女神様は仕事をやめたい
「あのクソババアめ!!」
私は誰もいない空間で悪態をつく。こんなことを言っているがこれでも一応女神である。
異世界に転生する人の案内役のようなものだ。
「あなたは死にました。しかし私が異世界に転生させてあげましょう」
みたいなこといってるあれだ。
この仕事がまぁめんどくさい。 何人も相手にして、何回も同じ台詞を言う。
こんなもん神がやらなくていいだろ! 機械でもできるわ!
そう思って上司に訴えてみたりしたが、
「そんなこと言ってる暇あったら仕事しろ! 人手がたりてねぇんだよ!」
と怒鳴られてしまった。
これでも私はちゃんと働いている方である。死んでこの空間に送られてくる人が少ない時には、ちゃんと書類仕事もしている。
――え? 神様に書類仕事なんかあるのかだって?
これがありまくりなんだな。転生させる候補の人間も、送る先の世界もまとめておかないといけない。
なにより転生候補の人間がいつ死ぬのか、私たちにも分からない。これが一番の問題である。
転生候補が死ぬと魂がこの空間に送られてき、それを異世界に送るのだが、魂の状態では長くもたないのだ。 例えばお風呂に入ってる時に転生候補が死んだと連絡が入ると、のんびり入っていられないのである。
なにがすきで髪も乾かしてない状態で異世界転生の案内をしなければいけないのか。
だいたい私がこんな仕事についているのは、あのクソババアもとい現上司である上級神キャシーのせいである。
――私は元々とある世界の小さな村で信仰されていた、たいした力もない女神だった。
村には小さな教会一つしかなかったが、村の人々は毎日祈りを捧げに来てくれた。私にはあまり力がなかったのでせいぜい作物の実りを少しよくしたり、少しだけ病気にかかりにくくすることくらいしかできなかった。
しかし毎日子供からお年寄りまで祈りに来てくれるので、私は満足していた。村の人々を見守り少しだけ力を貸す、素晴らしい仕事だった。
しかしそんな平和な日常は長くは続かなかった。
と言ってもさっき言っていた、上級神のキャシーが来ただけで村人たちは皆元気に、今も私がいない教会に祈りいっている。
私の平和な日常が終わっただけで、村は平和なので安心してくれ。
キャシーが最初に来た時は、私もちゃんと敬意をはらっていた。
一応神である私には自分よりもはるかに力を持つ神だとわかっていたからだ。
それがなぜクソババアと呼ぶようになったかって?まぁまずはその時の会話をきいてくれ。
「あなたのような大きな力を持つお方がなぜこのような小さな村に?」
「私たち神は今大きな問題に直面しています。問題の解決の為に少しでも人手がいるのです」
「それで私を誘いに来たということでしょうか?」
「はい、どうか力を貸していただけないでしょうか」
て具合に妙にへりくだってお願いしてきたわけだ。それも自分より断然偉い人が。
まぁ人じゃなくて神だが。
「しかし私にはこの村があるので……」
「村のことなら安心してください。これでも神の力はかなりのものですから」
「しかし……少し考える時間をもらえないでしょうか?」
「事態は急を要するのです。どうか、お願いします。あなたの力が必要なんです」
てな具合に勢いで押しきられてしまった。
自分より断然偉い人に頭下げられて、あなたの力が必要なんですとか言われたらことわれないだろ。
で連れてこられたのがここだったわけだ。問題ってのは仕事が山積みなことらしい。
最初のころは仕事も丁寧に教えてくれたし、これが大きな問題なのか疑問はありつつもがんばっていた。
しかしある程度仕事を教えてもらった後、急がしいからと丸投げされ、分からないことを聞きに行こうにも怒鳴られる始末。
そして大量に与えられる仕事。
あまりの変わりぶりにその時は、偽物だとおもったものだ。
まあ今思えば山積みの仕事の上に、新人教育なんてしてられなかったのだろう。
新人は私一人だったしそこまで時間をかけるのは、効率が悪いだろうしな。
なぜ人手不足なのに私しか新人がいなかったかというと、ある程度力のある神は他で仕事をしている。ちなみにここよりよっぽどホワイト企業である。
あまり力を持たない神は、以前の私のように大きな仕事はないが、もっている力が少ないのでみつけずらいのだ。
私がここにきてから新しく入った(私と同じように連れてこられた)のはたったの2人である。
ホワイト企業で働いていたのに、他の会社の社長に直接お願いされ断れず入った会社はとんでもないブラック企業だった。という状況だ。
いくら自分より偉い神様でもクソババアっていいたくなるわ。実際にウン万歳とかだしな。
と文句を言ってる間にもどうやら転生候補が死んでこっちに来るようだ。
「なになに……佐藤俊二 18歳 送る先はと……」
文句はおし殺して満面の笑みを張り付け、仕方なく今日も仕事をするとしよう。
「あなたは死にました。しかし安心してください。私が異世界に転生させてあげましょう」