愛
重い話になります。
変わらないこの日々が、好きだ。
マリーは俺を我が子のように可愛がってくれる。両親に見放されているから、俺は貴族らしい生活なんてできなかったけど。マリーのおかげで、毎日幸せに過ごせている。
そして、俺がこの世界で生まれて、三年がたったとき。
唐突に、日常は破壊された。
◇◇
おはよう、と挨拶をする。
マリーと沢山話しをして、いっぱい笑って。
そんなある日、いつもはマリーしか入ってこない扉から、父親が入ってきた。
もちろん警戒したけど、まだどこか甘かったのかな。ついてこい、と言われて、のこのこついていってしまったんだ。
その後のことは、どこか他人事のようだけど。
俺は地下牢らしき場所に幽閉されて。
拷問された。
何故か、なんてよくわからなかった。
それまで一切関わって来なかったし、特に理由がある訳でもなかった。
強いて言うなら、機嫌が悪かったから。仕事が上手くいかず、腹立たしかったから、かもしれない。
一通りの拷問は受けたさ。
爪を剥がされる、鞭で打たれる。冷水をかけられる。火で焼かれる。殴られる、蹴られる。
死なない程度に、じわじわと苦しめる、そんなやり方で。
痛かったよ。苦しかったし、憎かったし、寒くて、寂しくて、どうしようもなかった。
でも、何よりも堪えたのが、マリーに会えなかったこと。
その後のことを考えると、もう二度とマリーと顔を合わせなかった方が、幸せだったのかもしれない。
拷問を受け続けて、精神が不安定になっていた時。マリーが、地下牢にやって来た。来て、しまった。
彼女は、ひたすらに俺に謝った。助けられなくてごめんなさい、痛かったでしょう、苦しかったでしょう。今、ここから出しますからね。私と一緒に逃げましょう。と、そう言ってくれた。
嬉しかったけど、何よりも、ここにいてはマリーが危ないから、逃げてって言った。
奴等に気づかれないように、できるだけ小声で、でもしっかりマリーに伝わってくれるように。
しかし、無情にも、地下牢への扉は開いてしまった。奴が、来てしまった。
◇◇
マリー。マリー。
どうか、どうか返事をして。
お願いだから。
お願いだから、返事をして。
マリー。マリー。
喉が張り裂けそうになっても、呼び続けた。
マリー。マリー。
まりー。
まりぃ。
ま…りぃ…、ま、
り、
まり、、ぃ、
いくら、呼んでも。泣いて、哭いて、叫んでも。
マリーは、返事を、してくれなかった。
あぁ、あ、ぁ。
これが、これが、報いだと言うのか。
この世に生まれてきた、忌み子への、罰だっていうのか。
それなら、それなら。
傷つくのは、痛いのは、苦しいのは、俺だけで良かったのに。
どうして、ドウシテ。
マリーが、マリーが。
傷つかなければならなかった。苦しまなければならなかった。
死ななければ、ならなかった。
なぜ、マリーが。
性奴隷のように、扱われなければ、ならなかった。鞭打たれなければならなかったんだ。
指先から、削がれなければ、ならなかったんだよ。
あぁ神さま。あなたというひとは。なぜ、何故マリーを苦しめた。どうして、どうして?
あ、あ、もしかし、て。
俺が、おれが、いたから?
私と、一緒にいたから?
あ、あ。わるい、のは。
マリーが、きずつかなきゃならなかったのは、
……………わたしの、せい、なんだ。
「……………………………こ、っ、、ほ、。」
あ、まりぃ。ま、りぃ。
「お、嬢さ、………ぼ、ちゃ、、
あ、ぁ、
わ、たしは。
自分、で ここ、に」
まりーの、こえ。まりー、マリー。
―貴方のせいではありません、だって、だって、私めは。
「愛、 して、
い ま、、す。
あい、
して いま、 す
ぁ、わた、しの」
―わたしの、かわいいこ。わたしの、こども。
あいしています、あいしているわ。
わたしの、わたしの、かわいいこ。
そういって、マリーは、
亡くなった。
ぁ、あぁ、ああ。
マリー。マリー。
私、も、おれも。
あなたが、だいすき。
あいしています。
あいして、います。
マリー。マリー。
わたしの、おれの、おかあさん。
ありが、とう。ありがとう。
愛してくれて、ありがとう。
ありがとう、ごさいました――――――――。