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エンゲージ

 スイキーが決死の、

 文字通り死に至る加速を始めた数分前――


 JAMと呼ばれた航宙戦闘機が共生宇宙軍のアタッカー隊に迫っていました。


 ドドドドドドドドドゥッ!


 空間が軋むような、重低音の衝撃が走っています。

 それは音ではなく、波動。質量と粒子の爆裂する咆哮でした。


 JAM機の背部に据えられた対消滅ブースターが、むき出しの噴射口から青白い閃光を煌めかせ、排出された推進波は、星系内物質――薄く分布する空間粒子を泡立てながら二次反応を誘発し、音が伝わるはずのない空間そのものを爆ぜさせるようにして、機体を押し上げています。


「もっと加速できないのパズ」


「無理言わないでリュシタ、300G――これが機体の、限界だよ」


「まだいける、まだカラダは持つのに、もどかしいッ!」


「怒らないでリュシタ――

 ママ・コンコスンが、僕たちのために組んでくれたスペシャルなんだから」


 そのような会話を交わしているのは、コンコスン海賊団の末弟と末妹――

 双子の金属生命体、パズとリュシタでした。


「それに、やつらの加速は200Gもとれてない、直に追いつく」


 双子の兄――パズは、淡々と補正演算を進めていました。

 彼の役割は、航法士兼機関士。


 眼差しは正面を向いていても、焦点はもっと遠く、未来にあるようなものでした。

 敵機の進路、スラスターの偏向パターン、装甲の熱分布――


 それらすべてを金属脳で処理しながら、妹が最適な航路で、敵を追撃できるように最適なナビゲートを行っています。


「でも、こちらに向かってるやつがいるわ」


「上から軌道を合わせてきてるやつだな……

 180Gくらいでてるけど、あれじゃ追いつけない」


「はん、やっぱり、共生宇宙軍のパイロットって貧弱なのね」


「そういうことだ」


 彼らは自分たちの意図を察した共生宇宙軍のパイロットの意志を感じつつ、追いつけまいと高をくくっています。


「ん……リュシタ、前方経過、やつら、外装や推進剤をバラまいた」


「おーけぃ右旋回する。兄ちゃん、ぶん回すから」


 共生宇宙軍のアタッカー隊が追撃を振り切ろうと、出せるだけの物質をありったけ放出したのに気づいたパズが注意を促し、操縦士であるリュシタは右周りの回避行動に移ります。


 ドカカカカカッ!


 連続した核閃光が、双子の機体の側面で花開きました。


 それは核パルススラスターを用いた瞬間加速度350Gという凄まじいもので、慣性制御があったとしても、炭素系の生命体では瞬時につぶれ、ケイ素系の構造体でさえもメキリと何かが歪むようなもの――


「ふっ……ん。最小限の回避で、再度追撃」


「ふぅ……まったく、20秒も時間を稼げないってのに……悪あがきだわ」


 ですが彼らはそれを難なくこなし、追撃の手を緩めることはありません。

 強靭な金属生命体の中でも特に強固な個体である彼らは、それを可能とするだけの性能を有していたのです。


「よし、あと100秒だわ――」


「ああ、あと100秒だね――」


 100秒――奇妙に重なったパズとリュシタの声は、共生宇宙軍のアタッカー隊への死刑宣告のカウントダウンでした。


 いかな技術力の差があるとはいえ、後方からの追撃、加えて彼らの乗る機体は――


 航宙戦闘機の機体をベースに、軽巡の縮退炉と推進システムをつなぎ合わせた加速に全特化した機体なのです。


 その上、その機体は、重巡の装甲ですら艦外障壁ごとぶち抜くことができる強力な電磁砲を搭載しており、距離を詰めスナイパーライフルのように運用すれば、10秒とかからず攻撃機隊を鏖殺することができるポテンシャルを持っていました。


 彼らはさらに距離を詰めるべく、機体性能の限界一杯までの加速を続けました。


 ドッ!


「あと40秒……もう撃っていい、パズ? 完全に捕捉しているんだし」


「せめてあと30秒は待って、最接近して一撃で全部落とすんだ」


「ケチ。……でも、いい子にする。ママに叱られちゃうもんね」


「そうだね……って、ん……?」


 妹をなだめたパズが異変に気付きます。


「斜めから来てる機体の加速が250Gを超えて……なおも増速中――」


 連合の安全限界を軽くすっ飛ばした共生宇宙軍機が大加速を行っている、パスはすぐさま軌道計算を行い――


「やってくれるなぁ……ギリギリでこちらを攻撃できるぞ。こいつは、無人機か?」


「……あれ、乗ってるよパイロットが……

 なんていうか、“死にながらも戦意はある”って感じだけど」


 リュシタは「パイロットは、トリってやつみたい」と言いました。


「連合のエースかもしれないなぁ……」


「パズ、緊急出力をかけて、前のをやってから対処ってのはどう?」


「無理だな、機体を分解させることになる、今だってかなり無茶してるんだ」


「となると――」


 そこで双子は選択を迫られたのです。



 大加速を続けること100秒――


 トロンBの縮退炉のリミッターが改めてロードされると、加速は180G程度まで低下し、同時に――


『最大加速完了――搭乗者蘇生システム起動

 生体駆動ナノマシン――通電』


 機載AIが、スイキーのカラダに仕込まれていたナノマシンを駆動させ、


 バンッ! 


 心臓に打ち込まれていたプラグが大電流を流し込むと――


「ガハッ――――!?」


 100秒の間、死亡状態に入って大加速を乗り切ったスイキーが目を覚まします。


 通常であれば、蘇生直後は意識が朦朧とするところですが、意識喪失が短期間であったことと、戦闘薬の過剰摂取が脳をフル稼働状態へと一気に加速させました。


「敵機――JAMは――そこかぁっ! エンゲージッ!」


 フットペダルを蹴り込み、敵機に機首を向けたスイキーは、あらかじめホット状態で温めていたFCSのターゲットロックが敵機を捕捉したと同時に――


「落ちやがれッ!」


 脳波を用いてトリガーをスイッチします。


 パイロットの挙動を既に予測済みであったトロンBの機載AIは、機体に残された最後の火器である、重ガンマ線レーザー砲をバースト射撃を開始しました。


 敵機の捕捉から射撃までのタイムラグ、そして距離は現在10万キロ、それらが合わさり一秒後には着弾する、スイキーがそう思った刹那――


 ギィンッ! とJAMが旋回し、ドガッ! と急上昇します。


「これを交わすってのか⁉」


 急加速でベクトルを変化させた敵機がグングン天頂方向へ進んでゆく様に、スイキーは、敵機の後方へとトロンBを加速し追撃に移りました。


「食らいやがれっ!」


 再度レーザー砲がうなりを上げたその瞬間――


 ドンッ! JAMの側面で閃光が走り、機体が横っ飛びに跳びました。


「核反応スラスタだと――?!」


 JAM機には、核パルスエンジンのようなスラスターが搭載されているようです。

 スイキーは軌道を、爆発で“跳ね飛ばした”敵機の初動に驚愕を隠せません。


「当てられる気が、しねぇ!」


 叫びながらも、スイキーはJAMの後方を追い続けます。


 そう、スイキーにできるのは、ただ追いすがることだけでした。


 それでも――


「アタッカー隊は……!」


 JAMの本来の獲物だったはずの攻撃機隊は遠ざかっていくのです。


 戦術的勝利がここに“おおよそ”確定していました。


 あとはスイキー自身が撤退を成功すれば、それが本当に確定するのです。


「ただ、それができねぇ……」


 JAM機は後ろに目がついているような挙動をしていました。

 いえ、実際に見えているのでしょう。


 その上彼の意志を読み取るかのように、急激な加速を用いつつ徐々にポジションを修正し、後方から追いすがるスイキーを引き離してゆきました。


 その上、ガカッ! っと閃光が走ると――


「マジ……か⁉」


 敵機がそのままの位置で180度旋回したのです。

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