龍骨は健やかに伸びる
龍骨の民が属する共生知性体連合――連合を構成する種族は、発祥の起源が千を超えています。
分類上のカテゴリは千どころではなく、人種といった階層で分けた場合、数えることがとても大変なくらいのものになるのです。
さて、その連合の一種族たる龍骨の民――
生きている宇宙船は、とても早い成長速度を持っています。
「僕は、デューク!」
デュークが言葉を使い始めてから、数日が過ぎていました。
最初は「おなかへった~~!」という感覚的な言葉しか使えなかったのですが、言葉が随分と増えています。
「僕は、生きている宇宙船!」
龍骨の中には、言語などの基本情報――
コードと呼ばれるものがあらかじめセットされており、それが開示されることで、言葉を急速に覚えてゆくのです。
「デュークは言葉が上手じゃのぉ!」
「うん!」
老骨船オライオがデュークの成長を手放しで喜んでいます。
「よし、次は私を見よ――私が何者か、わかるかな?」
老骨船ゴルゴンの問いかけに対して、デュークはカラダの横に配置された眼――クリクリとした視覚素子(目)――を見回しながら答えます。
「ゴルゴンおじいちゃん!」
「ふむ、そうだな――他者を区別できるようになったようだな」
老骨船ゴルゴンが、大きな眼を細めながら頷きました。
このようにして幼生体は生まれてから二週間ほどで、典型的なヒューマノイドでいうところの三歳程度の認識能力を習得するのです。
そこでオライオが、こんなことを言いました。
「お前はなんとも規格外じゃが、中身はいたって普通の子どもだのぉ!」
「こども? 僕はフネのこども!」
「ははは、そうじゃのぉ。デッカイ子どもじゃぁ~~!」
そんな会話を微笑ましく眺めていたゴルゴンが、その大きな眼でデュークのカラダの中の重力スラスタを眺めています。
「大きな体もそうだが、重力スラスタの波動も強くなっている――そろそろネストの中を動き回り始めるだろうな」
「すごい勢いでミルクを飲むのだから、どんどん成長するのですなぁ……それに代謝が良いから。お肌もツルツルですなぁ」
「歯も良く育っています。そろそろミルクじゃなくて、固形食もいけるでしょう。金属のフレークを用意すべきかもしれません」
高速輸送艦アーレイは、新しい食材を探さねばと言いました。
すると、デュークが「ミルク? フレーク? …………“かゆかゆうまうま”?」と、なにやら不可思議な言葉を放つのです。
「おい……、誰がこんな言葉を教えたのだ?」
ゴルゴンが、辺りを見回し原因を探ります。
「あ、多分ワシじゃよ。昨日、おかゆを口にしながら話していたら、真似をしてきたんじゃ……」
「バカモン! 口にモノを入れながらモゴモゴと話しかけると、変な言葉を覚えると、いっただろうが――!」
ゴルゴンが叱るので、オライオは「うっ、すまんのじゃ」と船首を下げました。
そんなやり取りをジッと眺めるデュークです。
まだ会話の意味をなんとなくしか理解できません。
でも、龍骨は少しずつ文脈を理解していくのです。
そしてそのためには龍骨にたくさんのエネルギーが必要です。
だからデュークは、ものすごく単純な、電波の言葉を放ちました。
「お腹、減ったぁ!」
子どもが空腹を伝えるには、簡単な言葉があれば十分なのです。
……それに応える者たちがいる限り、ネストは優しさに満ちてゆくのです。