チャプター6 New Found Glory #2
BLAME!
老スナイパーの放った弾丸は、しかし何も撃ちぬくことなく虚空に消えた。不運な小鳥か何かには当たったかもしれない。
「おじいちゃん?」
<<あー 実はここに来る途中でスコープを壊しちまってな! 全然見えんのじゃ! ハハハハハ!>>
「笑ってる場合じゃないでしょ! んもー! どうすんだよー!」
「全クこの年寄りハ…… オイそういエばあルじゃナいか、スコープ」
「ああ! そうだった!」
リベルタはZERO-NEMOと供に戦ったbellows-23で、少年ニンジャから買っていたスコープを懐から取り出した。
「まさかこんな所で役に立つなんてね」
「おじいちゃん受け取って!」それを銃の付きだす窓に向かって放り投げる。
<<おお! こいつはいいぞ! よしちょっと待っていろ……>>
「だから早くってば! もうそこまで来てる!」
梯子を登る少女の近場に敵が放った銃弾が命中する。リベルタの足の下ではZERO-NEMOが抜いたブレードで銃弾を切り捨てていた。
<<よしよし、よぉく見えるわい それじゃぁいっちょやったるか!>>
BLAME! BLAME!BLAME!BLAME!BLAME!BLAME!BLAME!
ライフルが連続で弾丸を放つ。今度はそのすべてが、迫るダレル社兵士の股間を正確にとらえていた。
「ひいぃ!!」「やべーぞ!」「女の子になっちまう!!」
股間を抑えて次々と倒れる男たち。
そのあまりにむごい惨状に、流石のラリったメタルヘッズ達も恐怖し、足を止めて互いに顔を見合わせる。
どうする?このまま突っ込むか?やっぱり逃げだす?それともみんなで写真でも撮るか?
男たちはどうやら逃げる事に決めたようだ。股間を押さえてうめく者たちを置き去りに、散り散りに去っていく。
「ああ久しぶりだリベルタ! さぁ顔を見せてくれ!」
樹上の構造物に上がったリベルタは、カウボーイスタイルの老人に出迎えられた。痩せて長身で、喉まで伸びた長い白交じりのヒゲを蓄えている。
両腕は金属のパイプが突き出す義手となっており、顔の目にあたる部分はいくつもの種類のガンスコープが覆っていた。
壊したと言っていたのはこのスコープのことのようだ。
「サワーおじいちゃん! 会いたかった!」
「久しブりだナ、じいさン!」
リベルタは年頃の少女らしく、老カウボーイに飛びついて親愛を示す。老カウボーイも孫娘にするように満面の笑みでそれを出迎えた。
「そこに居るニンジャは?」
「あいつはZERO-NEMO なんていうか、まぁ今は協力してくれてる」
「おおそうか、それならあんたも兄弟だ わしはサワー、よろしく頼むぞ」
ZERO-NEMOは小さく、うなづくように会釈で返した。
「ところでコードウェルおじさんは今どこ? まだ生きてる?」
「ああ、多分な 母屋は奴らにぶち壊されちまった だからどこかの別荘にでも隠れてるんじゃろうよ」
「とりアえず、状況を教エてくれ爺サん 何がどウなっテるんダ?」
老カウボーイ、サワーはリベルタを下ろし、獣の皮をあしらった木製の椅子に座りこんだ。
何もかもがデジタル精製で簡単に作る事ができる世の中に対して、彼らは多くのものを手作りしている。それが彼らの美徳なのだ。
普通であれば動物肉のステーキが食べたいのなら家庭用の、マターコンパイラーと呼ばれる精製機があればそれに入力するだけで、まさしくできたてのステーキが精製される。
コンパイラーの無い地域や彼らのようにオーガニックを好むものだけが実際に銃で獣を撃ち殺し、その肉を剥ぎ取って調理する。それはどちらかというと偏屈な人間のする事だ。
「突然、奴らが攻撃してきた 警告もなしにだ」
「奴らはサミュエル社も攻撃していた 明らかな違反行為だ 企業協定を破れば、相応の制裁を受けるはずだが何故そこまでする?」
「さぁな、まったくわからん うちのバーボンは美味いからそれを狙ってるのかもしれんな! とにかく、最初の奇襲で大勢を失った、元々うちは少人数でやっとる ほとんどみんな銃を作る職人で、わしが職人頭じゃ みんな家族みたいなものだった…… それが……」
「そんな……」
首を落としてうなだれる老カウボーイ。珍しいことにリベルタも意気消沈した様子が見える。
「まァとニかく、コードウェル坊やヲ見つケないトな 奴らヨり先ニ」
「そうじゃな あのドラ息子が死ねば、サミュエル社はなくなる そしたらわしも無職じゃ」
「ねぇおじさん、まだ引き篭もってるの?」
「引き篭もる?」とモノアイを明滅させるZERO-NEMO。この中でコードウェルの事を知らないのは彼だけだ。
「ああ、相変わらずな コードウェルは父親のクリストファーが死んでからダメになっちまった 毎日酒浸りで、銃も磨かん それでもわしら職人が何とかやっていたんだがなぁ」
「なるほど それで、他に仲間は?」
「わからん わしは丁度、一人で狩をしていたからな 途中で連絡のついたものたちも今は繋がらん……」
「じゃぁあたし達だけでおじさんを見つけて、どっかに隠れないといけないってこと?」
「ソういうコッたなァ! こイつはハードコアな一日ニなりソウだ!」
「よし、それじゃぁ行くとするかのう」
「行くってどこにさ?」
「あいつの居そうな所にだ この三人ならダレルと鉢合わせになったとしても突破できるじゃろ」
「了解! それじゃぁ先にいくよおじいちゃん!」
「ああ、気を付けろよ」
新たな展望を見つけた少女は、いつもの調子に戻り、干し肉を噛みながらさっさと部屋を出てはしごへと向かう。
ZERO-NEMOは、窓から外を眺めたままのサワーに、怪訝そうに首をかしげてモノアイを明滅させる。
「あんたは来ないのか、オールドカウボーイ」
「ふんっ、わしは梯子なんぞ使わん」
そう言うとサワーはやおら窓に足をかけた。するとダスタコートが背中で左右に割れ、次いで幾つもの小片に別れていく。
「わしには翼があるからな」
カウボーイのコートに見えたそれは変形型の飛行装置だった様だ。猛禽の翼のように変形したそれを使い、老カウボーイは空へと舞い上がった。
「雉もいたな」
ZERO-NEMOはひとりごち、梯子から下へと降り立った。