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少年戦艦デューク~生きている宇宙船の物語~【書籍化】  作者: 有音 凍
第三章 共生宇宙軍 入隊~新兵訓練編
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休日 後編

「おーい、ナワリン!」


「あ、デューク! どこにいたのよ、随分探したのよ!」


「僕もナワリン達を探していたのだけれど、行き違いになっていたみたいだね。そうだ、身体検査のあとはどうしていたの? それにペーテルは?」


「抑制機に慣れるまで丸一日掛かったの。それからペ――ペーテルも私と同じ宿舎にいるわよ」


 装着された重力スラスタ抑制機の影響はフネごとにかなりの個体差があったようです。「他にも重力に不慣れなのがいるから、そんな出遅れ組は別の宿舎に纏められているの」とナワリンは説明しました。


「そうかぁ……今、ペーテルはどこにいるの?」


「ん……あいつは飲み物を取りにいったわ」


 ナワリンは離れたところにある飲み物を提供するサーバーが並んだ場所を指しました。デュークがそちらへ視覚素子を向けると、蒼い商船のミニチュアが浮かんでいるのがわかります。


「識別信号が飛んでこないね?」


「えっと、ジャミングされてるし、電波発信の調子が悪いって言ってたわ……ところであんた、なんだか色が変わってない?」


 ナワリンが切れ長の目を見開いて、デュークの姿をまじまじと眺めます。デュークの活動体のところどころが茶色く変色していたのです。


「へっ、昨日の訓練で泥まみれになっってな、ランドリーに放り込んで洗濯しても色が落ちんのだ。あ、ここ座るぜ?」


「あら、いつぞやの飛べないトリじゃない」


 ペタペタとやってきたスイキーが、返事も聞かずに椅子を引いてどかっと座り込みました。


「今は同じ釜の飯を喰う仲間なんだぜ。なぁデューク」


「うん、それからこちらのマナカも僕の同居人だよ」


 デュークに紹介されたマナカは「よろしく!」と挨拶するのですが、ナワリンは「あなたニンゲンね――」とちょっとした緊張を見せるのです。


「あら、あなたもあの映像を見たのね。私はアレみたいに攻撃的じゃないから安心してね。あ、これ食べる?」


 マナカはドーナツの入った袋をテーブルに置き、整った顔立ちをニヘラとさせながら「どうぞ」と言うのです。


「これは――――」


「ドーナツよ、ドーナツ。小麦粉と砂糖と牛乳と卵を混ぜて練り合わせたものを、油でかっちり揚げたものよ!」


 マナカはドーナツを一つ取ってナワリンに手渡します。三次元プリンタから出てきたばかりの香ばしさが残るそれは大変に甘い匂いがしており、ナワリンは「な、なんて良い香り――――」と迷わず口に放り込むのです。


「パクパクパク……わ、美味しいわぁ――!」


「お気に召したみたいね?」


「召した召した! マナカ、あんたはいいニンゲンなのね!」


 龍骨の民はご飯をくれる知性体に対して、無条件に好意的になるという種族的な強みと弱みを持っているのです。そしてマナカが「もう一つどうぞ」とドーナツを渡せば「マナカは友達――龍骨が認識した!」と大喜びするのです。


「なぁ、デューク。龍骨の民というやつはちょろすぎやしないか。それともこの娘がそうなだけか?」


「え? ご飯やオヤツをくれる人はいい人だよね? 断言してもいいよ?」


「お、お前ら…………」


 繰り返しますが、龍骨の民という種族はご飯やおやつというものに滅法弱いのです。そして彼らには、共生宇宙軍において軍事行動をする際には推進剤飲み放題、糧食食べ放題なサービスが与えられものですから、「宇宙軍に忠誠を!」「龍骨が折れるまで働きます!」「共生知性体連合ばんじゃーい!」などと、龍骨の民の軍に対するロイヤリティは全種族の中でもトップクラスでした。


 さて、三つ目のドーナツを手渡し、ナワリンから「あんたはなんていい人なの――――!」などと言われたマナカがこう尋ねます。


「で、あなたがデュークの彼女?」


「はふはふはふ……え?」


 彼女――という言葉に、ナワリンは目をパチクリとさせました。横著ではスイキーが「デュークの女だぜ! クワカカカカッ!」などと笑みを浮かべています。


「な、なにを言ってるのよ」


「おっと、隠しても無駄だぜぇ――」


 スイキーはパタパタとフリッパーを振りながら「俺の目はごまかせねぇぞぉ!」と高らかな鳴き声を上げました。


「デュークっ! あんた、ルームメイトにどんな説明したのよっ?!」

 

 ナワリンはワタワタとクレーンを振りながら「どういう事なのっ?!」とデュークを詰問します。


「ふぇぇぇ、みんなが勝手に言ってるだけだよぉ」


「クワカカカ! 隠さなくてもいいんだぜ」


「だから、彼女はフネの仲間なんだよ、”ただ”のフネの仲間だってばぁ」


 そうデュークが言ったときです。


「ッ――! なによ、”ただ”のって………………」


「あ、そういうつもりじゃ――」


「じゃぁ、どういうつもりなのよっ!」


「いや、あの、その……」


「どーせぇ、私なんか、ただの僚艦(フレンズ)にすぎないよのねぇ!」


「ふぇぇぇぇぇっ……ごめんよぉ。そんなつもりは……」


「ごめんも、そんなも、要らないわよっ!」


 デュークがどうこう言おうが、ナワリンはただ腹を立てるだでした。そして、こんな時はただひたすらに頭を下げるべきであることをデュークは知っていす。だから彼は艦首をガクガクと上下させて謝るのですが、今のナワリンには全く通用しませんでした。


 フネ同士がそんなやり取りをする光景に、マナカとスイキーはニマニマした笑みを浮かべながら、コソコソと話をしています。


「ほほぉ、これは、なかなか微妙な関係ねぇ」


「まだ見守っておくんだぜ。そのほうが面白い」


「あんた、いい趣味してるじゃない……」


「言っておくが、悪気は全くないんだぜ」


 スイキーとマナカたちは互いに目を見合わせると、ニンマリとした笑みを浮かべました。



「クルクルクルクル――――」

 

 フネの関係性について、デュークのルームメイト達が下世話な会話をしている頃、惑星カムランの高度1万キロにある軌道ステーション内の第5艦隊司令部では、フクロウ型種族が首を回してスクリーンを睨んでいます。


 彼は艦隊司令官艦隊司令官ドン・バンジャン――共生宇宙軍大将にして、ミミズク族選出の元老院議員でもあります。


「わが内海は落ち着いておるが――――辺境星域はいつもの通り荒れとるの」


「ええ、海賊行為が多発しております」


 ドン・バンジャン大将の副官は「全くもってパトロール艦隊の手が足りません」と言いました。


「海賊ども、共生宇宙軍の輸送船まで襲っています。第501パトロール艦体所属の船です」


「なに? 護衛はどうしていた?」


「宇宙嵐の影響で独航せざるを得なかった模様。乗組員は艦長の判断にて艦載艇にて脱出していますが――――」


 副官がそう告げるとドン・ジャンバン大将はクルリと首を回し――「ホォ……」と安堵の表情を見せました。


「しかし――わが宇宙軍の船に手を出すとは、気合が入った海賊もおるものだ」


 大将は長い眉毛をピン! と立てながら、嘴をカチカチと鳴らして怒気をあらわにするのです。


「で、下手人は」


「それがどうも、これまでに観測されたことのない黒いフネであると。しかも相当なステルス性能があるようです。現在、解析班でスターライン航法の痕跡を分析していますが……」


 スターライン航法とは、恒星などの大質量天体の間にある量子的な繋がりを利用した超光速航行の手法の一つで、超空間を利用したそれよりも速度とエネルギー効率の面で格段に劣るものの、超空間航路がない星系間ではこれを使用することが一般的でした。そして、その航法は使用後に僅かな量子的痕跡を残すのです。


「海賊ごときがステルス艦を持っているだと? ふぅむ……よろしい、第501パトロール艦隊に増援を送って追跡調査だ。この件は、その報告を待ってから動こう」


「了解です」


 ドン・バンジャン大将は「ホゥ」と一声鳴くと、次の課題に取り組み始めました。第五艦隊は共生知性体連合の内海艦隊にして、後背地たる辺境星域をもその管轄としているため、彼が管理すべき場所は数多くあったのです。

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