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星系強襲上陸 その8

「ウ、ウグググ――」


 真紅の装甲に覆われた宇宙戦艦――ナワリンがカラダの各所をビカビカと発光させながら、鬼気迫る表情でもがいています。


「ギ、ギリリリリリリリィッ!」


 巨大な口から洩れるのは歯ぎしりの音――生きている宇宙船の超硬金属でできた歯が重力波を生じ宇宙空間を震わせるほどの耐えがたい責め苦に耐えるかのようです。


「ム、ムグ……ムグゥ!」


 さらにナワリンは手でお腹――ニンゲンであればみぞおちにあたるところをグリグリと抉り苦悶の表情となりながらも、それをやめる様子はありません。


「ブグォッ……プギィ、プギィ!」


 次第に彼女は長大な放熱板をジュワリと赤熱化させながら、縮退炉全開で重力波をドクンドクンと脈打たたさせ、悲痛な鳴き声を上げました。


「プッ、ププ、プププッ――」


 ナワリンは食道――慣性制御と電磁誘導によりどんなものをも飲み込んでしまう喉にあたる部分を抑えながら、何かを必死にせき止めるように目をひん剥き潤滑油の涙を浮かべ、その巨大な口を開け――


「マ゛ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」


 宇宙空間を震わせる巨大な咆哮――鋼鉄を砕き、山々をも崩すような一声とともに、ドワッ! と、触れたら最後、骨どころか岩をも溶かすような灼熱の重金属を解き放ちました。


 傍から見ていれば、その姿はまるで伝説の神の獣が放出するブレスのような神々しい威容なのですが、実のところそれは龍骨の民の嘔吐――俗にドラゴンブレス(直訳)とかマーライオンなどと呼ばれるものです。


 なお、戦場のど真ん中で行われるそれは、会社の中で行われた歓迎会で、酒に酔った新人OLが公衆の面前で盛大にやらかしているような感じですが、この時のマーライオンは彼女が意図的に行っています。


 彼女は意識的に副脳に嘔吐反応を送り込み、自分の持つ食堂の電磁誘導や慣性制御、および食いだめのできる胃袋の回路を強制的に逆転させたり解放しているのです。


「モゲラァァァァァァァァァァ!」


 強力な食物回収機能を逆転させれば、飛び出す重金属はマッハ20という恐るべき速度となり、とんでもない勢いで宇宙区間に展開してゆきます。なお、ナワリンが「モゲラァァァァァ!」と言う感じで吐き出し続ける重金属は、敵地に入る前に補給した最後の糧食――くだんのMREレーションでした。


「オゴハッ――――――!」


 最後の重金属が喉からでるまで60秒ほど――大量に吐き出されたマテリアルは既に濃密な金属雲となって存在することになってナワリンの前方を漂っています。


「はぁはぁ……あ~出し切ったわ~~ふぅぅぅ~」


 ナワリンは潤滑油の油を拭き拭きしながら、それは全てを戻しきった後の何とも言えない多好感――爽快感とか達成感やら充実感に浸りながら満足気な表情を浮かべながら、自分の作り出した金属雲を眺めました。


「いい感じに制御できたみたいね――展開完了だわ。あ、レーザーが来た」


 かなりの速度で放出された重金属は慣性の法則にしたがって拡散しつつあるのですが、いましばらくは濃密なカーテンのように存在し続けるでしょう。そこに海賊帝国側が放った必殺のレーザー攻撃――ナワリンを狙って収束しつつあったそれがナノメートル単位で制御された重金属粒子の雲に飛び込み、コンプトン散乱や多重散乱が生じてバチバチとはじけてゆきます。


「ん、いい感じにストップできてる」


 艦外障壁の効率が落ちた上に集中砲火を浴びるという状況に、彼女は自らの体内にある重金属を用い、段々と持ち芸になってきた風のある不要質量共生開放――マーラインにより即席の空間装甲を作り上げ、防御に成功しました。


「これでしばらくは持つわね――あ、味方の展開も始まったわ!」


 動けぬところにレーザーの集中射撃を受け相当な危機にあったナワリンですが、物語のヒロインらしからぬ必殺の技によって作った時間は、配下の戦艦部隊も機雷源を抜けて両翼に展開を始める余裕を作っていたのです。


「密集――密集――密集して――よし密集隊形完成っと。ここまで重防御すればレーザーがいくら来たって問題ないわ」


 ナワリンの両翼に展開する戦艦部隊は3000メートルほどの範囲にその艦列を並べています。かなりの近距離といえるものですが、艦外障壁の効果範囲を重ね合わせることでその強度を上げ、強固な防御用の陣形を敷いたことになるのです。


 「後方宙域に第二陣が到着しつつあるわね。重金属の戻しゲロというみっともない姿をさらしたけど、貴重な時間が稼げたわ」


 橋頭保の維持拡大に成功しつつあるナワリンは「ここでの戦は貰ったわ!」と思いつつ、「でも、この戦術が、軍公式になったらいやだわぁ……はぁ」と盛大な溜息をつくのでした。


 一方そのころ、なにやら金属の雲によってレーザーを防御されたことを知ったコンコスン海賊団は――


「なんだこりゃ、生きている宇宙船がゲロ吐いていやがるぞ! アレが噂の汚い花火――生体戦艦ならではだぜぇ」


「なるほど重金属の雲でレーザーが食い止められちまったのか。まったく、なんてスペックをしてやがる」


「この散布界だと小一時間は効果が続くわ。しばらくレーザー砲撃はダメみたいね」


 と、レーザーが食い止められてた原因を的確に把握しています。


「そうとわかれば攻め手を変えるんだよ。手下どもに実体弾を使うように指示しておやり」


 レーザーが使えないとなれば超電磁砲や対艦弾道弾を使うほかありません。女頭目ドロレスは「なぁに、縮退炉搭載艦ならまだまだやれるさね」と闘志を燃やすようにギラギラとした目で言いました。


 縮退炉を搭載した艦の超電磁砲の初速は亜光速にも達し、ふんだんな電力で作られるは対消滅ペレットがあれば通常のプラズマエンジン搭載型と違って10分でやはり亜光速を超えるのですから、まだまだやれるのです。


「距離がある、一気にばら撒きな」


 レールガンの弾頭と対艦ミサイルの製造にかかるコストは膨大なもので、これらの兵器はいわば虎の子的なものでしたが、頭目たるドロレスは「一切合切の出し惜しみはなしだよ。全部ぶち込んでおやり!」との指示を飛ばしたのです。

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