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威力偵察 その8

 ペトラ率いる巡洋艦部隊は宇宙に広がる敵から見て縦横に艦を並べるという壁のような隊形で進んでいます。もちろん全艦で壁を作るというものではなく、立体的に見れば前方に60隻、その後ろに20隻と言った陣形でした。


 それは恒星間戦争においてはシンプルな部類の陣形であり、策を弄さずに真正面から戦うという趣旨が誰からもわかるものです。


「バクー海賊帝国はひし陣形かぁ~~」


 対するバクー帝国軍は前からみるとひし形――四角陣を少し押しつぶしたような陣形で緩やかな奥行きをもっています。


「あの陣形、ルオタ少佐はどう考えるぅ~?」


「逆円錐陣形――戦闘が始まったらこちらを押し包む形に広がるでしょう。敵軍は前面に100隻、後方に30隻――予備隊として20隻の逆円錐陣形をとっています。少なくとも光学観測で分かる範囲ではそうなっており、当面は正面からくるつもりのようです」


 ペトラの参謀兼部隊副官的な立ち位置にいるルオタ少佐はデータをみやりながら、そのように解説します。


「とりあえずは、敵さんもガチバトルをご所望ってことかぁ~~!」


「なお、前面戦力比率は1:1.2――相手には戦艦10、重巡20が含まれ、こちらは戦艦はおりません。やや不利と言ったところでしょう」


 ペトラ率いる部隊は巡洋艦を主体とした威力偵察部隊――前面戦力においては半分くらいであり、技術的な差を考慮しとしても、いささか不利なものです。


「だからって、全艦を前に出すのは阿呆のやることだよね~?」


「そうですな」


 前面戦力の不利を覆すために、残りの20隻も投入――それをやったら敵の後方にいる遊撃部隊が動き出し回り込まれた時に、対処ができなくなります。部隊指揮経験のほとんどないペトラだってそれくらいは分かるのでした。


「少し陣形を変えて、対応力をあげよぉかな~?」


 そこでペトラが副脳にアクセスし戦術情報から別の陣形データを取り出そうという素振りを見せました。


「それは、おやめください」


 ペトラが戦術データにアクセスするのをルオタ少佐は制止しました。


「この期に及んで、下手に動くのは愚策の極み。このままぶつかるのが上策です」


 その口ぶりはをたしなめるような色が乗るもであり、上官に対しては、ちょっとばかりキツイ物言いです。身分階級がカチコチな貴族的恒星間勢力の軍隊であれば「貴様ッ! 下級貴族の分際で侯爵家の――」などと言ったセリフを聞くことができるかもしれません。


 ペトラは共生知生体連合における執政官候補――実のところ侯爵どころか帝家レベルの存在ですから、「えええ~~? なんでぇ~?」と抗議してもいいのですが――


「なるほろぉ~~!」


 彼女は最近「執政官候補って結構ヤッベェ存在なんだお~~!」と理解しています。


「うんルオタ少佐のいうとおり~~! ルオタ少佐の言や良し~~!」


 ペトラは部下の苦言は蜜の味――――というほどに、喜色を露わにするのです。なお、口ぶりがどこぞの銀河覇王様っぽいのは、どっかでそういうアニメ――休暇の時に路上で買った海賊版――を見ていたのでしょう。


「我が意をご理解いただき、恐縮です」


 ルオタ少佐は胸に手を当てて、皇帝陛下にかしずく臣下のような素振りを見せました。なお彼はドルオタでアニオタなのです。「ですが海賊版はいけませんなァ。割れとかも駄目ですぞ」などと釘を刺すのも忘れません。


「さて、そろそろ砲撃射程に入ります。全艦に第一種戦闘配置を下令します」


 重ガンマ線レーザーは数光秒――場合によりそれ以上の射程があります。恒星間勢力の戦いとは100万キロ単位で行われるものでした。


「……指揮艦の発砲に合わせオールウェポンズフリーとします」


「よぉし…………」


 敵の艦列はもうそこに見えています。ペトラは龍骨をブルっと震わせながら、照準を敵艦に合わせるのですが――


「あれ、ロック解除できないよぉ~~?」


 砲塔がアームドになりません。軍艦の武装と言うものは厳重に管理されているのもので、命令がなければ簡単に動かせるものではないからです。特に龍骨の民の兵装ロックはものすごく厳重です。


 花粉とかでヘクション! とくしゃみをしてレーザーをぶっ放し、惑星の大気上層をかすめでもすれば、電磁パルスどころか鬼のような核反応で惑星を焼くこともできますし、「あっ手が滑った」と重力子弾頭をポロっと軌道上から落としでもすれば大陸が消滅します。


 でも、今は戦時――――今撃たなければ、いつ撃つの状態でした。なのに――


「あれ? ロックが外れない~!?」


 ロックが外れず、ペトラはアタフタします。その様子を眺めたルオタ少佐は「やはり緊張しているのか」と呟いてから、こう告げます。


「指揮官なのですから、自分自身に命令するのですよ」


「あ、そうだった~~!」


 ルオタ少佐の言う通り、もう武装のロック解除は命令されるものではなく、ペトラが行うべきものだったのです。そしてペトラは慌てて、自分自身に命令を下します。


「威力偵察命令下における、基本方針――見敵必殺、見敵必殺、サーチアンドデストロイ~~ッ!」


 ペトラが自分の受けている命令を思い出し、「見敵必殺、見敵必殺ぅ~~!」と龍骨の中で連呼します。


 すると彼女の龍骨の中でピキーンとか、パキーンとかいう音が鳴り、連装5機の重ガンマ線レーザー砲塔がぐるりと動いて敵を指向し、核融合・対消滅・重力子弾頭搭載の対艦弾道弾がアームドになり、多機能格納庫から各種兵装がギョィンと姿を現しました。


「よぉしやっちゃうぞぉ~!」


 このようにして、指揮官ペトラ率いる部隊と、バクー帝国との正面切っての戦いが始まろうとしていました。

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