第六話 新発見
~2100年4月9日 8:30 首相官邸~
私が非常事態宣言を発令して早二時間が経とうとしている。学校や空港は閉鎖、生徒の移動はUS1~3に制限など様々な安全対策が完了しつつあるとの報告が上がってきている。
「統括学園長、システム管理課の東部長からお電話です」
近藤が通話中になっている携帯を差し出してきた。私は「ありがとう」と言いながら電話に出た。
「私だ。どうした東。」
「お疲れ様です統括学園長。それが至急報告しなければならないことがありまして。今お時間よろしいでしょうか」
東の声は震えていた。相当大きな発見なのだろう。しかし発見して嬉しいというものとは違って恐怖の感情が伝わってくるような声だった。
「あぁ、大丈夫だ報告してくれ」
「はい。先ほどUG3 システム管理課から連絡がありまして…」
「UG3 のシステム管理課からだと?ということはいい知らせではないな」
UG3といえば彼らからの報告だ。さすがに対応が早い。
「ご察しの通り良い知らせではありません。実はサイバー攻撃は外部からではなくNPOC内部からのものだというログが確認できたそうです。つまり…」
私は悟った。NPOCの中にスパイが紛れていることを。
「つまりNPOCに居る120万人の中に潜伏しているスパイがいるということだな」
「はいその通りです。ですのでシステム管理課としては内部からのサーバーアクセス停止を要請します。統括学園長はご存知と思いますが停止すればC-payを含むすべてのライフラインが使えなくなります。しかし事が事ですのでご決断を」
確かにライフラインが使えなくなればあの島に住む120万人の生活に支障が出てしまう。だがそれ以上に困るものがNPOCにはある。
「分かった。内部からのサーバーアクセスの停止を許可しよう。そして非常事態対策チームを発足する。関係部署の者に連絡を入れておいてくれ。あと東」
「何でしょう統括学園長?」
「対策チームに入れてほしい生徒が二人いるのだがいいか?」
~4月9日 8:45 NPOC UG2 高速道路~
優芽の自動運転車に揺られること一時間弱。ショッピングモールまであと少しというところで悪いニュースが飛び込んできた。
「全生徒・職員に連絡します。こちらはシステム管理課です。ただいまの時刻よりC-payを含む全てのシステムが利用不可能になります。システム復旧作業に伴うものです。皆様にはご迷惑をおかけしますが何卒ご理解お願いします。以上システム管理課からでした」
C-payが使えないということは買い物ができないということだ。ショッピングどころの話ではない。つまり今日のショッピングも中止だ。
「えぇー。C-payが使えないんじゃショッピングできないじゃんかー」
優芽は本気ではぶてている様子だ。
「残念てすね。ても仕方ありません。学生寮に帰りましょうか」
「そうだな。ここにいても何もできないしな。ほら優芽はぶててないで帰るぞ。」
「わかった…」
優芽のやつ本当に楽しみにしてたんだな。システムが復旧したら連れてきてやるか。俺がそんなことを考えているうちに自動運転車は帰宅の途に就いた。
~4月9日 10:00 US1 学生寮~
「ごめんな明衣。無駄な時間使わせちゃって」
「謝らないてください。車の中で皆さんとたくさんお話出来てたのしかったてすから」
明衣が微笑みながら言った。
「私も楽しかった!次こそショッピング行こうね明衣ちゃん!」
「はい優芽ちゃん」
こうしてショッピングは終わったのだった。明衣と別れ俺と優芽は寮に向かって歩いていた。
「貴君もごめんね。付き合わせた上にショッピングもできなくて」
「明衣も言ってただろ?別に優芽のせいじゃないんだから気にするなよ」
俺の言葉を聞くと優芽の顔に笑顔が戻った。やっぱり優芽には笑顔が似合う。
「山本 貴文君と西郷 優芽さんかな?」
急に後ろから名前を呼ばれ、俺と優芽は振り返った。
「あんた誰だ?」
俺たちの後ろにはスーツに身を包んだ男が立っていた。
「あっ、すまないね。私は東 時雄。ここのシステム管理課で働いているものだ」
システム管理課?あぁ、今回のサイバー攻撃の対処に当たっているはずの部署だ。
「で、システム管理課の方が私たちに何の用ですか?」
優芽も明らかに警戒している様子だ。
「二人とも、そんなに警戒しなくてもいいよ。実は今回の非常事態宣言を受けて対策チームが発足したのだけれど、統括学園長、優芽さんのお父さんから君たち二人もこのチームに加えてほしいとの要望があってね。だから迎えに来たんだ」
「お父さんが?」
優芽はまさか親父さんの名前が出てくると思っていなかったのだろう。少し困惑している様子である。
「優芽の親父さんのお願いなら聞きますけど、危険なことではないんですよね?」
「あぁ、そこに関しては問題ない。君たちの安全は私たちが保証するよ」
この東という男、どこか胡散臭い感じもする。でも優芽の親父さんのお願いだから俺たちは要請を受けることにした。
「それではついてきてくれ」
そういわれ東の後について歩いていたが案内されたのは行き止まりの路地だった。
「あんたやっぱり俺たちを騙したのか?」
俺は優芽をかばうようにしながら東を問い詰めた。
「まさか。ちょっと持ってね。」そういいながら電気のメーターに東が腕時計を近づけると
ガッシャンウィーンガッシャン。行き止まりと思っていた壁が開き道が続いていた。
「ここから先は一般の生徒や職員は立ち入りできないんだ。私や優芽さんのお父さんのようなNPOCを管理するつまり裏方の人間が仕事をするNPOCの司令部さ」
十二年もこの学園に通っていたがこんな施設があるなんて知らなかった。
「わぁー!すっごい。かっこいいね貴君!」
優芽は隠し扉に目を輝かしていた。
「さぁ、行こうか」
俺たちは東に導かれNPOCの司令部に足を踏み入れた。
第七話に続く