吸血鬼と友達の家庭訪問
「あら、レンさん。おはようございますー」
「あ、おはようございます……」
朝の散歩に出かけようかなーと思い外に出ると、ひおちゃんのお母さんが犬と出てきた。
い……犬……?
「この間は、娘がお世話になりました」
「いえ。僕は特に何も……。……ひおちゃ……ひおさんは、よくできたお子さんですね」
「ひおちゃんでいいんですよ」
「……そうですか」
……犬なんて連れて何をするつもりなんだ?いや……あのひおちゃんのご両親だぞ、良からぬことを企んでいるだなんてある訳がない。なら……えーと……うーん……?しょ……食用か……?
「できればこれからも、時間がある時には娘と遊んでやってくれませんか?」
「は……はい!?」
自分で言うのはなんだけど、会って少ししか経たないような僕と……大事な子供を遊ばせても、大丈夫なんだろうか?
そう不安に思っていると、ひおちゃんのお母さんは唐突に吹き出した。
「……不安そうですね?」
「そ、そりゃそうですよ!なんで大事な娘さんを、信用できなさそうな僕に……」
「あなただからですよ」
「え……」
「……あの日、帰ってきて、娘は私にすぐ謝ってきました。『テスト隠してごめんなさい!もう隠したりしません!!』……と。あの子のことだから、こんな点数取っちゃってごめんなさいーって言うと思ってたんです。それで……その後色々と話を聞いていたら、あなたのお陰で娘は立ち直れたって分かったんです」
……僕のお陰……?
違う……僕は、あの子の話を聞いて、少し助言をしただけだ。それを……
「……それは、僕のお陰では……」
「いいえ、あなたのお陰です。……だから、あなたは私達にとって、充分信頼できる人なんです。娘はだいぶあなたが気に入ったようだから……どうかお願いです。娘と遊んであげてください」
「わ……分かりました……」
…………頭を下げられたら、断る訳にはいかないじゃないか。
★★★★★★★★★
ピンポーン、とインターホンの音が響く。
くそっ……誰だ、今「ふんわりおいしい卵焼き」を作ろうとしていたところだったのに……!
エプロンは外すのも面倒くさいし外さなくていいかと放置し、とりあえず玄関へと向かう。
「はーい、どちらさまですか」
「レン、俺だ。圭だ」
「えっ、圭!?」
慌てて鍵を開けて、ダァン……と音を立てドアを開けた。
長くクセのある茶髪をひとつに束ねている僕の友人・圭。
「……え、何?何しに来た?」
「いや、俺がというか、こいつが……」
「やっほーレン!例の子どこ!?隠し子どこ!?」
「いやいねえよ隠し子なんて」
「……ユメ、とりあえず落ち着け。レン困ってるだろ?」
そしてぴょこっと圭の背中から飛び出てきたのは、同じく僕の友人のユメだった。
★★★★★★★★★★
「…………ごめんなレン。どうしても行くって聞かなくてさ……」
「あー、ユメか……」
「おう。なんでも、お前が幼女と関わり持ったからその幼女と仲良くなりたいらしい」
仲良くなりたいって、だいぶ婉曲表現な気もするけど……まぁうん、ユメだし。ユメだしな。
ーーさて、説明せねばなるまい。
座布団に胡座をかき、笑いながら(苦笑しながら?)僕と話しているのは圭。
圭は見た目こそチャラ男だが、中身はずっと僕らのお兄ちゃん……いや、お母さんだ。仲良くしている吸血鬼友達の中では最年長で、吸血欲求が強い。そして喧嘩もすごい強い。
……でも友達には弱い。こいつは頼り甲斐のある常識人だ。
…………問題は、一緒に来ているユメのほうで……。
ユメは部屋に入ってからずっと部屋の隅でなにかのアルバムを開いてにこにこと笑っている。
黙って笑っていればどんな美少女にも負けないような彼女がユメ。
ユメの吸血欲求は驚くほどに弱い。というか、ほぼ無いと言ってもいいくらいだ。
吸血鬼として生を受けてから、血を飲んだのはたったの一回。しかも飲んだと同時にぶふっと吹き出して「まずっ」と言い撃沈したらしい。
吸血鬼は大体欲求の強い弱いで力の強い弱いが決まってしまう。だからユメはどの吸血鬼にも敵わないくらい弱いはずなのにーー暴走するとあの圭でも止められなくなるくらいに力が強くなる。
…………そして重度の少年幼女愛好家だ。
ユメは小さい女の子や男の子の為となると一気に力が上がる。そこが厄介なんだ。
見た目はすごく可愛いし、吸血欲求も弱い。……でも今後、ユメが暴走して吸血欲求が強くなるかもしれない。それが心配だ。
だってただでさえやばいユメの吸血欲求が強くなったりしたら……。考えるだけでもゾッと背筋が寒くなってしまう。
「……幼女って、ひおちゃんのことか?」
「ひおちゃん?」
「うん。この前知り合ったお隣さんの娘さんなんだけど、本当にいい子で……あれ、あの子何歳だったっけ」
そういえば聞いてないな。ぱっと見だと小学生くらいかなーって感じだったけど……。
「(その子)一体何歳なのレン!?」
「うおっ、ユメ!?どうしたいきなり……(僕の年齢なら)五百から数えるのやめちゃったけど……?」
「五百ぅ!?!?ちょっとレンいつから(その子と)一緒にいたの!?」
「え?え?……そりゃすんごい前からだよ。だって(お前らとは)ずっと昔からの仲じゃないか」
なんだ?ユメは一体何を言っているんだ……?
……そうか、そういえば僕も……ユメの年齢を知らないな。
ずっと一緒にいるからこそ聞けないこととかあるし……あれ?でもなんで今……?
うーんうーんと頭を悩ませていると。
「ずずずずずずっと昔からの仲ァ!?」
「……うん、お前ら一回落ち着こうぜ。な?」←全てを(なんとなく)察した男
「あ、え?お……おう……」
「これが落ち着けるかこの野郎ッ!アンタを殺して私も死ぬ!!!」
そして何故か瞬く間にユメは僕の目の前に移動して拳を振るおうとしていた。や、やばい……!
ぎゅっ、と目を閉じる。もう終わりだ。そう思った瞬間。
「いいから落ち着け」
ユメと僕の顔に誰かの拳が思い切り、一切の躊躇いなく振るわれた。圭だ。
…………って何で!?僕ちゃんと大人しくしようとしたのに!!
そう言いたいが生憎意識が飛びそうでそれどころじゃなかった。け、圭め……!
「……何で、って顔してんな」
「……!?」
さ、さすが親友……僕の気持ちをすぐに理解してくれるだなんて、なんて良い……
「……喧嘩両成敗だ」
……前言撤回。圭は僕のこと微塵も分かってない!喧嘩してないし!!圭の馬鹿!!!