は文明の火が灯される前の、古めかしい木造ログハウスだが、設備はしっかりとしていた。

 シャワールームは自動洗浄されるため清潔で、カビ臭さもなければ、醜い虫が飛び出してくるようなこともなかった。

 端末を操作すれば、天井からミストのように湯が流れ出し、少女のなだらかな体を包むのだった。リベルタの肩には銃がホルダーごと掛けられている。銃は決して肌身離さない。これは習慣だった。


「やっト一息ツケるなぁリベルタ! しかシ、こいツは妙な仕事ダ あの女ハまだ何カ隠しテるんジゃナイか?」

「うーん、そうかもね でもそれほど悪い人には見えないけどなぁ」


 腕や首筋、顔などの服の外に出ている部分は日に焼けていたが、紫外線に晒されていない肌は白く、綺麗なものだった。

 銃痕や傷痕などもそれほどない。というのはマルティニ社で指を直した時に、ついでに体の傷跡も全部再生させたためである。

 ガンマンの生活はとてもハードだ。重傷を負うなど日常茶飯事であり、誰かに銃口を向けられない日のことを、ガンマンは()()()()()()と呼ぶほどだ。

 不条理な暴力が、当たり前に満ちた世界であるがゆえに、医療技術も当然のごとく発達しており、金さえ積めば死体以外は簡単に治すことができるのだった。


 リベルタはシャワー終え、今度は泡でいっぱいのバスタブに身を横たえた。少女は気持ち良さそうに、手で泡を体にこすりつけていた。

「もしアノ女が悪い奴ナらどうすスる、リベルタ?」

「うーん、そりゃそん時はバン! だよ、当然じゃん」

 少女はバスタブから突き出した手で、ピストルの形を作る。その指先から飛び出した泡の飛沫が、パチンと割れて空中に消えた。



「ZERO-NEMOはシャワーしないの?」

 リベルタは裸にタオル一枚かけただけの姿のまま、オイル漬けのツナの缶詰をフォークで食べながら言った。

 エリーは早々に彼女の躾を早々に諦め、「まるで動物ね」と言い残して先にシャワールームへ行ってしまった。


「不要だ ワタシのスーツには洗浄機能がある もとより、このスーツはこのまま長期間行動するのを想定している」

「やれやれ、あんたって本当に人間味ないねー レストランのロボットの方が愛想いいよ」

「戦士には不要なものだ ところでカウガール、お前はあの女をどう思う?」

「んー…… そうだね、グリップ君も言ってたけどなんか隠してる気はする でも嘘はついてないと思うしそれに……」

「それに?」

「なんだかわからないけど、親近感っていうか なんか懐かしいような感じがする 自分でも言っててわけわからないけど」

「意味不明だ あいつの事はあまり信用するな」


「ねぇ一個だけ聞いていいZERO-NEMO?」

「なんだ」

「歳いくつ?」

「……」

「ねぇそのくらい良いでしょ?」

「16だ」

「うっそ! もっとずっといってると思った!」


 その日の夜、リベルタは久しぶりにベッドの上で寝る事が出来た。隣のベッドにはエリー。

 ZERO-NEMOは志願して夜通し見張りに着いた。

 そういえば男か女かも知らないけれど、どうせ教えてはくれないだろうとリベルタは思った。


「ねぇエリー」

「なぁにリベルタ?」

 ベッドの中、包まった毛布から顔だけを出したリベルタがたずねた。この星には月がなく、しかも建物はジャングルの中に隠れているため、夜明かりは僅かだった。忙しなく鳴く虫と鳥の合唱と、時折遠くに聞こえる宇宙船のエンジン音が子守唄の代わりだ。


「あたしベッドって久しぶり! いつも寝袋とかだからすごい快適!」

「良かったわね ちゃんと寝て、明日に備えなさい」


「うん ねぇ例のその力って生まれた時から使えるものなの?」

「わからないわ この力は解らない事だらけなの でも私は訓練することでより力を引き出せるようになった だからそういう人もいるかもしれない」

「ふーん…… ダレル社をやっつけて、遺跡を取り戻したらどうするの? ずっと遺跡を守るわけ?」

「…… さぁ、わからないわ でも何かしら、誰も遺跡に近寄れないように何かするべきね」

 エリーの赤い瞳が蝋燭の炎のように揺らめいた。


「私からもいいかしらリベルタ?

「うん…… なぁに…?」

「ごめんね、もう眠い? 貴女のお父さんは伝説のドレッドホークなんでしょ?」

「うん」

「お母さんってどんな人だったの?」

「お母さんは居ないよ」

「居ない?」

「うん あたしはパパに拾われたから、この星で」


「この星で? リベルタ、もし貴女が……」エリーは言いかけてやめた。

 リベルタはもうすでに寝息を立てて眠っていたからだ。




 翌朝、一行は広大なジャングルの一角に築かれた、巨大な露天掘り鉱山にたどり着いた。見た目は古代ローマのコロッセオを、地面を下げて作った様に見える。

 まるで遥か古代に築かれた都市が、悠久の時を経て森に飲まれたかのような光景だった。

 鉱山には既に幾つものギター宇宙船が着陸しており、大勢のダレル社の兵士と、ほかにも様々な車両や重機と思われるものがすでに設置されていた。


「それで作戦はあるのか、エンジェルレディ?」

「なるべく気付かれ無いように中まで潜入しましょう できれば奴らの船を乗っ取りたいわ」

「えー、そういうの苦手なんだよなぁ…… あ」

 リベルタが何かを見つけ、傍らのエリーを小突いた。

「? 何か用……」


「おい、お前ら誰だ! とりあえず死ね!!」

 三つのネックを持ったギター型ライフル銃を構えたダレル社兵士は、猛烈な音量の歪んたギター音を鳴らしながら叫んだ。

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