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チャプター4 サンドクリークの戦い #2

 咳き込みつつ、埃を被った船の機関部に降り立った老人は、愛しげに壁やシャフトにふれて歩く。

「まさか、またお前に乗る事が出来るとはのう」

 老人は一人ごちると立ち止まり、足元に合った指先ほどの小さな手裏剣を拾い上げた。


 伝統あるタタラ社の鞴マーク。それはタタラ社の社員証バッジだった。

 老人は指で手裏剣を磨き、首元にそれを取り付けた。

 そしてその場に正座すると懐から取り出した皮袋を開け、中に入っていた、幾つものカプセル入りアーチファッソルを広げた。

「この時のために集めてきた…… 我らが誇り、見せてやろうぞ」

 老人は神聖なる儀式を行った。金の香炉に火を灯し、自らの顔を赤い顔料でペイントし、大鷹の羽を頭巾に刺す。

 そして厳かに赤く輝くカプセルを鞴型のエンジンにくべたのだった。



 -----------------------------



「ヒーハー!何これめちゃくちゃ楽しい!ちょっと臭いけど!!最高!」

 少女はしゃいでいた。金属とスポークでできいていない、生きた本物の馬に乗るのは初めてだったから仕方ない。

「ちょっとお姉さん、はしゃぎすぎだよ……」「これから戦いに行くのに、そんなんでいいの!?」

「だって本物の馬なんて初めてだもん! あーこの子可愛いなっ! 連れていけないかなっ!?」

 リベルタは馬の首に体を預け、鬣に頬をこする。いたく気に入った様子だ。


「オイオイ、連れテくって、ドうするつもりダよ どウせ世話とか出来ナいダロ! それに俺はこウイう予測出来なイ動作ヲするヤつは嫌いダ」

「はー!こんなこうるさいガミガミ銃より君がすきだよー」

「遊びに行くんじゃないんだぞ、カウガール 少し静かにしていろ」


 実際、一人旅暮らしのリベルタと違い、まさに故郷や縁者が死の危機に瀕しているのだ。本当の所は気が気じゃないはずだ。

「ああ、その…… ごめん」

 ZERO-NEMOと少年ニンジャ達の重たい空気を感じ、素直に謝罪した。

 街が近くなるにつれて状況が少しずつわかってきた。幾筋もの煙が、かすかに見える街の輪郭を覆い隠し、その上空には光の弾を撃ち出すギター宇宙船の姿が見える。

 状況はかなり逼迫しているようだった。


 先頭を走っていたZERO-NEMOが急に馬を止めた。何か見つけたのだろうか、視線の示す先を見るとそこには列を成す人々の姿が見える。

 みな薄汚いボロを纏い、焦燥に駆られた不安な顔をしていた。明らかに都市の一般市民でもマルティニ社の者でもない。

 ならば逃げてきたスラムの住人であろう。


「どこへ行くのあんたたち?」

 リベルタが声を掛ける。何故敵がそこに居るのに銃を持って戦わないのか、彼女にはまったく理解できないのだ。


「どこへもいけない だが火に撒かれるよりはマシだ」「突然爆発が起きて、妙な奴らが宇宙船から降りてきて俺たちを撃ったんだ」

「あそこはもうだめだ」「マルティニも皆死ぬ」「どこに逃げればいい?」

 みな恐怖に支配されていた。スラムの住人たちは、最早生きることすら半ば諦めているような様子だ。少女はいらだった。


「はぁ、逃げる? 何言ってんだよ! あんた達今まで逃げも戦いもしないで、あの臭くて薄汚いスラムに居たんでしょ!? 今さらどこに逃げるつもりよ!

 そんなの、すぐに獣かなんかの餌になるに決まってる 何で戦わないわけ?」


「無理だ皆殺される! それにマルティニの奴らも追い出される」「今は逃げて隠れているべきだ」


「それで、マルティニの次はダレルの奴らのブーツを磨くわけ?アホくさ 私は戦いに行くわよ 別にあんた達のためじゃない そこに気に入らない奴がいるから! 一人残らずやっつける! あんた達はそこで見てなよ」


 啖呵を切って一人、馬を進めようとするリベルタをZERO-NEMOが静止した。いぶかしむ少女の顔を、金属の指で触れると、少女の頬に赤く光る筋が入った。それを見た避難民たちにどよめきが起こる。


「これなに?」

「我らがクランの戦士の証だ 戦士同士が互いに認めたものだけが資格を持つ お前にはふさわしく、この者たちにはふさわしくない」

 ZERO-NEMOは冷たく光るモノアイを人々に向けると、少女と共に馬を進ませる。三人の少年ニンジャもそれに従った。

 避難民たちは皆額に皺を作り、互いに顔を見合わせていた。


 --------------------


「我こそはぁ無限の死! 空を覆う殺戮の機械! お前たちに死を与えよう!!」

 男はベースギターを手に、喉の声帯全部に痰が絡んだような酷いダミ声で叫んでいた。

 背中には巨大なアンプとスピーカーを背負い、従順なるヘヴィメタルの信奉者たる兵士たちを従えていた。


 酷くゆがんだギターの音と、最早リズムを成さないドラム音、ほとんどノイズのようなベース、そして狂った歌詞の歌。

 常人には理解しがたいが、彼らダレル社の社員はこの騒音に歓声を上げている。

 これは敵の士気を下げ、味方の士気を鼓舞する役目を果たしていた。

 暴力的な音の中で、半狂乱状態となった男たちは、銀河でもっとも凶暴で危険な集団となり、あらゆる者を破壊し蹂躙する。

 狂気の軍団には一切のモラルは無く、予想不可能であった。


「今こそ暗黒の炎が人間たちを焼きつくすぅ!! 火を降らせ! 火を降らせ!」「アーライ!!」「火を降らせ! 火を降らせ!」「アーライ!!」


 --------------------


「くそっくそっ! ダレル社の狂人どもめ!なんでもかんでもぶっ壊しやがる!本社に連絡はついたか!?」


 ウィリアムが自ら指揮するマルティニ社のオフィスビルは、苛烈なダレル社の攻撃になんとか持ち応えていた。

 マルティニの兵士たちは皆、青か黒のスーツをきっちりと着込み、整然とした行動で知られる精兵だが、無秩序な奇襲攻撃に全く成すすべ無く後退を余儀なくされていた。

 しかしビル全体をカバーする強力なバリア装置は健在で、タレットによる反撃でいくつかのギター宇宙船を破壊することに成功していた。

 だがおそらくは彼らの旗艦であろう一際巨大なVの字型の宇宙船には敵わず、じりじりと追い込まれていた。


「それが、ダレル社はかなり広範囲に艦隊を投入しており、増援には時間がかかると……」

「総攻撃をかけているのか!? マジで狂ってるのかあいつらは!」

 KABOOM! そうしている間にも、爆弾を両手に掲げた裸の男達がマルティニ社のスーツ部隊に突入していく。

 マルティニの兵士は手には、真空管と歯車とパイプから成る精巧で複雑な、彫刻のごとき銃を持ち規律正しく銃撃をしている。

 対照的にダレル社の兵士は革のジャンパーであったり、中世の戦士のような姿であったり、裸であったりと全く統一性はない。

 そしてただ闇雲に突っ込んで来ては、死ぬまで引き金を引き続けるのだった。


「住民は避難してるか!?」

「無理です! いたるところにダレル社の兵士が居て何もできません!」

「これ以上殺させるな! 査定に響くぞ!」

「街の北部側の部隊と連絡が途絶えました…… もはや我々だけです!」

 その報告にその場の誰もが終わりの時を考えずには居られなかった。ひしひしと近づいてくる狂気を、死を。

「ここはもうだめですウィリアム部長! オフィスの中へ避難してください!」

「馬鹿者! ここが落ちたらどうせ終わりだ! ああぁくそ!! 誰か助けてくれ!」




 果たして、彼の願いは聞き届けられたのだろうか。

 街を望む丘の上、太陽を背に少女とニンジャが乗る馬が現れる。

 その手には拳銃と剣とがそれぞれ握られている。

 続いて三頭の馬とその背の少年ニンジャ達。


「さぁ!やっつけに行こう!」

 さらに遅れて丘を埋め尽くす人の影が現れた。逃げ出したはずの避難民たちだ。皆覚悟を決め立ち上がったのだった。


「ねぇZERO-NEMO」

「なんだカウガール」

「音楽選ばせてあげる」

「ならトランスだ」

「げっ」

「ハッハッハッ!気ニいっタぜあんた! トランスは最高ノ音楽ダ」


 サンドクリークの戦いが始まった。

Tips1 アーライ! アーライ!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今の若い子にはトランス(サイケ・ゴア・プログレ)はダサいって・・・モヤモヤする。 [一言] まぁ、こっちもk-popやら48やらを聴くのは無理なんだなぁ。
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