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星系強襲上陸 その9

「ううむ、これが最新の橋頭保戦術というものですか」


 艦隊旗艦では、メリノー按察官が前線から送られてくる第一陣の報告を確かめ、感心したような呆れたような表情を浮かべています。


「不要な軍艦を盾にした重武装龍骨艦の盾艦戦術をもって機雷陣を踏みつぶしこれを突破。開口部に待ち構える敵の攻勢は、持ち前の重装甲と特殊戦法で耐え抜き縦深と時間を稼ぐことで後続の展開を容易にします」


 艦隊旗艦司令部付のリリィ教官は、ナワリンの行動についてこのような解説を加えました。


「なるほど、強固な装甲を持つ龍骨の民に盾を持たせるのであれば機雷源も突破できると……」


 実のところ、龍骨の民に盾艦を持たせるという戦術は共生宇宙軍では何度か計画されてきたのですが、「盾なんて持ったら重心が変になる」やら「航宙の邪魔だから持ちたくない」とか「自前の装甲だけでいけると思うがのぉ」という声が上がり、何度も頓挫していたのです。


「メカロニア戦役にてカークライト提督が効果を実証してくれましたから、これから正規の戦術となるでしょう。まぁ、脱落艦がでるような星系強襲上陸など場面でしか使えませんけれど」


「しかし、あの特殊戦法は、いささかアレですなぁ。見ようによっては巨大な竜が炎の吐息を漏らしているとも、生体兵器としての龍骨の民の機能を最大限に活用しているとも考えられますが」


 メリノー按察官はナワリンが行った重金属雲を展開してレーザーを防御するという方法、つまりお腹いっぱいにため込んだマテリアルを逆噴射するという特殊戦法について苦笑いし「かなり恥ずかしい行為のはず……それも龍骨の民としての尊厳にかかわるレベルで恥ずかしいのではないでしょうか?」と言いました。


「死ぬほど恥ずかしいと思いますよ。でも、彼女は軍人ですから」

 

 と応えたリリィ教官は「彼女自身が最適解だと選択した結果のドラゴンブレスなのです」とニッコリと笑いながら言いました。


「まぁそれはそう言うことにしておきましょう――おかげで余裕ができた第二陣は楽々と布陣できていますな」


「ええ、橋頭保付近の機雷を掃海しつつ、第三陣、第四陣の展開に備えています」


 などという会話がなされる中――


「なんという想定外…………だ」


 えらく落ち着いた風情の二人と比べて、メリノーの副将であるハバシ准将はサル顔に浮かんだ丸い目をひん剥いていました。


「ハバシ准将?」


「え、いや、そ、想像以上の戦果ですな!」


 メリノーが「どうされた?」と言う感じで尋ねると、取って付けたような感じでハバシ准将が「あの士官候補生は随分とやりますな!」などと答え、額に汗を浮かばせました。


「想定外で想像以上? たしかにそうかもしれませんが、バクー海賊帝国の戦力が予想以上に強力であることの方が想定外ですわね」


「た、たしかにそれはそうですが」


 ハバシ准将がなんだかアタフタする光景を横目に、両手をスリスリさせたリリィはなにやら愉快気な表情でそう言います。その様子に可笑しみを感じたようなメリノーは、指揮杖を口元に当てて泰然自若とした感じで佇んだのでした。


 さて星系外縁部でのバトルが続いているそのころデュークは敵根拠地へのスターライン航法に入り第一陣の状況を確かめています。


「第一陣が交戦状態に入ったということですけれど」


「おおよ、えらいことになっとるようじゃな」


「機雷源――まぁこれは予想されていましたが、上級指揮官を喪失してナワリン達がが指揮代行かぁ……へぇ、すぐさま統制を回復したのか」


「そしてすぐ次の行動に移っておるな……お前さんの同期は優秀みたいだのぉ。この様子じゃと、下手な指揮官よりも素質があるかもしらん」


 上級指揮官を失い自分が大隊を率いるとなどという悪夢のような状況において、ナワリン達はお互いに協力して指揮系統を維持していたのです。これには戦慣れしたスズツキが目を見張るものがあるほどでした。


「それで……うわぁ、機雷源を踏みつぶして進路を確保してますよ。あ、これだと橋頭保の維持どころか拡大を図っていますね」


 戦況図を眺めたデュークは既に上級士官的な教育を受けているため、星系内戦闘図程度は瞬時に把握できるのです。


「何と無茶な……脳筋のアームドフラウらしいと言えばそうじゃが」


「それで機雷源を抜けたら敵艦に遭遇……」


 次にデュークは「あ、これは!」とバクーの艦船性能について示されたデータを見て驚きました。


「バクー側に縮退炉搭載艦が多い――というより、前衛は全て搭載艦でそろっているみたいです。攻撃は全て重ガンマ線レーザーだし」


「海賊船というよりは完全に恒星間勢力の軍艦じゃな。噂に聞くバクーの直轄艦隊かもしらん」


「ええと、まとめると、かなり縦深が取れて安全範囲が広がったから、第二陣以降は比較的穏当にスターラインを終えて順次展開できて、強襲上陸は成功しつつあるみたいですけれど……」


 デュークはそこで少しばかり黙考し、「敵の戦力と態勢が整いすぎてる」とボソッと言いました。


「ある程度はしかたがあるまぁよ。1000隻を超える艦隊が動きよるのじゃけぇ、それなりの準備をしとったのじゃ」


「でも、事前の情報と随分と違いがあるんですよ。奇襲的攻勢になるはずが完全に強襲になっているし――」


 デュークは「もしかして想像以上にこちらの動きが掴まれている?」と続けてから、カラダをプルプルと震わせました。


「なんじゃ、龍骨がプルプル震えとるぞ?」


「なんていうか、悪い予感がするんです」


「そりゃあ、どがいな予感じゃ?」


「士官学校のシミュレーションで似たようなシチュエーションを経験したことがあるのです。たしか匪賊討伐シナリオの中に――」


 そう言ったデュークは副脳にため込んだデータを参照しはじめたのです。

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