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威力偵察 その9

「敵艦隊近づく――――まもなく全艦の射程圏内に入ります!」


 威力偵察部隊巡洋戦隊の主砲がバクーを捉えつつあります。


「今、入りました! 全艦統制射撃戦用意、よし!」


 ペトラを補佐するルオタ少佐は――いまいうのもなんでしょうが、実ののところあのラスカー大佐――いまは昇進して准将に昇格したアライグマの後輩であり、統制射撃戦を得意としていました。


「いっちゃえぇぇぇぇぇぇ~~!」


 ルオタ少佐からのゴーサインがでたペトラは連装5機の重ガンマ線レーザー砲塔の内、前方を指向する4機に熱を入れました。


 ペトラの主砲塔内でカッ! と対消滅反応が生じると、宇宙を割るような閃光が生まれる一斉射――八門の重ガンマ線レーザーが同時に発射され、続いて隷下部隊の巡洋艦群が怒涛のように火線を重ねます。


 コヒーレントで極めて強力な光電磁波がズバッ! と伸び、バクー帝国艦隊へ押し寄せ――――


「弾ちゃ――――く、今!」


 バクー帝国の戦列艦はその光を真正面から受け止め、バシッ! 第一波のエネルギーが艦外防壁――重力場と電磁波のバリアを叩きに叩き、煌めく光芒が溢れます。


「第二射、()ッ!」


 共生宇宙軍はビシバシと重ガンマ線レーザーを撃ちまくるのですが、バクー側からの反撃はいまだありません。これは帝国側のレーザーは、共生宇宙軍の8割強程度の有効射程しかないためです。


「敵艦隊に損害を認るも、なおも増速中――――にじり寄って来ますなァ」


「にじり寄ってくるよぉ~!」


「機関逆進、相対距離の減少を緩やかにします。指揮官殿は、戦闘で撃ちまくっちゃってください、射撃修正はこちらで支援します」


「お願い~~!」


 部隊の射撃式をルオタ少佐に任せたペトラは、続けざまに5斉射ほどのレーザーをバクー帝国に向けて放ちました。


「うん、この手ごたえは艦外障壁を抜けたよぉ~~!」


 最後の射撃では、ペトラはバリアの隙を突くような波長で有効な射撃を行えたと確信するのですが――――


「あらら? 思ったより効いてないよ~~?」


「物理装甲で、相殺されておりますな」 


 障壁の隙を突いた重ガンマ線は、敵艦の表面塗装を焦がし、一時装甲を炙る程度の効果しかありませんでした。


「他の艦の射撃も同様です――敵さん、思ったより重装甲ですぞ」


「なんでぇ~?」


 共生宇宙軍の見立てでは、第10射するころには、たとえそれが戦艦級であっても有効打を浴びせられることになっていました。


 多少の効果――二・三隻の小型艦を撃退させてはいますが、他はまだ戦闘不能に陥らせることができません。


「敵艦発砲! 狙いは、数か所に絞られています! 狙われている艦は防御態勢を取らせます!」


 バクー側はレーザー兵器の能力差を埋めるため、集中運用を行ってきました。それは予想をはるかに超える打撃を加えることになります。


「軽巡タルティーヌ機関にダメージ、速度が20パーセント低下します。軽巡ラザニエ一次装甲に亀裂発生! 重巡ガレット・ド・ルナ損害軽微なるも一番主砲塔喪失――――」


「うわわ~~~~!」


 ペトラは味方に損害が出たことにビックリしました。


「ある程度は予測できたことですぞ! 損害を受けた艦はこちらで対応しますから、あなたは前方に集中、兎に角撃ちまくって味方を鼓舞するのです!」


「わかったよぉ~~!」


 と、ルオタ少佐の的確な補佐の元、ペトラはズババスババと賑やかに主砲を撃ちまくります。


「ん~~、やっぱり効果が薄いよぉ~~! 艦外障壁は抜けているはずなのに~~」


「光学観測データ……こいつは増加装甲ですな。それに溶融型耐レーザー塗装の厚化粧――」


 バクー艦の艦体の上には他から持ってきた増加装甲が張られ、そのうえレーザーがヒットすると気化して効果を分散する塗装がベットリと塗られていました。


「なるほど、旧式の海賊船の装甲板を転用したようです」


ルオタ少佐が、敵艦装甲の一部に刻まれた文字を指し示す。


「“BAD DOGS, NO GODS, NO BOSSES, DEATH IS A JOB BENEFIT”――これは、海賊船の残骸です」


それは、かつてこの宙域を荒らしていた無法者たちの艦。その残骸を鹵獲・解体し、装甲板として再利用していたのです。溶接は雑で、リベットは飛び出し、塗装も剥がれかけ――だが、防御力だけは一級品でした。


「その上に帝国章を重ねることすらしない――“死者の皮”をそのまま盾として、再び戦列に並べています」


「冷静な分析はいいけど~~! どうしたらいいのぉ~~?」


「まぁ、兎に角ぶっ放し続けましょう。敵は増加装甲で防御力が上がっていますが、その分動きが取れませんから、取り急ぎ事態は大きくかわりません」


 さらに濃密なガンマ線が放たれ、連続して前方の艦を襲いますが、バクーの戦列は動きません。でも、艦列を動かしての包囲網を作る様子もないのです。


「このまま殴り合いするしかないのかな~~? いたッ!」


 ペトラの障壁を抜けてレーザーがお肌にヒットしました。


「大丈夫、その程度はかすり傷、かすり傷。他の艦もダメージが入っていますが、後方でローテさせれば問題ありません。下げた艦は応急処置すればまだまだ戦えますし――」


 そこで、ルオタ少佐は「アレをごらんなさい」と言いました。


「ええと、敵も艦を下げてる~~?」


「ええ、ですが、こちらと違って、戻ってはこない様子――構造上彼らの艦には無理が多いのかもしれません」


 いくら増加装甲をつけていたとしても、その防御は完全ではなく、また隙間からレーザーが飛び込み艦体に直撃することもあるのです。その上、バクーの艦艇は共生宇宙軍に対抗するため、随分と無理をした設計のようです。


「また、彼らのダメコン技術はまだまだのようですな――――おっとッ! 左翼方向に熱源反応――――」


 バクー艦隊はレーザー砲撃船のさなか対艦弾道弾の一斉射撃を行っていたようです。


「――全艦で対抗射撃~~!」


「伝達完了――――! 対対艦弾道弾迎撃戦――用意良し!」


「いっけぇ~~!」


 ペトラは連装ガンマ線レーザーの他、対対艦弾道弾迎撃ミサイルをぶっ放し、僚艦もそれに続けば、ミサイル群はあっという間に消失します。


「当たったらただじゃすまないけれど、撃ち落とせば問題ないもんね~~!」


「しかりしかり」


 砲撃戦はある程度の膠着状況に入ったため、それだけにペトラは段々落ち着いて全体を把握できるようになってきました。戦闘開始当初はワタついていましたが、彼女の適応能力は大変に優秀なのです。


 そのようにして、ペトラが指揮官として戦場を俯瞰できるようになったころ――バクー側に新たな動きが出てくるのでした。



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