第六十一話 遺言
「だから、攻撃されているように見えたのに無傷だったんですか…」
「そうだね。SARと自動防衛システムを組み合わせて先ほどは防衛に当たったんだよ」
「なるほど…なんとなくは理解できましたが、どうしてこんなすごい機械がこんなところに…?」
「それは、私の父親と母親について話さないといけないね」
―――――
~2050年 春~
「西郷博士、この研究の論文はいかがなさいますか」
「それは…あとでまとめるから置いておいてくれ」
「ちゃんと後でやってくださいよ」
「あはは…後でな、後で」
私の名前は西郷純一。物理学者だ。
「お先に失礼するよ」
「お疲れ様でした」
巷では天才物理学者と言われているとかいないとか、そんな私だが、研究室で寝泊まりするとかいう事はしない。
「おかえりなさい、あなた」
家に帰ると、愛する妻が出迎えてくれるからだ。
私の妻、西郷愛美と私は高校時代の同級生だ。まぁ私と妻のなれそめは良いとして、妻は中学校の教員をしている。
お互い忙しい仕事で一緒に旅行に行ったりすることはでいないが、夕食は必ず二人で食べることにしていた。
小さな幸せだが、私たち夫婦にとっては十分すぎるほどの幸せだった。
そんな私たちにも子供ができた。男の子だった。子育ては大変だが、息子の成長を見るのが楽しみだった。
私たちの周りには小さな幸せであふれていた。
~2052年 秋~
でも幸せはそう長くは続かなかった。
妻が産休から復帰し早半年。彼女も充実した日々を過ごしているようだった。
そんな彼女の心配事が彼女のクラスのある生徒の事だった。
「あの子、クラスになかなか馴染めていないみたいなの。私も何とかして仲良くしてほしんだけどね」
「あまり子供たちに干渉しすぎるのもよくないと聞くよ。ある程度の距離感を持って長い目で見守ってあげてもいいんじゃないかな_」
「そうよね…」
この時すでに彼女は不安を感じていたんだろう。私は彼女の不安に気づいてあげられなかった。
~2053年 3学期初日~
学生たちにとっては長い正月休みが明け、少し憂鬱な日であろう、始業式の日。
私も大学の研究室でいつものように研究に明け暮れていた。
プルルル。電話が鳴りだした、見ると妻からだ。彼女はめったなことがない限り仕事中に電話を掛けてこない。どうしたのだろうか。
「もしもし」
「純一さん…」
「どうしたんだ?何かあったのか…」
「あの子が…」
彼女が気にかけていた子が自殺した。
長期休暇の後、子供たちの自殺が増える。これはよく言われることだが、彼女の気にかけていた子もその一人となってしまった。
後に分かったことだが、やはりその子はクラス内で悪質ないじめにあっていたらしい。
妻の不安は的中していたのだ。
そこからの彼女は、生徒を助けられなかった自分を責め続け、ついには仕事を辞めてしまった。
鬱になり、日に日に元気のなくなる彼女を見るのが辛かった。
そんな彼女は鬱から寝たきりになってしまった。
医者から余命を宣告された。
癌だった。
そんな彼女の最後の言葉を私は忘れることができない。
「私はあの子の苦しみをわかってあげられなかった。気づいてあげられなかった。ねぇあなた、最後に一つだけ私の願いを聞いてもらってもいいですか」
「…あぁ、言ってごらん」
「すべての子供達が安全で、未来に希望を持てるような学校を作ってください。これが私の最後の願い、そして遺言です」
かすれて、消えるような声だったが彼女は確かにそういった。
これが彼女の最後の言葉だった。




