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少年戦艦デューク~生きている宇宙船の物語~【書籍化】  作者: 有音 凍
第三章 共生宇宙軍 入隊~新兵訓練編
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デュークの理由

「それであなたはどうなのよデューク。なんで故郷を離れたのかしら?」


「ええと、初めて遠くの恒星を眺めたときにね、星の世界に飛び出したい! っていう気持ちが龍骨に溢れたんだ。たぶん、マザーを離れて他の恒星に向かうのが僕らの本能ってやつなんだ」


 故郷を離れた理由を聞かれたデュークは「龍骨の民は星を渡る生き物だからね」と説明しました。


「じゃあね、軍に入った理由はどうなの?」


「おいおい、マナカ。こいつは軍艦だから軍に入るしかないだろ。他に職業って言えば、傭兵とか民間警備会社があるがな」


「そんな選択肢――――他にも仕事ってあったのかぁ」


「ですが、本体は1.5キロの巨大戦艦でしょう? 軍でしか扱いきれませんな」


 軍艦型の龍骨の民の中にはそういう事をしているフネもあるのですが、デュークにはそれを選択する余地はありませんでした。食費(維持費)がかさみすぎるので、共生宇宙軍のような巨大組織にしか居場所がないのです。


「うん、僕は戦艦だし軍にはいるのが当然だっておじいちゃん(老骨船)たちも言ってね。でも、軍に入ったからには、やりたいことはあるんだ。なんていうか立派な戦艦になりたいって思ってる」


「ハハッ、お前もう立派な巨大戦艦じゃねーか。こないだ大砲も生えてきたしな」


「えっと、カラダのサイズとか、武装とか、そういうのじゃなくて――」


 デュークはそこで少し考えをまとめます。


「龍骨の中身……っていうのかな? 僕はまだそれがしっかりしていない気がするんだよ。軍にいればそれが学べる――大人になれるんじゃないかと思ってるんだ」


 少年期のフネの龍骨(メンタル)というものは、平均的な知性体でいうところの10歳前後です。そしてデュークはそのことがなぜかもどかしく、軍で自分を鍛えなくてはならないと思っていたのです。


「ははっ、つまり、軍で男を磨いて成長したいってことだな」


「え、そうなの? へぇ、男を磨くと成長できるんだ――うん、僕、男を磨くよ!」


 デュークは「よぉし、男を磨くぞ!」と拳を握りしめました。彼には初めから多くの言葉がインプットされていますが、その理解と取り扱いについてはやはり子供なところがあるもので、スイキー達は「分かってんのかな?」などと内心で苦笑いしました。


「ところでデューク二等兵――――男を磨くと言えば、とても大事なことがある!」


「ふぇっ? それはなに、教えて教えて!」


 スイキーはデュークの真ん丸な視覚素子を見つめながら「よし、スイキー様が特別に教えてやろう!」とばかりに、クワッと鳴き声を上げました。


「男を磨くには――――!」


「み、磨くには?」


 デュークはドキドキしながらスイキーの二の句を待ちました。そしてスイキーはニヤニヤしながら、このような事を――――


「いいか! 男を磨くにはたくさんの女をこますんだ! 少年が大人になるには、それがてっとり早い!」


「ふぇ…………?」


 言いながら、振ってはいけない角度と速度で、腰を振ったものですから、デュークの龍骨が一時的に停止してしまいます。


「ちょとスイキー。それは下品にすぎるわ、もう少し丁寧な表現を使いなさいよ! デュークの目が点になってるじゃない」


「いいや間違ってはおらん! オスとメスがいる種族ならば、オスはオスとしてやることをやるしかないのだ――っ! とにかくとりあえず付き合ってみてさ――なんかアレだったら、その時は分かれちゃえばいいんだぜ。キュワワワとメスを泣かせる色男ってなぁ――俺みたいになぁ、クワカカカ!」


 マナカがギロッと目でスイキを睨み「なによそれ! それって最低よっ! 女の敵ね!」と言いました。スイキーは「知るかぁ――っ! 色恋は、人それぞれに違ったカタチがあるんだぜ! それに、失敗したって、そいつが男の肥やし(経験値)になるんだぜ!」と鳴き声を上げます。


「こ、このアホウドリ! メスに言ったら刺されるわよ!」


「仕方ねーだろ! トリは発情したら見境なくなるんだ! 刺すならここまで来て刺してみろ――!」


 などという会話を前に、デュークは「あわわ」と龍骨を震わせながら――


「えっと、あの、その、男を磨くって、それってつまり……」


 多少の理解を示します。スイキーが龍骨にブチ込んできた概念ですが、龍骨の民には間違いなく性差があるのですから、ある程度は理解できるのです。


「へへっ、なーんだお前、なんとなくわかってんじゃないか! いいぞ、思い切って、やっ……いててててて! やめろち、ちぎれるぅ?!」


「思い切ってなにをやるってのよ、ナニを!」


 スイキーがまたぞろ不謹慎発言を放とうとしたものですから、マナカは本日二度目のサイキック攻撃――フォースグリップ(遠隔握撃)で厚い脂肪に覆われたお腹を握りつぶすのです。


「て、てめぇ、いてぇぇぇぇ! 俺はただ、事実を事実として――」


「黙れペンギン、股ぐらのブツをねじ切られたいのかっ?!」


「クゲェェェェェ――――それはやめて! お婿さんにいけなくなっちゃう!?」


 スイキーを見つめるマナカの目はかなり危険なものになっていました。傍からみているパシスとキーターは、触らぬ神に祟りなしとばかりに「股ぐらって、それはそれでアレですが」とか「痛そうだノ」などとそっぽを向いています。


「まぁ、こいつの言うことにも一理あるのだけどね」


「て、てめぇ、そうだったら…………はい、すいません、黙ります」


 スイキーを一睨みしたマナカが、フッと真剣な表情になって――


「彼女たち――あれ、どこかで早めにケリを付けて上げるといいわ」


 と、言いました。


「彼女……ナワリンとペトラのこと?」


「そう、別に誰が好きとかどうとか伝える必要は無いわ。今はよくわからない、ペンディングさせてくれって、それが精一杯だって言ってあげなさい」


「でも……そんなこと言ったら、嫌われないかな?」


「それで嫌われるなら、それだけのことよ。うじうじ悩むよりいいわね」


 マナカはピシャリとした口調で「男らしく告げるのよ!」と助言したのです。


「そうか、それも男らしいってことなんだなぁ」


「そうよ――ところでデューク?」


 そこでマナカはそれまでとは打って変わり、ニヘラとした笑みを浮かべて――


「二隻のうちどっちが好みなのかな――? おねーさん、すごく気になるわァ――! あなたと同じ戦艦のナワリンちゃんかなぁ――? ペトラちゃんはすっごくいい子だって、第八宿舎の奴らに聞いたわよ――!」


 マナカはデュークをむんずと掴むと、ゲヘヘヘヘというような下卑た笑いとともに

「知りたい、知りたい、知りた――い!」と尋ねてくるのです。デュークは「し、知らないよっ!」と答えるとかありませんでした。


 出会ってからまだ数週間ほどの彼らですが個人的な話題に踏みこむまでに、絆が深まっていました。そして、彼らはこれからも絆を強めていくのでしょう。共生宇宙軍の戦友とはそういったものなのです。

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