幼生期の終わり ~新たなカラダ~
「ふわぁ、良く寝たぁ……」
眠りから覚めたデュークが、フワワ~~と排気を漏らし、ゆっくりと周囲を見回しました。
「気分はどうだ、デューク」
「とてもいいよ……でも、なんだか微妙な違和感がある……」
周囲にいる老骨船たちとの距離感が近く、視点もやけに高い感じです。
「視界が変なんだよ……」
デュークは前方視覚素子のバイザーをバシバシと瞬かせるのですが、やはり違和感がぬぐえません。
「ネストがいつもより狭く感じるんだ。発着場って、こんなに狭かったかなぁ? 天井が低くなってるし。寝ている間に改装でもしたの?」
「いや、なにも変えておらん」
「でもさ……あきらかに低いよね」
腕を上げて天井を触ろうとググっと手を上げると――
ドコンッ!
「な、なんで、こんなに天井が近いんだ…………って……おわぁっ!?」
と、発着場の天板に当たり、メキッとヒビが入るのです。
「あぶないのじゃ、気を付けるのじゃ!」
「超硬化デュラスティールの天板にヒビが入るとは……なんとまぁ」
「パワーがましているのですぞ」
オライオ、アーレイ、ベッカリアが呆れた声を上げるのですが――
「ち、小さい、お爺ちゃんたちが小さい……」
いつもお世話をしてくれるお爺ちゃんズですが、いつもの半分くらいの大きさに見えました。
「それに、これは……」
カラダの周りを小さな幼生体が「デッカイよぉ!、デッカイよぉ~!」と飛び回っています。
「産まれたばかりの幼生……体?」
「違うよぉ~あたし、メーネだよぉっ!」
「ええっ、これが……メーネ? えええ、メーネって100メートル位だったはずだけど……」
本能的に電波測定を行うと、100メートルくらいのフネの子どもだとわかります。
また、周囲のおじいちゃんたち、その大きさも変わってはいませんでした。
「あ、これって……」
そこで彼は気づくのです。
「僕が……」
――大きくなっただけ、なのだと。
「そうだ、デューク。お前が大きくなったのだ――」
ゴルゴンが言いました。
「全長 ”1,080m。全幅100m。全高300m" の巨大なフネとなったのだ!」
「凄いぞ、1キロ越えだぞ!」
「デッカイとしか言いようがありませんなぁ!」
「あらら、さすがに、ご飯を食べさせすぎたかしら」
「1キロを超える龍骨の民はこれまでいたかなぁ?」
「昔、ライデンという巨艦がいたそうだけど、最近じゃぁ聞かないわねぇ」
老骨船たちが叫んだり、驚いたりするのも仕方がありません。
デュークのサイズはまさに規格外のスケールを示していました。
「1キロ……単位が、変わっちゃったね」
なお、ライデンとは、1キロを超える巨体に怪力を有して並み居るフネをなぎ倒し、100連勝という前代未聞の大記録を成し遂げた龍骨相撲史上最高のチャンピオンでした。
「それに匹敵する巨体だわ! 器官も相当に強化されているみたい」
「視覚素子も大きくなっておるのぉ」
「汎用格納庫が至る所に出来ていますな。さてはて、数えるのも一苦労ですぞ」
「カラダの大きさに見合った推進器官だなぁ。私のより効率が良さそうだ」
「漏れ出る重力波が強いが、バランスは良さそうだ、縮退炉の再配置は完全だな」
老骨船たちがカラダの各所を調べてるのをデュークは大人しく待っていたのですが、しばらくしてこのように尋ねるのです。
「ねぇねぇ、ところでさ、僕って何のフネに成ったの?」
「脇腹に付いとるゴッツイ器官を確かめるのじゃ」
オライオがゴツゴツとデュークの脇腹を叩きながら、副脳を通してアクセスするように言いました。
「これは生体兵装ってやつか」
デュークはカラダに付いた新しい部品の開口部をシャキシャキと開閉させました。
「……これって“大砲”だよね?」
「ああそうじゃ、10メートル級粒子ビーム砲が両舷合わせて24門。その他に汎用格納庫には生体ミサイルが沢山詰まっておるじゃろ? 個艦防御レーザ機銃もたくさんついとるのぉ」
「つまり、どういうこと?」
「識別符号を確かめると良い」
ゴルゴンがフネの識別符号を確かめろと言うので、デュークは龍骨の中から湧き出す自分自身のコードを眺めます。
「僕の名前にBBってコードがついてる……」
BBそれは共生知性知生体連合において軍艦を示すものでした。
そして――
「軍艦……それも戦艦だけが示せるコードだ」
ゴルゴンがそう言うと――
「じゃあ、僕は戦艦になれたんだ!」
デュークは、カッと目を見開き、叫び声を上げました。
「うむ、デッカイ大砲を備え、武装を山のように乗せた戦艦じゃのぉ」
「ははは、背中の上にまだ余裕がありますな。発展的余裕を持った戦艦ですな」
「多分そのうち砲塔も生えてくるだろうが……既に凄まじい火力を持っている」
老骨船たちは口々に「お前は戦艦だ!」と言うのです。
「えっと、そうか! 僕は戦艦になったんだね!」
デュークはまだ長くなったクレーンを動かして、「やったね!」と喜びました。
「そうじゃなぁ。お前は戦艦じゃな。それ以外に見えないのじゃが…………」
そこで何故かオライオが口ごもります。
「え? 何か問題でもあるの?」
「えっとな…………間違いなく戦艦なんじゃが……っていうか、その、なんだ……珍しい肌の色をしておる……と思ってな」
オライオがポツリと漏らしました。龍骨の民の軍艦は、金属質の装甲板を持っているため、多くは銀色に輝いています。でも、中には赤、青、黒などの色味を加えたフネもいるのです。
「色って、何色なの? 自分のカラダって良く見えないんだけど」
デュークが尋ねるのですが、老骨船たちは一様に口を閉ざしています。仕方がないので、デュークはグッとカラダをひねって、自分の肌に視覚素子を向けました。
「ん…… あれ…… 見間違いかな……?」
視界の端に僅かに見えている自分の装甲板を眺めたデュークが、何かに気付き、押し黙ります。
「……」
そして――
「この”白色”……こ、これじゃぁまるで――」
なにか信じられない思いで、このように叫びました。
「幼生体の色じゃないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
デュークの巨大なカラダを、白くて艶々とした外殻が覆っていたのです。




