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威力偵察 その5 ~共生宇宙軍歌~

「ステルス解除ぉ~!」


 バクーの支配星系内部に押し込み、指揮官先頭で突進するペトラがステルスを解除しました。そして彼女は――


「アクティブレ~ダ~! グラヴィティビ~ムッ! センサレェザァ~~!」


 などと言いながら、四方八方に向けてジャンジャンバリバリと電波を飛ばし、ゴォンゴォンと重力波の汽笛を用いた指向性重力波を所かまわず放ち、センシング用の低出力パルスレーザー砲をポンポンポンとまき散らします。


「探照灯もつけちゃうぞぉ~!」 


 ドバッ! と、プラズマアーク灯を点灯すれば、もはや満艦飾ともいえる状態です。これは「我を見よ! 我を見よ! 今まさに我をみよぉ~~!」と叫んでいるようなもので、相手方からすればその位置情報がバレバレになるものでした。


「指揮官殿が気張っておられる。我らもレーダー出力最大で発振せよ!」

「おお、全帯域で電波を飛ばすぞっ! 敵に見せつけるんだ!」

「我らここにあり、共生宇宙軍の威を示せっ――!」


 でも、現状における命令は威力偵察――見敵必殺、殴り合い上等、だけど必ず帰ってこいなのですから、敵に自分の存在を知らしめ、撃たせることが目的ですから、これが最適解――すでに歌の自己紹介で皆さん脳を焼かれている部下たちもいますからノリノリ全開で追随します。


「じゃぁ、加速&ミュージックスタートォ~~♪」


  続けてペトラは大加速を開始するとともに艦外映像投影装置を起動させ、共生宇宙軍歌を歌いながら突撃を始めるものですから――


「よぉし! よぉし! よぉし!」

「それでこそ我らが指揮官っ!」

「完全ライブ録画してます!」


 などと、部下たちはノリノリを越えて、お前たちいい加減にしろ! と言うべき状況に突撃します。くだんのルオタ少佐などは艦橋でサイリウムを振りまわすというオタ芸を披露しながら「ペトラた~ん!」などと絶叫する始末でしたが、彼的には定常運転なので問題ありません。


「ええ、全く問題ありませんぞ」


 さて、どこか第四の壁を突き破りそうな独り言を漏らしたルオタ少佐ですが、実のところこの男は基本的に優秀な軍人なので――「左舷側を量子レーダーで丹念に洗っておくのですぞ。それから、偵察機とのリンクは切らしてはいけませんぞ」などと的確な指示を飛ばしています。


「むしろ問題は指揮官どのですぞ――さすがに無理をなされておられる」

 

 彼はペトラがこの時見た目ほど余裕がないことにも気づいていました。美少女型義体の笑顔とは裏腹に、指揮もそうですが、いつ敵に撃たれるかもしれないというストレスがあるのです。そして本体のペトラの目がこわばっているのを見た少佐は「お助けせねば」と場を和ませようと、率先してお馬鹿な姿を晒していたのです。


「指揮官殿の生体反応は確実にウォッチしておかねばならん。本格的にまずいことになったらこちらで巻き取れる手はずをとっておかないと……」


 少佐は気の置けない士官だけに伝わるように、そのようなメッセージを放っていました。そう、彼は本当に優秀で気の利く軍人――なにしろ考課表には「生え抜きの叩き上げにしてよく気の回る男。趣味と性癖が度し難いと言う点は見逃してやれ」という軍お墨付きの記載があるくらいなのです。


 さて、ペトラの部隊を後方から追随する高速型空母を中心とした機動部隊では――


「よし、ペトラは上手い事、部隊の統率を取れたようだな。細かいことはルオタ少佐がサポートしてくれているしな」


 と、スイキーが前衛から送られてきたメッセージを眺めてニヤリとしていました。


「しかし歌で部隊を統率するだと? ある意味見事な統制力ともいえる……なるほど、スノーウインドのばあさんが目を掛けるわけだ。となると、執政官候補生はデュークだけではないということか? ふむ、ナワリンもあわせて二隻にも目をつけておく必要があるな」


 などと、いずれ執政官となる立場のスイキーは政治的で生臭い思考を巡らせるのですが、彼は「ま、そいつはさておき――」と旗下の航宙機部隊の様子を確かめます。


「護衛空母の艦載機も合わせて、F(戦闘機)、A(攻撃機)、B(爆撃機)それぞれ50にR(偵察機)が20――贅沢なことだぜ」


 その戦力は実に大したもので、運用を間違えなければ百隻からなる小艦隊と真っ向からの殴り合いができる程でした。


「さて、先行させた偵察機はどうしているかな?」


「はい、予定通りの位置で索敵行動中です」


 そうスイキーに応えたのは、空母部隊の航空参謀ジェイムズ・ブックメイカー中佐です。


「しかし良かったのですか。本来あれは閣下の所持品ですが」


 スイキーは共生宇宙軍の縮退炉搭載型の試作艦上戦闘機――デュークに装備されていたものを偵察機として部隊に引き渡していました。


「いいんですよ。俺が出るわけにもいかないし。それにあの期待はステルス性能も最高――その上マルチロールにもほどがあるほどの機能がある。となれば、先行偵察にはもってこいだ」


「ほぉ……」


 ペンギンの皇子様であるスイキーは航宙戦闘機パイロットであることを誇りに思っていますが、どこぞの前線出たがり総帥とか、自分で異星人に核弾頭を打ち込まないと気が済まない大統領のようなプライドは持ち合わせていないのです。ブックメイカー中佐は「そういう性癖を持つ指揮官が時々いて困ります。閣下がそうではなくて良かった」と言いました。


「ああ、閣下は許してください中佐。あのヒツジのおっさんが任務部隊を任せるために無理くり准将格にしただけで、俺はただの士官候補生ですから」


「それでは殿下とおよびしましょうか? フリッパード・エンペラ帝国皇太子スイカード様。星系軍大佐。メカロニア戦役では皇帝代理。中央士官学校学生にして執政官確定候補――ふむ、少将格でもおかしくはありませんが?」


「だからやめてください、親の七光りを馬鹿にされているような気がします」


「ふむ……実戦経験も相当にあると聞いていますから、そうでもないとは思いますが。撃墜数はたしか5を超えていますな?」


 実のところスイキーは星系軍時代にパイロットとして相当の軍務経験があり、名前を隠して前線部隊に入って、どこぞの星域で派手なドンパチを繰り広げたことがあるのです。


「パイロットとしての経験はそうかもしれません。でも、アレはイコカとしてのものですから」


「ああ、イコカ――そんな名前の腕の良い星系軍パイロットがペンギン帝国にいると共生宇宙軍にも伝わっておりますな」


 そう言った中佐は「ああ、そうそう」と言葉を続け――


「女癖の悪さも伝わっています」


 などと言いながらお茶目な笑顔を見せながら「パイロットはモテますからなぁ」などとサムズアップしました。スイキーは「たはは(クカカ)…………」と情けない鳴き声を上げるほかありませんでした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

共生宇宙軍歌はXにてペトラ本体のイメージに載せています。

https://x.com/IrondukeJp/status/1901168343400521848



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