星系強襲上陸 その7
「第三射までヒット! 弾着分布確認中――あら?」
コンコスン海賊団旗艦タイモスで射撃のデータを計測していたアンリエッタがあることに気付きます。彼女は通信手でありつつ、弾着観測や敵艦の動きを補足する役目ももっていました。
「敵艦が全然動いてないわ」
「加速していないだって?」
恒星間勢力同士の砲撃戦とは相当な速度でお互いに動きあいながら行うのもなのに、数度の射撃の間、共生宇宙軍の生きている宇宙戦艦が大加速も乱数加速もしないことに、コンコスン海賊団の戦術長シャルルマーニュが端正ながらも剛毅な風情のある顔に疑問符を浮かべます。
アンリエッタが他の共生宇宙軍のフネの位置情報を確かめるのですが、何度も観測してもその情報に大きな変化がないものですから、彼女は可愛らしい相貌を載せた細く伸びた華奢な首を傾げました。
「なんだそりゃぁ……? 機雷源を抜けた時に機関にダメージが入ったか?」
共生宇宙軍が動きを見せずにただそこにとどまり続けているものですから、シャルルマーニュは頬に入った古傷を触りながらスクリーンを凝視しながら何かを考えこみこう続けます。
「ロイス、戦闘艦の艦外障壁のパターンは計算しているか?」
「ああ、今してるぜぇ……動きが止まってるからやりやすい」
ロイスは眉をしかめて「むぅ……」とひとしきり唸ってから「……おおし、先頭艦の艦外障壁パターンを捉えたぞ」と伝えました。動かないフネの障壁パターンを捉えることはたとえそれが共生宇宙軍のものであってもそう難しいものではなく、その上ロイスは自前の頭――かなり汎用性のある高性能な量子頭脳を使って短時間でそれを成し遂げたのです。
「おお!これで砲撃の効率は倍になる! そんでもんって――的が動いていなければ、本当の意味での集中射だな」
シャルルマーニュの頭の中にも相当な性能を持つ量子脳が存在し、それは対艦戦術に長けたものになっています。
「よっしゃ、次の射撃は敵艦が動かないことを前提にやろう。各艦へ通達、弾幕射撃から集中射撃を命じろ」
「はい、兄上。いま送信したわ」
通信担当のアンリエッタは既に各艦あてメッセージを送信するやいなや、すべての艦の砲が一点に向けて集中します。
「くはは、これだけのレーザーを集中するなんざ初めてだが――バリアの効果も半減してるし、奴がどんな装甲をもっていたとしても、ぶち抜けるだろう!」
重ガンマ線レーザーや硬X線レーザーを大小あわせて数百発が着弾すれば、艦外障壁を突き抜け装甲を抉り艦体中枢にまでダメージが入るどころか、宇宙の藻屑となるのは確実でした。
「こいつは漲ってくるなァ!」
いつもは冷静な長兄も、共生宇宙軍の戦艦を撃沈できるという滅多にない機会にかなり漲ってきたようで、やおらまたぐらをひっつかむと「へっ、ここも漲ってきてるぜぇ。ガハハ!」と海賊らしい下卑た表現を用いて大笑します。
「おおよ、俺たちの逸物をたっぷりとぶっ食らわせてやろうぜ兄貴ぃ!」
次男ロイスも下卑た表情で「ハハッ!」などと哄笑しました。実のところ彼は黙っていればクールな科学者と言う感じなのですが、根っこのところはやっぱり海賊なのでした。
「漲った逸物をぶち込む……ああ、ええと、あの、その、そうですわね――」
末の妹であるアンリエッタは兄たちのいささか下品な言葉に少しばかり頬を赤らめながら「ええ、共生宇宙軍に一発かましてやりましょう!」などと言い放ちました。実のところ彼女は男爵家の箱入り娘的な所があり、海賊にしてはお上品な所があるのですが、そこは血のなせる業なのか戦意に全く不足はありません。
「はっ、威勢がいいじゃないか」
艦橋の奥指揮官席に座る女頭目ドロレスは戦術行動について、長男に一任しているため砲撃開始後軽く腕を組みながらじっと黙っていたのですが「獲物を前に舌なめずりするのは三下以下だと教えたろ。さっさとやること済ませちまいな!」と言いました。
「アイアイ、ママ。全艦位置に着いた。射線もクリアだ!」
「各艦縮退炉正常、何時でもいけるぜ!」
「砲撃データ完全共有、いつでもどうぞ」
「なら、やっておしまい!」
無駄話のような会話をかましていたコンコスン兄妹たちでしたが、その頭脳は恐るべき明晰さをもっており、裏ではサラサラと必要な準備を進めています。そしてドロレスが砲撃を命じると同時に各艦各砲塔にキカッ――――――! とした強烈な発砲光が生じ500ほどのの重ガンマ線レーザーが宇宙空間を疾駆しはじめました。
「弾着まであと25秒、いまのところ敵艦に動きなし」
「よしこれなら少なくとも40パーセントがヒットするぞ!」
アンリエッタは光速度の遅延――40秒前の敵艦の位置をしめしています。シャルルマーニュはそこから逆算して仮に緊急的な大加速を付けたとしても4割程度――200ほどのレーザーが敵艦を同時に押し包むと予測しました。そしてアンリエッタが弾着の余波が生じないよう光学観測センサの感度を調整してから20秒後、レーザーが弾着したことを示す赤外線反応がタイモスに届きます。
「弾着観測――うわ、凄い反応! かなりヒットしたみたい」
「かなりじゃわからん、何発あたった?」
「今、計測しているわ。赤外線反応が多すぎて……あら、なによこれ?」
赤外線反応を観測していたアンリエッタが小首を傾げます。
「この数だと、レーザーが全弾命中しているわ……それに弾着時間が0.3秒も早いわ!?」
「おい、それはありえねぇぞ。しかも手前でか?」
集中射撃とはいえ、ある程度の範囲にレーザーをバラまいているわけですから、外れが出なければいけませんし、レーザーの弾着が0.5秒早いということは約9万キロ手前で弾着が生じたことになるのです。
そして激しい赤外線反応が落ち着いてくると――
「あ、これを見て!」
「なんだこりゃ」
敵艦前方にぼんやりとした雲のようなものが広がっているという光景がスクリーンに映し出されるのです。
「重金属で出来ているみたい。これにレーザーがヒットしたのよ。出所は敵戦艦みたいね。これはもしかして――」
何かに気付いたアンリエッタは敵艦の艦首を光学的に精査しスクリーンに投影したのです。