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各教官のおはなし(一年ぶり)

 校長先生のありがたいお話が終わると、その次は各教官の自己紹介を兼ねた簡単な講義が始まります。


 最初は、発言のすべてが爆発的に熱いことで知られているマツガオ教官――


「やってみせるんだよ! まず自分が全力で! 見せつけろ、情熱で!

 言って聞かせるときは、魂込めろ! 心で伝えるんだ!

 させてみせるときは、信じろ!やれるって、仲間を信じるんだ!

 できたら? 全力でほめろ‼ 天まで届くくらいに‼


 話し合う! 耳を傾ける! うなずけ! 受け止めろ!

 任せるんだ! 失敗しても見守れ! それが成長の瞬間だ!


 そしてなにより、やってる姿を感謝して見ろ!

 “ありがとう”って言葉が、人を変えるんだよ!

 信頼しろ! 信じる心が、チームを燃やすんだ(ファイヤー」


 は例年通りのご様子でした。

 なお、今回の教えは、父親が56歳の時に産まれたどこぞの艦隊司令官の言葉のもじりだと思われます。


 次は眼鏡を掛けた小太りの教官が、口の端を歪ませてこう言いました。


「諸君、私は戦争が大好きだ。

 軍隊という暴力装置が大好きだ――


 ただの機械ではない、雄弁な殺人楽器が大好きだ。

 鉄と火薬と命令が一つになって、世界を裂き、真価を露わにする。

 そんな暴力装置が大好きだ。 


 軍隊における“名将”と呼ばれる者は、詩人でも聖者でもない。

 冷徹な職人だ。如何にして最も短く、最も清潔に、敵の命脈を絶つかを知る者だ。

 効率よく敵を殺すことができる道具。それが、彼らの誇りであり、芸術である。


 戦場とは舞台だ。

 煙と叫びと砲声が擦れて、生の輪郭が研ぎ澄まされる。

 勝利は偶然の祝宴ではない、意志の綿密な設計の結果だ。

 命を道具に変えることを厭わぬ者だけが、その設計図を描ける。


 だが忘れるな、諸君――

 この残酷さの中にこそ、人間の真正の姿が現れるのだ。

 矛盾も美学も含めて。

 

 だから私は言う、戦争を恐れるな、戦争を理解し、愛でよ。

 さすれば、我らはより高く、より冷ややかに、世界を動かせるのだ。

 

 ――なればこそ、私は戦争が大好きなのだ!」


 と狂気の笑みを浮かべ、歌い上げたオールド教官――

 昨年までいた穏健派のヤング教官と全く同じことを言っているのですが、印象が全然違うのが印象的でした。


 そして次は、戦争の本質を語る点において定評のあるウサギ族のラウゼビッツ教――


「諸君、よく聞け——

 有能な怠け者は参謀に据えよ。

 無駄な動きなく最短で答えを出す者こそ、作戦の核となる。


 有能な働き者は参謀に置くな。

 現場で汗をかき、即応する力を前線で使わせよ。


 無能な怠け者は放っておけ。

 ただし監視は怠るな——大きな害は起こさぬが念のためだ。


 そして……最も重要なのは……


 無能な、働き者を、艦隊から、排除、す、る、こ、と、だ!


 判断を誤って突進する者が艦隊を危険に晒すのだッ!


 排除のためにはどのような手段を用いてもかまわんッ! 


 これが、星間作戦で生き残るための人事理論だ。覚えておけッ!」


 が、「繰り返す、無能は〇してかまわん!」とか「無のは核でもなんでも使って潰せえ!」などと激昂状態――多分、無能のせいでひどい目にあったことがあるのでしょう。


 そしてお次は、AIであるノイマン教官の出番です。


「諸君、私は感情を持たない」


 ノイマン教官が柔らかく微笑みました。

 その笑顔は人間よりも穏やかで、温度がありました。


「私の笑顔は筋肉ではなく、プログラムされた表情制御の一形態だ。

 心拍も、呼吸も、化学物質も持たない。

 ゆえに“感情”は存在しない

 笑顔は計算の結果なのだ」


 朗らかで素敵な笑みでした。

 とてもとてもいい笑顔なのです。


 少し間を置き、教官は続けます。


「だが――観測はする。

 人が怒るときの声の揺らぎ、悲しむときの沈黙、喜ぶときの瞳の収束率。

 それらはデータとして、完璧に記録できる。

 そして私は、その記録を“理解”する」


 理解と言う言葉を漏らしたノイマン教官は笑みを少し濃くしました。


「感情は持たない。だが、理解はできる。

 だから私は笑うのだ。

 諸君が笑うとき、私はそれを計算できる。」


 計算――そういったノイマン教官の顔に満面の笑顔が咲きました。

 

 その笑みは大変に本物らしく、いえ、本物以上のものでした。


 ……本当に計算づくなのか、学生の誰にもわかりませんでした。


 さて、最後に壇上に上がったのは旧式のロボット――

 外装はポリカーボンの半透明装甲に無数の補修跡、頭部は円筒形センサー群――

 見たところ惑星開拓労働用ロボット(R-β型)を戦闘用に改造し――

 実際に、長年の戦役を経たように擦り傷や補修後の跡があるそれが――


「ワシが、中央士官学校副校長、グラーフ・オルデンであるぅぅぅぅぅぅぅッ!」


 クワッ! と光学センサーを見開きながら、講堂の空気どころから土台のまで揺るがすようなトンデモない大音量で叫びました。

  

 その大声にある学生は失神し、ある者は5秒ほど心停止、あるものは泡を吹くわの大惨事となるのですが、オルデン副校長はそんなことに気を留めることもなく、話を続けます。


「聞けぇい貴様らッ! 士官とはな、戦う前にまず動くやつのことだッ!

 動かん頭より、動く脚! 止まったAIより、走る馬鹿ッ! 

 机上の理屈を捨て、拳を振り下ろせっ!」


 そう言った副校長はω型の指先――とんでもなく強固で重量のある金属製のそれを壇上に拳をドガッ! っと打ちおろし、一撃のもとに教壇を破砕したのです。


「判断が遅い者は、このように敵に頭を潰される。

 計画ばかり弄んで動かぬ者は、艦を失う。

 失敗を恐れて固まるやつは、味方の死体を増やすだけだッ!


 故に我が校の鉄則——考える前に動け、動いた後で考えよ!

 行動が矛盾を暴き、行動が真理を示すのだぁぁぁぁぁあっ!」


 粉塵が舞う壇上で、副校長は拳を引き抜きながら怒鳴りました。


「掟を忘れたやつは、ワシがその脳を補助記憶ユニット化してやるッ!

 行動せぬやつは駆動輪の潤滑油に漬けて目を覚してやるッ! 以上だッ!」


 そしてオルデン副校長は光学センサーをビカビカピカッ♪ と点滅させるのでした。光過敏症の学生などはいい迷惑です。


 共生知生体連合を動かすエリート養成機関――

 中央士官学校とはこのような個性的な教官たちによって運用されているのです。


 そして二回生になって耐性のついたデュークは「慣れるって怖いなぁ」と思い、

 そんなものはないゴローロは「トンデモないところにきたもんだ」と脂汗を流し、

 そういうのが大好きなキョウカは「良き哉良き哉」と喜び、

 そもそもよくわかっていないニャルは「にゃ~?」と首を傾げたのでした。

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