第十話 小さな春(後編)
目が覚めると私は知らないベットの上にいた。体が少し冷えている。横を見ると、保健室の先生が仕事をしていた。先生はチラッとこっちを見ると、私が目覚めたことに気づき、
「あっ、よかった。西郷さんわかる?ここは保健室よ。池に落ちて溺れてたところを高等部の子たちが助けくれたの」
と満面の笑みで話してくれた。どうして私は池に落ちたんだろう。確か私はカエルを捕まえようとしてて、滑って池に落ちて、それからどうなったのだろう。思い出せない。
「ちょっと待っててね。あなたの担任の先生を呼んでくるから」
そう言って保健室の先生は慌てた様子で保健室から出て行った。もう少し寝ておこうと思い私は再び目を閉じた。
~2092年NPOC小等部職員室~
「新井先生、新井先生、あっ、新井先生ここにいらしたんですね」
「新川先生いつも言ってるでしょ。女性としてもっと気品にふるまいなさいって。だからあなたはいつまで経っても結婚できないのよ」
「それは新井先生も一緒ですよ?じゃなくて西郷さん!西郷さんが目を覚ましましたよ」
新川は新井の手を取ってピョンピョン跳ねながら言った。
「ホントですか?こうしてはいられません。新川先生、飛び跳ねるのは後回しです。保健室に行きますよ」
新井は新川の手を振りほどいて足早に職員室を後にした。
「もぅー待ってくださいよ新井先生―!」
俺は泣き疲れて職員室のソファーで寝てしまっていた。でもあんなテンションの人が騒いでいたらどんなに熟睡している人も起きてしまうだろう。俺も例外ではなく起きてしまった。でも先生たちはどこに行ったんだろう。あれだけ騒ぐことだ。きっといいことに違いない。
「まさか、優芽が見つかった?」
俺はソファーを飛び出し保健室に向かった。
~NPOC小等部保健室~
ガラガラという音とともに扉が勢いよく開いた。
「西郷さん大丈夫?先生のことわかる?」
「新井先生…」
私が先生の名前を呼ぶと先生の目は涙でいっぱいになった。
「よかった、よかった、あなたが無事で本当に良かった…」
泣きながら先生は言った。いつも怒ってばっかりで怖いイメージしかない先生が泣いているので私はびっくりしてしまった。
ガラガラ。次は一際大きな音で扉が開いた。
「あなたは確か新井先生のクラスの子よね?」
保健室の先生が言った。
「優芽、優芽大丈夫か?」
そこにいたのは貴君だった。私の中で何かが壊れるような感じがした。
「ウェェェェーーーン。だかぎゅん、だがぎゅん、わだじ、わだじ、こわがっだよー」
私は貴君の顔を見るなり安心して泣いてしまった。
「優芽泣くなよ。泣かないでくれよ。ごめんな、助けてやれなくて」
貴君の目にも薄っすら涙が浮かんでいる。でも貴君は泣きたい気持ちをぐっと我慢した様子でこう続けた
「優芽、俺守るから。何があってもお前のことだけは守るから。だから優芽は俺のことを信じてほしい。二度と優芽を見捨てたりしないから」
嬉しかった。貴君が心の底から言ってくれているのがわかったから。
「うん!わかった。絶対に優芽を守ってね。優芽も貴君のこと信じるから」
私は今できる精いっぱいの笑顔で答えた。
俺はあの日誓ったんだ。命に代えても優芽だけは守ると。
私はあの日決めたんだ。貴君に一生ついていくんだって。
第十一話に続く




