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絶海学園  作者: 浜 タカシ
第一章 国立太平洋学園の潜伏者
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第二話 異変

「すべての子供たちが安全で、未来に希望を持てるような学校を作ってください。これが私の最後の願い、そして遺言です」かすれて、消えるような声だった。


~2100年4月8日 15:00 US1 噴水公園~

入学式も無事終わり、優芽とバイキングに行くため俺は待ち合わせ場所に指定された噴水公園に来ていた。その名の通り噴水がメインの公園で緑豊かである。噴水は毎時間30分に吹き上がるらしい。まだ15:00になったばかりだから、吹き上がることはないだろう。高等部の寮からも近いので毎朝ランニングにでも来ようかなと考えていると前からよろめきながら走ってくる人影が見えた。

「おーい、貴くーん。お待たせ!待った?」

「10分くらい待った」

「もぉー、そこは『いや、俺も今来たところ』ってイケボでいうところでしょ!」

優芽は頬を膨らませながら冗談ぽくいった。

「なるほど。優芽は俺にそんなことしてほしいのか。ふむふむなるほどなー」

俺はしきりにうなずいてみせた。

「何勝手に納得してるの!」

「ほんと優芽はからかいがいがあるよな。」

俺がおなかを抱えて笑っていると

「もう貴君なんて知らない!ぷい」

拗ねてしまった。優芽がこのモードになると面倒くさい。機嫌を取らないと。でも何を言えばいいのだろうか。改めて優芽に視線を移す。今日の優芽は水色のワンピースに白色の厚底の靴を履いている。いつも履かないような靴を履いているからさっきよろけてこけそうになってたのか。でも、こうしてみると優芽ってかわいいなぁ。

「おーい貴文さん。私怒ってるんですけど」

低い声で優芽が言った。優芽が「貴文さん」と俺の名前を言うということは本当に怒っている証拠だ。おれは優芽の機嫌を取ろうととっさに

「優芽、お前あれだな、なんていうか、あれだよあれ」

といったものの続く言葉が恥ずかしいことに気づき俺は思はず口を濁した。

「あれって何?はっきり言ってよ」

「だからあれだって。今日の優芽、かっ、かっ、かっ、」

「さっきからかっかかっかうるさいよ。いうならはっきりして」

「だから、かっ、かわいい」

俺は噴水の音にかき消されてしましそうなくらい小さな声でボソッとつぶやいた。

「へぇっ?貴君今何って言った?」

優芽は頬を真っ赤にし、目を真ん丸にして聞いてきた。驚いているようだ。

「あぁー!もう何でもない。ほら行くぞ」

俺は恥ずかしさからこの場を一刻も早く立ち去りたくなった。でも優芽はここぞとばかりに、

「ねぇーもう一回言ってよ。貴君が言わないなら優芽が言うよ『優芽、かわ…』」

「あぁぁぁぁぁー!聞こえませんね。何言ってるんですか」

「もう貴君。昔から照れ隠しが下手だよね」

「べ、別に照れ隠しじゃないし」

あー超絶恥ずかしい。なんであんなこと言ったんだろう。黒歴史がまた増えた…。

「ほら、貴君ぼーっとしてたら置いていくぞ?」

「はいはい、待ってくれー」


~16:00 US1 各層環状線US1駅~

俺と優芽は噴水公園から歩いて駅まで移動してきた。1.5kmほどあっただろうか?

「貴君、おなかすいてきた?」

「まぁ、こんなだけ歩けばな。優芽お前は?」

「優芽はペコペコすぎて倒れそう」

優芽はおなかをさすりながら冗談ぽく言った。

「2番線に到着の電車は各層環状線下りUS3駅行きです。危ないですから黄色い線の内側にてお持ちください」電車の到着を知らせるアナウンスが鳴っている。

ふと思えば優芽と二人で遊びに行くのもひさしぶりだ。

「貴君、乗るよ!はやくしないと全部食べられちゃう」

「心配しなくても大丈夫だよ。バイキングなんだからたくさん作ってあるだろうし」

「食べ物の恨みは怖いよー。」

「特にお前の場合はな」

「もぉー!貴君のバカ」

俺は優芽にポカポカと殴られながら電車に乗り込んだ。


~17:00 US2 バイキングレストラン「トーマト」

US2は商業エリアで、様々な店やレストランが立ち並んでいる。俺と優芽は昔からなじみの「トーマト」という店に来ていた。

「いらっしゃい。あっ、貴文くんに優芽ちゃん久しぶりだね」

小柄なこの女性は井上 さくらさん。この店の店主だ。俺と優芽は小等部時代からの常連である。

「こんばんは!さくらさん」

夜にこんなテンションで挨拶するのは優芽くらいだろう。俺が少しあきれていると

「うふふ。まぁ座って座って」

さくらさんが席に案内してくれた。

「今日は優芽ちゃんの好きなパスタをいっぱい作っておいたわよ」

「ホントですか?もう我慢できない!貴君、優芽料理とってくる」

優芽はパスタに目がない。ドタドタと走りながら料理を取りに行ってしまった。

「相変わらず元気ね優芽ちゃん。貴文君も元気にやってる?」

「はい。でもまぁ僕の場合は優芽に振り回されているだけですけどね」

「二人は昔から本当に仲がいいわね。」

「そんなことないですよ」

などと会話していると両手に皿いっぱいに盛り付けられたパスタを持った優芽が戻ってきた。

「ねぇー早く貴君もとってきなよ。私先に食べちゃうよ」

「わかった。待っててくれよ?」

さくらさんの店の料理はどれも手作りでおいしい。その中でも俺は煮物が一番好きだ。おふくろの味というのだろうか?などと考えていると

「もぉー貴君おっそい!いただきます」

待ちくたびれた優芽がパスタを食べ始めてしまった。まぁいつものことだが。一通り食べたいものを取って席に戻ると

「貴君。このパスタすっごくおいしいよ。はいちょっとあげるね。あーん」

こいつ、天然なのか?さらっと恥ずかしいことをしてくる。でもいやな気はしない。

「あらあら、まあまあ」

さくらさんが笑いながら言った。


「「ごちそうさまでした」」

おなかいっぱいになった俺と優芽が店を出ようとしていると

「貴君、今日も煮物持って帰る?」

あぁ、そうだった。この店に来ると煮物をもらって帰るのがルーティンだった。

「いいですか?すみません」

「ううん、私の料理を二人ともおいしそうに食べてくれるから。遠慮しないでね」

煮物を受け取り俺と優芽は駅に向かって歩き出した。春の夜の優しい風が吹いている。


~19:30 US2 各界環状線車内~

俺と優芽は寮に帰るため電車に乗った。

「はぁー今日もおいしかったなさくらさんの料理」

「優芽は幸せそうに食べるからすごいよな」

「ねぇ!それ褒めてるの?」

また失言してしまった俺を殴ろうと優芽が立った。まぁ殴られるのも役目だ。

そんなことを考えていると、

「キィッッッッーーーーーー。」大きな金属音を轟かせながら電車が急ブレーキをかけた。

「きゃっ」

「あっぶない!」

俺を殴ろうと立っていた優芽は急ブレーキでバランスを崩し倒れそうになったが、間一髪でキャッチできた。

「優芽、だからいつも言っているだろう?電車内は危ないから立つなって」

「でも、貴君があんなこと言うから。」

半べそをかいている優芽を見ていると何とも言えない気持ちになる。すると

「乗車中のお客様に中央コントロールセンターからお知らせします。ただいま全環状線車両の自動運転安全装置が作動いたしました。つきましては自動走行が不可能ですので、遠隔操作で終点まで皆様をお送りいたします」という車内アナウンスが入った。

NPOC内の電車はすべて自動運転である。でも今まで自動運転安全装置が作動したこと何て聞いたことはない。

「貴君。今日帰れるの?」

不安からなのか、それともさっきのことの後からなのだろうか目を涙でいっぱいにした優芽が聞いてきた。

「今言ってただろ。終点まで行くって。大丈夫帰れるよ」

「ならよかったー」

「てかお前涙ふけよ」

俺はハンカチを差し出しながら言った。

「ごめんね。さっきの急ブレーキでびっくりしちゃって」

「まぁ、俺もびっくりしたし仕方ないだろうな」

でもこの急ブレーキ事件は始まりに過ぎなかったのだ。

この後NPOC内ではシステムのトラブルが相次いでいく事となった。

                                         第三話に続く


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