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駆け引きと紅茶と

「共生宇宙軍のやつら、戦場のど真ん中で補給だと⁈ 舐めやがって!」


 コンコスン海賊団筆頭子分のシャルルが叫びました。

 

 距離が離れつつあるといっても、まだ砲戦できる距離。

 なのに、共生宇宙軍が補給をしているとなれば――


「シャルルや、道化をきどるのはおやめ」


 ドロレスは「あんたは、芝居が下手なんだから」と言いました。


「へへへ、ママにゃぁ、敵わないなぁ……『空弁当』だろう、アレは」


「……その通りだろうねぇ」


 シャルルの言う通り、共生宇宙軍は空弁当――

 補給しているふりをしているのです。


「素直に見れば、ただの挑発だが……その意図は……」


 シャルルは金属でできた眉をゴリゴリしかめて唸ります。


「……ふん、そういう風に考えこませるのが目的――思考を誘導しているんだ。やつらには相当の策士がいる。主導権を取られ返されちまった」

 

 シャルルは苦々し気な口調でそう続けました。


「で、どうしたもんかね、ボンクラ息子や」


「ひでぇぜママ……ボンクラはねぇだろ」


 シャルルは唇の端を吊り上げ、笑いました。

 ドロレスが言葉の裏が分かるからです。


「じゃぁ、こうしよう、もうひとつ、“芝居”を打ってやろうじゃないか。どっちが上手か、見せてやる」


 その言葉に、ドロレスの目が細まりました。


「……ボンクラ息子のくせに、たまには気の利いたことを言うじゃないかね」


「へへっ、ママの子だからな」


 なんとも気の合った仲の良い海賊親子です。


 そしてシャルルは――


「空の弁当なら、こっちは“空の箸”でも振ってやろう。食うフリってのは、信じ込ませた方が勝ちだ」


 と言いました。


 ドロレスは実に満足げな、そして歪んだ笑みを浮かべました。



 さて、そのころ――


「ジュルジュルジュル……この紅茶おいしいねぇ~!」


「惑星イゾリア――フォーマルハウト航路第七宙域、氷晶群体の環を持つ半軌道惑星。年に一度しか採れない、極上の“風晶花”を茶葉にしたものですぞ」


 ペトラとルオタ少佐は、優雅なティータイムを決めていました。


「ルオタ少佐って、紅茶の蘊蓄や入れ方まで知ってるんだ~!すごいすごい!」


「お褒めにあずかり恐悦至極」


 ルオタ少佐は紅茶の飲み方にはうるさい人で、手ずからお茶を入れています。

 ここまでくるとただのオタクではなく、趣味人といえるでしょう。


「ん~敵の後退速度が落ちてるねぇ~」


「こちらの意図どおりに悩んでくれているようですな」


 ペトラ達はティータイムをしながら、バクーの動きを観察してもいました。


「じゃぁ、次の手は~?」


「もう一度、偵察機を出しましょう。戦闘開始後大よそは帰還させていましたが、もう整備は終わっています。索敵を進めるべきです」


「なるほど~~偵察機かぁ。戦闘も落ち着いたから、それもいいかも~~!」


 ペトラはウンウンと頷いたのですが――


「いえ、アタッカーもボマーも出します。ついでに航空決戦を仕掛けます」


「えっ、それだと、切り札を使っちゃうことになるけど?!」


 ルオタ少佐は空母部隊を投入し、その上、敵艦隊を叩くべきだと言いました。

 ペトラは、ププッと少しばかり紅茶を吹きそうになりました。


「出すのは戦力の半分、残り半分あれば、不測の事態に対処可能ですから」


 続けてルオタ少佐はこのような考えを披露します。


「前回の偵察は敵の“構え”を見抜くためのもの。ですが、今回は、“圧力をかけること”にあります」


「まあ、艦載機部隊を使えば、圧力どころか、攻撃できるけれど~~このタイミングだと、被害が大きくならない~?」


「いいえ」


 ルオタは端的に否定しました。


「航空決戦といっても、フリだけです。この意味がお分かりか?」


「あ、攻撃はブラフってことかぁ~。じゃあ、戦闘部隊をおとりに、偵察を完了しちゃおうってこと~?」


 ペトラの答えに、ルオタ少佐は満面の笑みを浮かべ、ティーカップを掲げました。


「ご賢察――そう、あくまで目的は偵察です」


 ルオタは言い切りました。


「どのみち、このまま進むのは危険が残りますから、それが最善の策でしょう」


「わかりみ~! それで敵が動いたらめっけもんだしね」


 ペトラは指先でくるくるとティーカップを回しました。


「うん、やろっか。“お弁当”の次は、“探しものごっこ”ってね~♪」


 そう言ったペトラは――


「で、賞品は……惑星まるごとってとこ?」

 

 いつもとは違った口調で、皮肉めいた笑みを浮かべます。


「ほぉ…………鋭いですな」


 ルオタ少佐はいささか面食らった表情になりました。


「あとさ、少佐……ついでだから、ちょっと教えて」


「なんでしょう?」


「空母部隊を動かす、フリ、ってとこで気づいちゃったんだけど……それってどこで覚えたの?」


「趣味は読書ですからな。歴史ものを読んでいれば思いつくことですぞ」


 少佐はティーカップを眺めながら、そううそぶきました。


「あれ、趣味はアイドルの追っかけじゃなかった? ま、それはいいけど、なんか、前から思ってたんだよねぇ~少佐って優秀だよね? 優秀すぎる?」


「ありがたき幸せですぞ……」


「でも、空母部隊と合わせて200隻――とは言え、艦隊戦の駆け引きどころか、心理戦まで出来る少佐って、ちょっとおかしくない?」


 ペトラが言わんとしているのは、そんな発想を一介の少佐が考えつけるのか? ということです。

 少なくとも、大佐レベルか、それ以上――

 仮に少佐が本当だとしても辺境艦隊にいるべき人財ではありません。


「なるほど……そうきましたか」

 

 面白いものを発見した子犬のようにキラキラとした目をしたペトラを見つめたルオタは――


「ふぅ、紅茶が美味しいですなぁ……」


 と、空とぼけたのです。

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