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威力偵察 その3

「臨時編成の部隊を率いるとはな。いきなり難しいことをやらせるもんだ」


「そうなんだよ~難しそうだよぉ~!」


 威力偵察にあたって臨編部隊をあてがわれたペトラは、その後詰となる空母打撃部隊の指揮官スイキーにちょっとばかり相談をしていました。基幹となる部隊は元からの部下なので、まだなんとかなるとしても臨編の部隊編成は大変難しいことなのです。


「スイキーは元々の部隊だけだからいいけどさ~!」


「そう怒るな。俺も後方からサポートしてやるからさ……そうだ、こういうときの

コツも教えてやるよ」


 スイキーも一介の士官候補生ではありますが、星系軍では少佐まで上ったエリートであり、星系代表の御曹司であることから相当な帝王学を身に着けています。はっきり言って国家元首をやるためにヒナのころから教育を受けているわけで、組織論やら部下掌握術というものに長けている上――


「ペンギンってな右へ倣えな種族だけどな。右を向かせるまでが意外と大変なんだよ。まぁ、こいつは他種族だってそうだが、そうさせるためのコツなんだが、ポイントは色々ある。目的はカッチリ決める、人の強みを即活用、指示はシンプルに、即席でも信頼づくり、失敗を恐れない――こんなところか」


 と、彼はこれまで受けて来た帝王学、星系軍での経験、中央士官学校の学習などから、要点を伝えました。


「その中でも、最初の信頼作りがポイントだぜ。こういう場合は最初にガツンと一発かましたり、ギュっと心を鷲掴みにしたり、いっぺんこっちの腹を見せて『こいつとならやれる』と思わせることが肝心なんだ!」


「なるほど、掴みが大事なんだねぇ~!」


 ペトラはホエホエフワフワとした性格で、いつも斜め上のことを考えている不思議ちゃん体質を備えた一見アホの子なのですが、さすがに中央士官学校に入校できるだけの優秀な龍骨(頭脳)をもっているので理解が早いものです。


「だけど、ガツンッ! とかましたりは難しそうだよぉ~」


「確かに、お前さんじゃ貫禄がたらんわなぁ」


「最初の部隊をもらった時はなんとかしたけれど~」


 ペトラは最初に中隊をもらった時には、普通の方法で普通に指揮権を確立しており、アホの子に見えるだけで基本的には優秀であることを示していました。ですが急遽結成された臨時編成部隊の指揮確立となると状況が違うのです。


「ううむそうだな、何か得意なことをやって目を引いてから訓示とかしたらいいかもしらん」


「ボクの得意なことは食べることだよぉ~!」


「そらそうだが、それじゃ他の龍骨の民とかわらんだろ。一発芸とかでもいいから、お前さんらしいものはなにかないのか?」


「んじゃ、ドラゴンブレスでもしようかなぁ~?」


「……いや、それはせんでいい。というかアレは芸だったのかよ」


 マーライオンは戦場においての最適解だからこそウケるという物であり、初対面の方々の前でそれをやったら指揮統制どころか指揮官解任を受けるかもしれません。


 そして「ん~~~~」などと、しばらく考えこんだペトラは「それじゃアレをやってみるよぉ~!」と言ったのです。


 さて、ペトラが率いるは臨時編成の高速巡洋艦部隊が集結しつつある場所では――


「臨編の高速巡洋艦部隊による威力偵察。司令部は、星系内の状況を把握してから乗り込むつもりだな」


「うむ、バクーどもの戦力が想定以上となれば妥当な判断だろうと思うが……」


「しかし、臨時編成で、その上、部隊指揮官が中央士官学校の候補生様とはなァ」


 急に集められた艦の艦長が、そのような会話を行っていました。作戦の目的について理解があるように、 臨時に集められた艦長達はそれなりに優秀な者が揃っているのですが、現状にいささか冷ややかな目をしています。


「しかも龍骨の民なのだろう? 相当に優秀なのか、それとも相当に抜けているか――ご飯をもっと貰えるから指揮官になりました! 指揮の事は全く分かりません! というような類であれば問題だぞ」


 龍骨の民は大体そのような定評があるのです。ぶっちゃけた話、デュークが指揮権を確立しやすかったのは、彼自身の武勲としっかり者の先輩が副官についてくれたところが大きいのです。


「さすがに中央士官学校の候補生だからそれはないとは思う。まぁ、もう一隻の赤い高速戦艦と同じように優秀な事を期待するだけだな」


「候補生と言えば、後詰はフリッパード・エンペラの皇子様ということだな。こっちは大丈夫か?」


「ああ、アレは星系軍では名だたるパイロットで、先のメカロニア戦役では大艦隊を指揮したこともある実力者ということだから問題あるまい。士官学校云々は執政官コースに乗るための建前なのだろう」


「ふむ、なるほど。実力者が後ろにいれば問題も少ない――按察官はそれでバランスを取ったということか」


「どちらにせよ、実戦でそういうことをやるのは、いかがなものかと思うがな。あの頼りない按察官様も含めて」


「しかたあるまい、シビリアンコントロール下にある共生知生体連合とはいえ、事実上執政官には軍務経験が必須だ」


 共生宇宙軍の巡洋艦長クラスともなると共生知生体連合を取り巻く表裏の事情についてある程度の理解があり、政治的な側面についても一言持っているのです。


 艦長達がそのような会話をしていると、大隊司令部からの整列命令が発令され、各艦は艦首を揃えて艦列を並べます。そして彼らの目の前に青い巡洋艦がズズズと姿を現しました。


「ほぉ、あれが重巡洋艦ペトラか。なかなか強そうなフネだな」


「だが、フネとして強くとも、指揮官としてはどうだろうな。そこが肝心だ」


「しかも若い。艦齢4歳にみたない若造か……」


 中央士官学校の候補生の取り扱いは共生宇宙軍の中でも別格であり、優秀であることはお墨付きなのですが、若すぎる指揮官でしかも龍骨の民ともなれば、集まった艦長達に不安が残るのも当然ですが――


 突然、ペトラの艦上構造物である探照灯がカカカッ! と、点灯し彼女の甲板をスポットライトのように照らします。


 照らされた場所には小高いステージの様なものが設えられており、そこには一人の少女――明らかにヒューマノイドとわかる少女が立っていて――


 「総員、けいちゅぅ~~~~っ!」


 などと、どことなく間延びした声を響かせたのです。

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