接舷後、ステーション内部へ
「接舷作業完了――――じゃぁ活動体に入って、降りてきてね」
「ここからは活動体に入って進むのですか?」
「ええそうよ。ステーションの中に入るには、あなたのカラダは大きすぎるもの」
浮きドックに接舷したデュークはマリアの指示に従い、自分のミニチュアを起動させて下船します。彼が降り立ったドックの上には、ツナギ型の宇宙服を装着したマリアが待っていました。
「龍骨の民テストベッツのデュークです」
デュークは拳を固めて艦首の横で振るという共生宇宙軍式の敬礼をします。
「あらあら、私は軍人じゃないから、敬礼はいらないわ。民間の協力企業から出向してきてるの」
マリアが言うには、そのような民間人がこのカムランステーションではかなりの数いるということでした。
「あなたは軍艦だから、宇宙軍に入隊するために来たのよね?」
「はい、そうなんです」
「ん、ステーションの中に共生宇宙軍の入隊手続きを行う場所があるわ」
マリアは「軍艦型の龍骨の民はみんな志願兵ね。まぁ、マザーが軍艦として作ったのだから、当たり前かぁ」と続けて言いました。
「みんなって――前にも龍骨の民が来たのですか」
「あはは年間1000隻はステーションに来るのよ。私は毎年100隻位、整備してるわぁ」
「へぇ……」
デュークはフネの先達のことを思い出し、皆同じ様にしてここに来るのだと実感しました。
「あ、整備といえば、僕のカラダ――本体はどうなるのですか?」
「寝返りでも打たれたら大変なことになるから、訓練期間中はドックで封印させてもらうわ。龍骨の民は皆そうして新兵訓練所に行くのよぉ」
マリアはとっても大きな胸をそらしながら「私は特級整備エンジニアなのよ。さっきもいったでしょ。毎年たくさんの生きている宇宙船を管理しているわ。だから安心なさい!」と、朗らかな笑みを浮かべました。
「うもぉ」とした鳴き声を上げるマリアには、なんとも言えない実力と安心感を感じることができます。デュークは「このウシ人――? だったら、大丈夫だな」と直感的に思いました。
「じゃ、早く行ってきなさい」
「はーい。カラダはお願いしますね」
デュークは自分の本体をマリアに任せると、浮きドックの中をスルスルと進んでゆきます。
「外壁にハッチがあるね」
ドックの端の方までゆくと、ステーションの外壁に大きなハッチがついているのが見えました。ハッチの前に立つと自動的に開放されるので、彼はその中にスイッと入り込みます。
「ここはなにをするところかな?」
ハッチの中は5メートル四方の部屋になっており、白色LEDの照明で照らされています。デュークがキョロキョロしていると、ハッチが自動的に閉鎖されました。
「ふぇ……」
扉が閉鎖されると同時に部屋の中になにやらプシュー! と気体が入ってきます。
「空気? ネストのガスとは全然違う成分だけど、これは空気だ……なるほど、ステーションの中は与圧されているんだ」
デュークは幼生体の頃に視聴した科学番組を思い出し「僕は空気がなくても大丈夫だけど。他の種族はなかったら大変なことになるのだものね」と呟きました。ステーションを利用する種族の多く――共生知性体のほとんどは、真空に耐えることの出来ない種族ばかりなのです。
「おや? 何かが出てきた」
大気圧が標準的な惑星表面上のそれに上昇すると、部屋の奥からテクテクと宇宙服を着た小柄な人物が歩いてきました
「君は龍骨の民だね?」
透明な素材でできたヘルメットを被っているその人物は、フサフサとした顔にツブラな目をした有毛類の顔を覗かせながら、は拳を固めてそれを頭の横でひらひらと振りました。
「あ、共生宇宙軍の人なんですね。あなたはもしかして訓練所の人ですか?」
「いや、私は――――今日は入国管理官かつ検疫官の役回りなんだ。ああ、私のことはコラッコと呼んでくれ」
コラッコは特にたずねたわけでもないのに「いつもは別の場所で仕事をしているんだが、今日は休みでね。非番で暇してたら、なんだかデッカイ戦艦の少年が来ると聞いてね――」と畳み掛けました。
「はぁ……?」
「ま、私の事はどうでもいいだろう――ほぉ、これがあの戦艦のミニチュアなんだな」
そう言ったコラッコは、デュークのミニチュアをしげしげと眺めると「ミニチュアに入った龍骨の民はみな1メートル位しかないなぁ」と呟きました。
「よし、ではステーションに入るための検査を始めよう。まずは手荷物――どこかで拾った物質とか部品とか持っていれば、このトレーに置いてくれるか?」
「ええと……これとかですか?」
コラッコは金属製のトレーを持ち出し手荷物を置くようにいうのです。デュークはゴソゴソと懐――多目的格納庫のミニチュアから、いくつかの物体を取り出し、そこにおきました。
「ふむふむ、隕石のかけら、よくわからん金属片――放射能はないな。龍骨の民のおやつといったところか……おや? その塊は」
「これもおやつです」
ガイガーカウンタのような検査機を取り出しデュークの持ち物を検査するコラッコが、デュークが手にしたキラキラとした光沢の有る物質に目を向けます。デュークはそれを持って「とっても甘くて美味しいんです。えへへ」と笑いました。
「プラスチックの塊? 龍骨の民は本当になんでも……げげ、こいつは――――!」
デュークが掲げたマテリアルに検査棒を当てたコラッコが、ダッ! と飛び退りました。
「どうかしましたか?」
「おいおい、それは軍用の高性能爆薬だぞっ!?」
コラッコは検査棒の反応を確かめながら「改オクタニトロキュバン系のマテリアルか……安定してる物質だが、条件がそろえばドカン! だ」と青ざめた表情をみせました。デュークは超空間で機雷をおやつにしていましたが、その時の残滓をまだ持っていたのです。
「へぇ、これって危ないんだ……」
軍艦という生き物は、高性能爆薬やら核爆薬がぎっしりつまった存在です。デュークも兵装は未だ発展途上とはいえ戦艦ですから、そのへんの感覚が普通の種族とは全く違います。
「とにかくそれは捨てるか、食べてしまいなさい。腹の中なら安全だろう」
「はーい、食べます!」
捨てるか、食べるかと言われれば、食べるほうを選択するのが龍骨の民という生き物でした。
「よし、次はメディカルチェックだ」
「メディカルチェック?」
コラッコは、今度はデュークのミニチュアそのものに検査棒を当てました。
「細かな生命反応がある――超空間で微生物と接触したんだな。よし、ちょっと眼を閉じて――」
「はぁ……」と言いながらデュークが目を閉じると、コラッコは「3・2・1――はい!」と言いました。
すると、大変強い光が部屋の中に満ち溢れたのです。それはほんの一瞬のことでしたが、目を閉じていたデュークは、肌がピリッとするような感覚を得たのです。
「あちち、これってなんですか」
「殺菌ストロボだよ。カラダについている微細な細菌やウイルスを除去するためのものさ。ステーションの中に入れるわけにはいかないからね」
その後デュークは、天井から降ってくる消毒液を浴びたり、部屋の隅から吹き出す熱風を受けたりするのです。
「次で終わりだぞ。それ、プスっとな」
「あいたっ!?」
コラッコはさっとステンレス製の摂取銃を取り出し、デュークの艦首にあてがい、有無を言わさず引き金を引きました。
「はぁ、僕のカラダに何を入れたんですか?」
「龍骨の民の血液に対応した軍用のナノマシンだぞ」
龍骨の民は血液が液体であり、体内にナノマシンを持っているので、普通の細菌やウイルスは活動できないのですが、逆にそういう環境に適合した病原体もあるのです。
「まぁ、病気になるときはなるんだが――ま、君たちは飯食って寝てりゃ治るかな。よし手続きはこれで終わりだから、もう行っていいよ」
そう言ったコラッコは、簡易宇宙服のヘルメットを脱ぎすて、胸元からタバコを取り出して火を付け、ブハァと吸付けながら「あの扉の先の通路をくぐったら、入隊管理事務所があるからね」と言いました。
「そしたら、そこで入隊検査だが――デューク君、試験について知ってるか?」
「ええと、何をやるのかサッパリ知りません。行けばなんとかなるからって教わっただけなんです」
デュークがそう言うと、コラッコは「ははは、まぁ大丈夫だろう。デューク君はデッカイ戦艦だからな」と笑ったのです。




