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絶海学園  作者: 浜 タカシ
第四章 あなたの願いと私の夢
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第六十四話 夢の終着点(後編)

前書きとして、先日京都府・京都アニメーションで起きた放火事件について、亡くなった方のご冥福をお祈りするとともに、けがをされた方の早期回復をお祈りします。

また、ご家族の方の気持ちを考えると、非常に胸が締め付けられる思いです。

容疑者は小説をパクられたなどと供述しているという一部報道もあり、まだ事件の全容解明には至っていませんが、小説を書くものとして、人に夢、明日生きるための希望を与えることのできる小説がこのような事件の火種になってしまったことが非常に悲しい限りです。

我々小説の書き手は、読者の皆様が自分の小説を開いてくださり、少しでも面白いと思ってくださることが喜びと考えています。容疑者の身勝手な行動は一人だけで償いきれるものではありません。

今後も小説を書くものとしての責任をしっかりと持ち、皆様に夢や希望を少しでも持っていただくことができる作品を執筆してまいります。


~2100年7月16日 14:00 西郷家~

宣戦布告、つまり事実上の開戦まであと8時間。俺はNPOCからとんぼ返りで鹿児島の西郷家まで、今度は親父さんと一緒に戻ってきた。


「おかえりなさいませ、旦那様、貴文坊ちゃん」

「近藤、出迎えありがとう。早速だが、父の部屋へ」

「要件は聞いております。お二人ともこちらへ」


そう近藤さんへ案内され、俺は3年ぶりに優芽のおじいさんの部屋の前に立った。


「私も父の部屋に入ったことはない。生前も決して入れてくれなかったし、遺言で入ることを禁止されていたからね。覚悟はいいかい、貴文君」


この先に、世界を救う何かがあるのかもしれない。何年も眠ってきた、この部屋には独特の雰囲気があった。


「少し緊張しますが、大丈夫です」

「よし分かった、近藤開けてくれ」

「畏まりました」


そういって近藤さんが鍵穴に鍵を差し込む。ガチャっという鈍い音がした。


「開きました」

「ここが父の部屋か…」


優芽のおじいさんの部屋は、研究品であふれている。という事ではなく、不気味なほど物がなく、壁沿いに一組の机と椅子、そしてパソコンが置いてあるだけだった。


「なにもないな…」

「あのパソコンつけてみてもいいですか?」

「あぁ、構わないよ」


親父さんの許可をもらい俺は電源を入れた。20年近く前のパソコンだろう、今、俺たちが使っているパソコンよりも大きく、起動にも時間がかかる。

しばらく待っていると、そこにはこんな画面が現れた。


―――――


パスコードを入力してください(あと4回)

〇〇〇〇〇


―――――


「パスコード、親父さんは知ってますか?」

「いや、父からパスコードを聞いたことなんてないよ」

「何か思い当たるパスコードは?」


すると、親父さんの口からはおばあさんの誕生日や、親父さんの誕生日、はたまたおじいさんの誕生日までもが出てきたが、どれもパスコードではなかった。


―――――


パスコードを入力してください(あと1回)

〇〇〇〇〇

(ヒント)愛美


―――――


あと一回になった時、ヒントが出てきた。


「愛美?」

「私の母、つまり優芽の祖母の名前だよ。でも私が小さい時に亡くなってしまったからね」

「…」


〇は5個、そしてヒントが愛美。でもおばあさんの誕生日ではなかった、となると何だろうか…。

俺はもう一度おばあさんの遺言を思い出した。

全ての子供が安全で、楽しいそんな学校を作る事。安全で楽しい…。


俺はNPOCでの日々を思い出した。

友達と一緒にバカやって、先生に怒られた事。池のほとりで釣りをして遊んだこと。

なにより、優芽がいて、優芽の泣いた顔、怒った顔、笑った顔、いろんな優芽を見ながら、でもいつでも、どんな時でも笑いあって、笑いあって…。

いつでも俺の周りには笑顔があふれていた。


Ⓢ〇〇〇〇


でも、毎日が楽しい日々ではなかった。辛いこともたくさんあった。

池に落ちた優芽を助けられなかったあの日。俺は心に誓った。命に代えても優芽だけは守ると。


Ⓢ〇〇Ⓛ〇


でも、その約束も守れなかった。優芽を革命国に連れ去られてしまった。またあの手を掴むことができなかった。

辛い辛い3か月だった


ⓈⓂ〇Ⓛ〇


でも、助け出すことができた。優芽の顔を見た時は胸がはちきれるんじゃないかと思うくらいうれしかった。ただ嬉しかった。

優芽が泣いて、「怖かった」と言った時は申し訳ない気持ちになった。


ⓈⓂ〇ⓁⒺ


そして彼女が笑ってくれた時、幸せだった。彼女のぬくもりを感じられた時、もう一度誓った、優芽は俺が守ると。この笑顔は誰にも壊させないと。



「親父さん、僕パスコードが分かりました」

「ほ、本当かい、貴文君!」


―――――


パスコードを入力してください(あと1回)

ⓈⓂⒾⓁⒺ

(ヒント)愛美


―――――


「Smileつまり、笑顔って事かい?」

「おばあさんとの約束は結局、全ての子供たちが笑顔でいられることじゃないですか?」

「全ての子供たちが安全で、楽しい学校生活…、確かにそうかもしれないね」

「だから笑顔じゃないか、そう思ったんですよ」


俺はそう言いながらエンターキーを押した。画面が切り替わりディスクトップが映し出される。そこには一つのファイルがあった。


「動画ファイル?」

「再生してみてもらってもいいかい?」

「はい」


俺は動画ファイルを開いた。そこには白衣を着た、お年寄りが映っている。


「親父…」

「つまり、優芽のおじいさんなんですか?」

「あぁ、私の父、西郷駿だね。何年ぶりに顔を見ただろうか…」


『純一、久しぶりだな。この動画を見ているという事は世界が危ない。そういう事であろう。

まず、本題に入る前に感謝を言っておこう。私はこのパソコンのパスコードを「Smile」とした。これは私と愛美の約束の終着点が、全ての子供たちの笑顔である。そう考えたからだ。

よく、パスコードを解除してくれた。本当にありがとう。

さぁ、本題に入ろうか。きっと私に助けを求めようとするという事は、第三次世界大戦やそれに続く大戦が起ころうとしている、もしくはそのさなかに今置かれているのだろう。

私は戦争を止めることはできない。すまない。

でも、戦争の恐怖を伝えることはできる。平和な世界のすばらしさを伝えることもできる。』


動画はここまで言うと、急に切れてしまった。


「どういう事だったんですかね、最後」

「すまない、私にはわかりかねるよ」

「動画ファイルの下に何かのシステムファイルがありますね」


俺はそのシステムファイルをダブルクリックした。

すると、世界が急にまばゆい光に包まれたのだった。


―――――


「ん…?ここはどこだ?」


光が収まり、目を開けるとそこはどんよりとした雲が空を覆う、不気味な街中だった。


バンバンバン、ドガァーン…。


「なんなんだ?」


俺は目の前で起きていることが信じられなかった。爆撃機によって、町が火の海になり、そこら中で人が銃殺されている。まるで…


「まるで、戦争だ」


そうつぶやくとまた眩い光が世界を覆った。

目を開けると、そこはさっきまでとうって変わって、広い平原一面に花畑が広がる何ともきれいな世界だった。


「すごい…」


俺は思わず声を出してしまった…

そうすると、また眩い光が世界を覆うのであった。


―――――


再び目を開けると、そこは元のおじいさんの部屋だった。


「貴文君、今変な夢見なかったかい?」

「親父さんも見たんですか?」

「あぁ、戦争と、花畑だったよ」

「僕もです」


いったいどういう事なんだ。

『今体験してもらったのはARMMO、覚醒状態のまま仮想世界を体験できるものだよ。SARの応用版と考えてほしい。ただ、SARと違うのは、今の体験を全世界、地球上にいるすべての人間が同時にしたという事だ。だから皆、戦争の恐怖と平和のすばらしさを体験した。

人は恐怖を一度味合えば、二度と体験したいとは思わない。逆に感動を一度味合えばもう一度感動したいと思う。そんな生き物なんだよ』


「すごいな、おじいさんは…」


~2100年7月17日~

結局、その後の連合国会議で宣戦布告案は破棄、その代替として連合国と革命国の平和協定が採択され、今日にも革命国に申し入れられるという事だ。


おじいさんとおばあさんが願ってきた夢の終着点がよりよいものとなって嬉しい

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