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2 夜の夢
彼女はよく言っていた。
「窓ってあればあるほど入る光が多くなるでしょう?でもね、」
彼女は少し言葉を切ってじっとこちらを見つめる。月の光に黒髪がぼんやりと浮かび上がってそれがとても印象的だった、彼女。
「本当はそれは間違いだって気がついたの。ちょっと言い過ぎかもしれないけど。」
「いつもの哲学かよ。」
「あはは、そうかもね。窓から入るものは光だけじゃない。風に運ばれてきた塵や、小さな羽虫とか強すぎる光の影に隠されてはいるけれど、確かに一緒に入ってくるんだよ。私達は光に目が眩んでいるの。」
俺は彼女が続けようとする言葉がわかっていた。
「だから、夜が好き。だろ?相変わらず意味わかんないな。」
「正解。」
彼女はくすっと楽しそうに笑って、大きく夏の夜に向かって開け放たれた窓辺に背を預けてこちらを見つめて、言うのだ。
「君は、そうでなきゃね。」