6 冷たい戦争
気がついたら前回の更新から1ヶ月も経ってました......。目指せ、完結。
彼女とはもう長いこと会っていない。世情が彼女との邂逅を許さなかった。
大きな大きな戦争が起こり、彼女は俺の元へ帰って来られなくなったのだ。
いや、その言い方では少し語弊があるだろう。彼女の帰る場所はもうここにはないのだから。彼女が選んだことだ。俺にはもう何もできない。だが、当時はそうは思えなかった。自分がもはや彼女にとって害にしかならないということを認められずに、ただただ戦争を恨んでいた。空路で1日もかからないのに、とまるで戦争が悪いかのように俺は自分から、音楽から目をそらし続けていた。
彼女と別れてから俺はあの日のように窓を開けて、乾いた寝床の中で、毎週のように彼女を想った。彼女のあの白と黒のコントラストが美しい肢体を月の光の中で毎晩のように組み敷いたことを想い、凪いだ海のように人の泣き声すら呑み込む静寂に満ちた海にも似たあの音を想った。だが、それも冷たい戦場に出るまでの話だ。現にあれから何十年も経ち、彼女のことを想い出さなくなっても俺は今も生きている。
彼女との別れは必然だったのだろうか。もしも酷い戦争が起こらずに、俺が外国へ渡った彼女を飛行機に乗って追いかけることが出来ていたら、何かが変わったのだろうか。俺は何かを変えられた?
俺は、今もヴァイオリンを弾けていたのだろうか。
そんな無意味なことを考えても仕方のないことだとは分かっている。
だが、一つ確かなことがある。
俺は戦争に利用され、彼女は戦争すら利用してみせたということ。
俺にとって音楽は、想い出だ。