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女海賊の決断

「……対艦弾道弾、着弾まであと240秒」


 旗艦タイモスからの指令を受け、300隻の艦艇が一斉に腹を割き、放った殺戮の矢は2,000を超えています。


 粒子収束徹甲弾、純粋融合弾頭、大型対消滅弾頭――

 中には、縮退炉を転用した重力子弾頭もわずかながら含まれていました。


 それらすべてが高速で宙域を滑り、目標である“あの艦”に襲いかかっているのです。


「シャルルや、あのデカブツは迎撃態勢に入ったかい?」


「アンチミサイルシステムの類は……いや、敵艦上に熱源多数――」


「よし、やっと動いてくれたわさ!」


 ドロレスは、対艦弾道弾を一種の囮に使い、その迎撃の隙に、全艦を突撃させ、至近距離まで殴り込みをかけようとしていたのです。


「奴がいかに大きかろうと、とりついちまえば……」


 彼女は自分たちの力を過信してはいませんでした。

 艦載機の攻撃が直撃しても、ビクともしなかった超大型戦艦なのです。


 これを仕留めるには、巨大なスズメバチをも殺すミツバチのように、ワラワラと取りついて、あれやこれやの手段で破壊するほかないと断じています。


 まさに海賊的な考えともいえますが、この場合の最適解であることは、間違いないとドロレスは確信していました。


「よし、野郎ども――」


 彼女が突撃開始を下令しようとしたその時でした。


「待ってくれッ!」


 戦場を俯瞰していた長男シャルルが待ったを掛けたのです。


「敵艦射撃レーダー起動、主砲に高エネルギー反応……!」


 副官の報告に、ドロレスの片眉がピクリと動きました。


「なんだい、ミサイルに大砲ぶっ放すつもりかいな?」


 コンコスン艦隊が放った弾道弾は、2,000発以上。

 

 それを迎えるには、砲塔の応答性が低すぎる――

 ドロレスがそんな思いを抱いた瞬間――


 キュバッ! っと、レーザーが6筋伸びあがり――

 同時にグルリッ! と、 砲塔が回転し、光の帯が宙域を駆け巡りました。


 そして数瞬の後――


 今まさに弾着の時を迎えようとしたミサイル群が、

 ドグワワワワァツ! と一斉に爆裂したのです。


「なっ……んだとっ?!」


 超大型戦艦の六門の主砲口から放たれたのは、光の束――

 まるで、光の“ほうき”が宙を掃き清め、2000発あまりの対艦弾道弾を僅かな間に消し飛し、戦域の端から端まで巻き起った爆発に、シャルルは呆気にとられる他ありませんでした。


「重ガンマ線レーザーの連続照射……それで薙ぎ払ったんだわさ……」 


 バクー帝国も重ガンマ線レーザーを実用化していますが、ミリ秒単位での点射が基本です。対艦戦闘にはそれだけで事足りますし、共生宇宙軍の艦艇であってもエネルギーロスを避けて同様の射法を取るのですが――


「薙ぎ払うって……あ、あいつ縮退炉を何発持ってやがるんだ……」

「――要塞用の大型縮退炉が少なくとも10発以上はないとできない計算だぜ」

「それって……あいつは要塞10個分の火力があるってこと……」


 無尽蔵のエネルギーを軽々とぶちまけた超巨大戦艦を目の当たりにしたシャルル、ロイス、アンリエッタの三兄妹は大混乱するほかありません。


「図体だけじゃない、まさしくバケモノってことだねぇ……」


 豪胆な女海賊として名を知られるドロレス・コンコスンも、薄っすらと汗をにじませ、いささかの焦りを見せました。


 しかし、彼女は歴戦の指揮官であり、優れた金属質の脳を持っています。

 生理的な焦りは「それはそれ、これはこれ」と脇に撃ち捨てて、眼前の光景に対処するべく、思考が稲妻のように冴えわたり――


(……この火力、想定外。いや、“想定不可能”だわさ。

 縮退炉十基超えのエネルギー放出……正面から殴り合ったらただのアホ)


 手持ちの全艦、全武装、全艦載機の航跡と位置を一斉に照合し――


(……ならば“次弾装填”までが、唯一のチャンス?

 全艦で突撃できるだけの時間があるかしらん……)


 彼女の経験と勘は、“敵艦の次射までの予想冷却タイム”を123.8秒と仮定し――


(行ける……か? 行けるかも知らん……

 突撃可能艦隊数、215隻――取り付けるのは17%くらいかいな?

 それで接舷戦闘で、どうにか――)

 

 全艦突撃の可能性を導き出すのですが――


(ええい、待つんだわさ、ドロレス(自分)や。

 そいつは希望的観測っていうやつ。縋っていいものじゃない――)


 と、わずかに心揺れた自分を叱咤しました。


 女海賊の脳裏には、超大型戦艦のシルエットが浮かんでいます。

 白く、そして雄大な――

 まるで“審判するもの”の如く、敵を前にただユルユルと進むそれが。


(そんなレベルの相手じゃない――

 あいつを、ただの“船”として考えたら負け。あれは兵器、惑星兵器……

 なら、兵器には惑星級兵器で……グランハーダ・システムをかまして――

 要塞砲と合わせりゃ……)


 彼女の金属脳はそこで最終的な可能性を計算し――


(理論上は……通る。間違いなく“傷をつける”ことはできる)

 

 と、端的な結論に至るのです。


 それは指揮官としての経験と勘、優れた金属脳を用いて、あらゆる可能性を考慮した末に導き出されたものでしたが、彼女はさらに思考を継続します。


 “それは意味のあること、なのかいな?”と――


「……」 


 しばしの沈黙の後――


 ドロレスはカッと目を見開き、こう告げました。


「――よし、やめだ!

 この勝負、乗ったら沈むだけだわさ! 全艦、きびす返して逃げだしな!」


 ――と。

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