第五十五話 ようこそ鹿児島
皆さま、ただいま鹿児島空港に着陸しました。天気は晴れ、気温32度とのことです。隊勅を崩しませんようご注意ください。飛行機が完全に停止するまではお席を立ちませんようご協力ください。本日も太平洋航空609便にご搭乗くださりありがとうございました。
~2100年7月15日 9:30 鹿児島空港到着ロビー=
「帰ってきたよー鹿児島!」
自動ドアが優芽の動きに合わせ開く。途端に熱気が押し寄せてくる感じだ。
「暑いな。優芽、そんなにはしゃいで暑くないのかよ」
「うん大丈夫!」
振り返りながら親指をグッと立ててくる優芽、いやでもな
「そんなに汗かきながら言われても、説得力ないぞ」
「そうだ貴君!」
「うん?」
「ようこそ鹿児島へ!だね。えへへ…なんか恥ずかしいね…」
「そ…そうだな…」
くっ、一瞬でも今のぴょこっと跳ねながら「ようこそ鹿児島へ!」って言われて、可愛いと思ってしまった自分が情けない…。
「ほら二人とも、ただでさえ暑いんだからあまりイチャコラしないで頂戴ね」
「なっ!」
「お袋さん、ちょっと語弊がありませんか⁉」
「貴文君がそういうなら、そうかもしれないわね。じゃあ…愛を確かめ合ってる?」
「おんなじことだよお母さん!」
「うふふ、二人とも本当にいい反応するわね」
「あんまりからかわないでください…」
「えぇーいいじゃない。楽しいわよ?」
「お母さんだけね⁉」
「まぁ茶番はこのくらいにして、そろそろ迎えが来てると思うのだけれど…」
「奥様、優芽お嬢様、貴文様、お待たせいたしました」
お袋さんの茶番劇が終わったと思うとロータリーに黒塗りの高級車が横付けした。車から出てきた人は全身スーツで決めている。見ているこっちが暑い…。
「お迎えご苦労様、近藤」
俺たちを迎えに来てくれたこの人は西郷家の世話人である近藤さんだ。昔から優芽の家に行くときは欠かさず迎えに来てくれ、滞在中は身の回りの世話を何から何までしてくれる。それに加え、屋敷の家事全般を全て難なくこなす、凄腕世話人、それが彼だ。
「長旅お疲れ様でございました。外は暑いですので体に毒です。車にどうぞ」
「えぇ、ありがとう」
「さぁ、家に向けて出発だよ!」
~9:45 E3九州自動車道(を走行中の車内)~
「貴文様が鹿児島に来られたのも久しぶりですね」
「ですね…前はいつ来たっけな…」
「お二人が中等部1年の夏だったと記憶しております。確か前回は台風のおかげで屋敷から一歩も出ることができず、優芽お嬢様が『もぉー!夏の思い出が無くなっちゃったよ!』と終始ご機嫌斜めだったかと」
「本当に近藤さんの記憶力には敬服だよ…」
「えっ…」
「どうしたの貴君…?」
「お前…『敬服』なんて言葉なんで知ってるんだ…。まさか偽物…」
「んなわけあるか!」
「痛い痛い!分かった、お前は本物だ、本物の優芽だよ」
「分かればよろしい」
こんなに力が強い怪力女は他にいないだろうからな。
「た・か・ふ・み・く・ん?」
「ひっ!」




