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少年戦艦デューク~生きている宇宙船の物語~【書籍化】  作者: 有音 凍
第三章 共生宇宙軍 入隊~新兵訓練編
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埠頭の女性 

「じゃ、一旦分かれて接舷だね」


「ええ、私は指定された場所に行くわ」


「ボクはあっちだよぉ~~」


 ナワリンとペトラは管制官が用意してくれた場所にスルスルと向かいます。カラダが大きな彼らですから、分散しなければ接舷することが出来ないのです。


「ええと、僕の場所は――あ、あこだ!」


 デュークは視線の先に浮きドックを見つけます。それは500メートルほどの大きさのものが二つ重なっている巨大なもの――1キロを超えるカラダをも彼のために、特別に用意されたものでした


「ふーん、あれに接舷すればいいのか」


 浮きドックを繋いだ専用桟橋からデュークに向けたガイドビームが発信され、接舷位置を示していました。そしてその桟橋から、大変甘い口調のメッセージが流れて来ます。


「龍骨の民きこえるぅ? こっちよぉ――!」


 ドックの作業責任者らしき人物が、音声通信でデュークに呼びかけてくるのです。その声は、なんとなく間延びした訛りがあり、どことなく舌足らずな感じが乗っていますが、なんとも甘やかな調べのある音色を持つものでした。


「女の人の声――――はい! 龍骨の民デューク、近づきまーす」


「よーそろぉ、はぁーい、アンカー下ろしてぇ」


 デュークは艦首から重金属で出来た錨を「はーい!」と放ちました。それを浮きドックで待ち構えていた作業員が、重力制御されたパケットで引き受け――。ズドン! とした振動と共にアンカーが確保されるのです。


「係留作業開始ぃ――しばらくかかるからぁ、大人しくしてるのよぉ」


「はい、よろしくお願いします!」


 たくさんの作業員たちがフワリフワリと近づき係留作業を始めました。周囲では、チューブやらパイプやらがデュークのカラダに伸び始るのです。


 そのような作業がすすむ中、作業の監督車らしい人物から、デュークに対して挨拶のメッセージが届きます。


「私はここの責任者のマリア、よろしくねぇ」


 係留作業を受けつつ有るデュークの龍骨に、先程から聞こえていた女性の声が響くのです。


「一番接続……ああ、二番も早くしてね。くちゃくちゃ」


「ん?」


 デュークの耳には、マリアが作業員たちに指示を飛ばす声が聞こえているのですが、その合間に何かを咀嚼するような音が聞こえてもしした。それはガムでも噛んでいるような、ムシャムシャとした音なのです。


「二番接続……三番接続……おっけぇね、モゴモゴ」


 ズゴゴゴゴゴ、ガキョーン! と感じで係留器具が繋がれてゆく音が聞こえ、パイプラインがガッチリと食い込むにのを感じるのですが、デュークはそれよりも責任者の咀嚼音のようなものが気になります。


「四番接続……完璧だわ、モギュモギュ」



「えっと……」


 係留ワイヤがカラダに巻き付くのを確かめながら、デュークはマリアに尋ねます。なぜかは知らないけれど、彼女の口から漏れる音が気になったのでした。


「あの……?」


「五番接続確認……あら、どうしたのぉ?」


「なにか妙な音が聞こえるのですけれど? なんの音かなぁって……」


「ああ、映像を入れ忘れてたわぁ」


 マリアはスイッチをパチリと入れてカメラを起動します。するとデュークの龍骨に映像が浮かびました。


 そこには、すっと腰に手を当て、共生宇宙軍の青い軍服を着た美しい女性の姿が映るのです。


 美しく細やかな白い肌、すっと迫るような艶々とした鼻、ふさっとした産毛が乗る大きな耳、涙にぬれたつぶらな瞳。それらの顔のパーツは一つ一つが整っていて、実に美しいものでした。


 すらりと伸びた首筋の下には、黒の肌着が姿を覗かせています。青いジャケットにくるまれた肩は艶やかなカーブを描き、その先には腕が嫋やかに伸びています。軍装は緩やかでありながらも、カラダにフィットしていました。


 彼女の胸の辺りを眺めると――ドカン! と何かが盛りあがっています。彼女の胸部はそれなりの厚みを持っているジャケットを下から押し上げるほどでした。


「えっと、こういう表現が正しいかわからないのですが――マリアさんって、胸部装甲が厚いのですね」


「あら――、やっぱり君、男の子なのね」


 デュークが、標準的な種族で言えば「デッカイ、胸だなぁ」と呟いたのに対して、マリアは快活な笑みを浮かべるのです。


「す、すいません。異種族のことがよくわかっていないんです」


「いいのよ、私達はみんなこうだから」


「へぇ……でも、それよりも、僕は、マリアさんの口元が気になるんです」


「あら、これのこと? もぐもぐ」


 デュークも男の子なのでデッカイ胸も気になるのですが、それよりも彼女の”口元”が気になっていました。マリアの綺麗な顎が上下に動いて口の中で何かを噛んでいるのに釘付けになっているのです。


「何かを食べているのですか?」


「ごめんね――――ゴクン!」


 マリアは噛んでいたものを飲み込むと、整った唇から紅い舌を覗かせてペロリとしてから、色気のある笑みをこぼします。


「これはセルロースとかのぉ多糖類とかぁ細胞質になるのかしらぁ」


「うーん? それって、えーと」


 突然現れた単語にデュークは龍骨をひねります。龍骨の中のコードを確かめた彼は

「ははぁ」と納得したような声を上げました。


「つまり、草を食べていたのですね?」


「うん、草をカラダの中で低分子有機物にしてぇ、脂肪の再合成を行うのぉ。ええとぉ、そおねぇ……つまり”反芻”していたのよぉ」


 反芻とは哺乳類動物が植物を口で咀嚼し、胃に送って消化して、再び口に戻して咀嚼するのを繰り返すことで食物を消化することでした。そして➖―


「ゲプゥ……」


 突然マリアがゲップを洩らしました。


「ふぇっ、どうしたのですか?」


「私の種族はメタンを吸収することができないのよぉ」


 マリアは「これが反芻の産物なの」と説明し、メタンを吸収しきれなかった胃袋が副次的生成物――ゲップをもらしたと言うのです。


「へぇぇぇ」


 共生知性体は様々な生き物で構成されています。その中には、彼女のように反芻する消化機構をもった種族もいるのでした。デュークは、目の間の美しい女性がそのような生物的反応をすることに、大変感心したのです。


「そうなんですかぁ……異種族って、やっぱり面白いなぁ!」


 異種族の生態について新たな知見を得たデュークは、新たな知見を得て大感心したのです。

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