生きる
どうも、生後一週間の、赤ちゃんです。
え、一週間も何してたかって?
そりゃ寝てたよ。ぐっすりと。
今は意識がハッキリしてきたところ。
生後一週間にして、色々と分かったことがある。
まず一つ目。どうやら男の子らしい。催した時に、ね。見てしまったんだ。あれを。
二つ目。親に見棄てられたらしい。なんか、黒髪黒目が珍しいそうな。私―いや、もう俺、か。俺を通して悪魔を見たらしい。所謂『忌み子』だってさ。
まぁそんな状態だから、下手に俺を刺激すると何が起こるかわからん、ということで。
捨てられること、殺されることはなかったけれど、育児は放棄するみたいだ。
んで、なんでこんなにピンピンしているかってことなんだけども。今俺は侍女さんに育ててもらっている。
なんでもこの侍女さん、つい最近お子さんが産まれたんだけど、死産だったそうで。
生まれてきた俺と、かつての我が子が重なったらしい。そうしたら、いてもたってもいられずに、『私が育てます。』と進言して、今に至ったそうだ。
意識が朦朧としている時だったけど、そう語りかけてくれたことを覚えている。
何はともあれ、彼女が育ててくれなかったら今ここに俺はいないから。
本当に、感謝してもしきれない。
それから、名前もつけてくれたんだ。
『カナリリア』
―それが、俺の名前。
ん?それ女の名前じゃないか、って?
そうだよ。カナリリアは女の子の名前。
俺に女の子の名前がついたのには、理由がある。
あれはいつだったかな。あー、そうそう、確か生後五日くらいの時。侍女さん―マリーという―が、俺を庭に連れていこうとしてくれた時のことだった。
なんと、部屋から出た瞬間に、女の子になった。いや、まじで。
バチッって音がして、俺はビックリしすぎて漏らした。マリーも驚いたらしくて、その場で俺のおしめを変えようとした。テンパりすぎた。
おしめを外すとあら不思議。
男児として、そこにあるべきものが、なかったのだ。
マリーは呪いだとか何とか言ってたけど、まぁそういう体質なんだと思っている。
そんなこんなあって、両親は俺の性別なんて確認してなかったし、部屋以外じゃ女の子になるし。じゃあもう女の子として育てた方が良いだろう、とマリーが判断したから、俺は女の子の名前になった。
あ、俺がそこそこ大きくなったらだけど、マリーはちゃんと俺に全てを話すつもりだったみたいだ。
そして三つ目。異世界転生した。
俺がここを異世界だと断定した理由、その一。
文字が違う。強いて言えばアルファベットに近いけど、文法とかがまったく違う。
その二。人の身にはありえない色彩。
なんだよ深緑色の髪って。ワカメかよ。
その三。魔素と呼ばれる極小の粒子。
一気にファンタジーになったね。この世界にはあって当然の物。空気中に漂っている。魔法もあるよ。マリーが使ってた。
転生っていうのは、本当にそのまんまの意味。
前の人生―前世で死んで、こっちで生まれたからだ。ちなみに華の女子高生だったんだぞう。交通事故で死んだんだけど。
心残りは色々とあるけれど、今となってはもうどうしようもないから、俺は俺の人生を生きていくつもりだけどね。
まぁ色々とすべきことはあるんだけれど、今はまだ、マリーとの生活を楽しみたい、と思ってる。