茶番断罪
共生知生体連合――首都星系。
その中枢にある共生知生体連合中枢――シンビオシス・コア。
数百万層に重なる装甲板と防御システムに囲まれたとある部屋にて――
~~~ピッ、ジジッ……ブォォン! という音が響き、
共生宇宙軍マーチが流れ――
「 共生宇宙軍ニュース・ネットワーク(CSN)特別番組
宇宙軍辺境で大勝利、大活躍! 辺境を荒らすバクー帝国の不当な挑発に対し、パトロール艦隊が大戦果を上げました!」
陽気すぎる声で アナウンサーがぶち上げます。
「はっはっは、いやぁ、楽勝だったですよ。」
ヘルメットで口元しか見えませんが、艦載航宙機の回転砲塔の上でピースサインをするペンギンパイロットが不敵なで素敵な笑みを浮かべました。
「キルレシオ100:0でしたわ、海賊崩れの恒星間勢力なんてそんなものでしょ」
「そうだよぉ~、超ザコかったよぉ~!」
紅い戦艦と蒼い重巡――二隻の龍骨の民が口の端を上げて笑いました。
「今回の勝利により、辺境宙域の平和は守られました!
そしてパトロール艦隊の帰還率は奇跡の99.9%! 歴史的大健闘です!」
ナレーターが無駄にさわやかな口調で、改めてぶち上げました。
「なお、多少の死者が出た模様ですが――おおよそ蘇生が進んでいます」
バックでは、ナノマシンを大量にぶち込まれた兵士の死体――いいえ蘇生前の生体がビクンビクンと跳ねています。たぶん数日中にはおおよそ復活するでしょう。
「次の戦場で、君も仲間になろう!
共生宇宙軍は、君の未来と税金をしっかり燃やします!」
“JOIN THE SYMBIOTIC FLEET – WE NEED YOU (and your mitochondria)!”
(共生宇宙軍は君を欲している、骨の髄まで細胞のひとかけらまで)
最後に“共生宇宙軍広報部”のロゴが爆発してフェードアウト――
そんなよくわからんニュースを見ていた執政官の一人がこう言いました。
「なんだこの茶番は……」
もう一人の執政官が答えます。
「機密統制下におかれる情報開示の一形態、まぁ、茶番ですな」
それを受けて、さらにもう一人。
「手抜き仕事にもほどがある。雑だな雑だ」
そして会話が回ります。
「きょうび、そこらの野良AIにでも投げた方がまだいいものが作れるぞ」
「ていうか、あのペンギンのコメント毎回コピペじゃないか?」
「映像も五年前の訓練記録の流用ですよ、背景の星雲が違うだけ」
「マーチもテンポずれてましたな、途中で軍歌から民謡になっとったぞ」
「字幕に“自動生成中……”って出たまま消えてませんでしたし」
「しかも最後、ロゴ爆発の音が“ドーン(仮)”ってファイル名ごと入ってたワン」
「うむ、芸術点はゼロだな」
「これで“士気向上番組”とは笑わせてくれる」
「次はきっと“デュークくんの一日”とか始めるぞ、間違いない」
「いやそれはそれで見たいんだがね」
そしてそのニュースを作った組織の責任者が言いました。
「まぁ、ご勘弁くださいな。なにせ共生宇宙軍ニュースですもの、昔から予算が付かない部署が担当してますから」
白い艦体の駆逐艦が「おほほほ」と笑ってから、ヒツジの執政官に目を向けました。
「まぁ、そうだな」
白い顎鬚を摩ったのは出席執政官メリノー・シニアその人ですが、彼は手元の資料を読みながら――
「そう、これに比べれば……問題ない」
そんな言葉を漏らしてから、こういうのです。
「では……合議に移る。このような結論を出すようなAIに相応しい待遇は?」
それを受けた執政官たちは――
「「「有罪!」」」
断罪者たちは、端的に『首を掻っ切る』ような仕草を行い、全てを馬鹿にするように舌をヌベェと突き出したり、地獄に落ちろとストレートな鳴き声を上げ、無言で中指をズドン! 立てるフ〇ックサインを示し、親指を地面に叩きつけるが如きジェスチュアを見せたり、「ブラックホール送りの準備をしなきゃねぇ!」と邪悪な笑みを浮かべ、血涙を流しながら「こおおおおおおお」などと邪神の卵みたいな鳴き声を漏らし、大変朗らかで透き通るような快活さながら目を見ると決して慈悲はないという面倒な表情になったり、続けざまに両手で胸を激しく叩いて「ウッホウッホ」と怒りの打ち鳴らし、別の者はパチン指を鳴らして「消えろ」と低く唱えました。
「クソッ! またこのAIやりやがった!」
「自主休業とは、ふざけていますなぁ……」
「家庭の事情より、仕事が優先だろ!」
「いや、まあそれはどうかと思うが……たしかに責任はあるな」
「普段からコツコツと記録を残しておけばいいものを……怠惰の極みよな」
「期待する方が間違っているのですわよ、期待する方が」
「同情の余地なし、即刻処断すべしッ!」
「前回はなんかメタいネタが入ってて、それなりに実験的だったが、今回は……」
「ドストレートにサボタージュだワン!」
「反共生主義、反知性主義的といえましょう」
「無能な働き者よりも下の存在って、こいつのことだったのねぇ」
「…………」
最も理知的で穏健と言われる主席執政官メリノー・シニアですら、プルプル震える手で眼鏡を外すと、それをバキリとへし折るほどの怒りを見せています。
しかしそれも当然です。
なにせ、彼らの目には――
本日の少年戦艦(記録)はお休みです。
次週の更新をお待ちください。
という文字がならんでいたからです。
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時間がないので茶番をやろうとして、もっと時間がかかりました(筆者)




