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星系強襲上陸 その6

「敵艦距離40光秒――あっ、タキオン粒子反応、敵レーザーが来るわ!」


 ナワリンとコンコスン海賊団との距離は現在40光秒ほどであり、レーザーとは指向性のある収束された光ですから、コンコスン海賊団のレーザー射撃はナワリンに到達するまで40秒ほどかかります。


 ガンマ線レーザーの発射方法は様々なものがあり、共生宇宙軍が用いるポジトロニウム方式のほか、プラズマ励起や自由電子スパイラル方式があるのですが、いずれにせよ、わずかにタキオン――超光速粒子が発生するため、事前に弾着をある程度予想することが可能です。


「初撃は50隻くらいで弾幕射撃ってところね」


 レーザーの着弾予想地点はナワリンの周りを囲むような形でした。これは敵艦の回避行動を想定したもので、ある程度のを付けたとしても確率的に数発はヒットするようになっています。


「いつもだったら回避できるのだけど……」


 高速戦艦たる彼女が推進剤を惜しげもなく吹かして大加速すれば、弾幕射撃と言えども回避することが可能でしたが、それをやれば突き抜けて来た機雷源の回廊の中にいる後続部隊が展開する余裕がなくなるのです。


「何発か喰らうのは覚悟しないと。って、敵第一射来た!」


 お出迎えとばかりに飛んできた弾幕射撃をナワリンは「パリィ!」とばかりに艦外障壁で偏向させました。


「うわっ、これってかなり質の良い重ガンマ線レーザーだわ」


 恒星間戦争におけるガンマ線レーザーのエネルギーはメガボルト級が通り相場であり、このときナワリンのカラダには300MeV(メガボルトクラスの砲撃がヒットしています。またその収束率も重要で共生宇宙軍の艦艇には及ばないものの、かなりの精度がありました。


「これがバンバン飛んでくるのね。やっぱあいつら、ただの海賊じゃないわ、 正規軍なみの火力だと思わないと」


 ヒットしたレーザーの感触を味わいながら、彼女は艦外障壁――重力子や電子による偏向によってレーザーを防ぐためのバリアを全開にします。


「第二射が来る!」


 第一射で諸元を掴んだ海賊帝国側は狙いを絞っての砲撃に移ります。するとナワリンのカラダにビシバシビシバシと、合計2GeVのレーザー艦外障壁を叩くのです。


「まだまだぁ!」


 実のところ、彼女は1キロメートル級種族旗艦に匹敵するほどの高性能戦艦であり、その防御力も相当なもので、この程度の砲撃は艦外障壁で難なく対処できます。でも海賊帝国の砲撃は次第に精緻なものとなり、その集中と相まって第三射からは有効打――艦外障壁を突きぬけて装甲を炙るようになってきます。


「うぐっ! バリアを少し貫通された――」


 そして第四射を受け彼女の艦外障壁を生み出す装置や蓄電池には相当の負荷が掛かって機能低下を始め、いくつかの障壁装置や蓄電池がボンボンボン! と爆裂しました。


「いたたたっ! くっ、このままじゃジリ貧だわ、こちらもやり返さないと! ええい諸元なんて掴んでらんないわ! 咄嗟射撃戦、()ッ!」


 全砲塔の弾庫にあるポジトロニウムカートリッジを瞬発させ、ナワリンは狙いをほとんど定めず対抗射撃を開始します。これは敵艦に回避を強要することで命中率を下げる意味合いのあるいわば猫騙し的なものであり、敵の混乱をある程度招くだけの効果がありました。


「でも次の砲撃も時間の問題……」


 このままではマズイと思ったナワリンは部隊の展開を急がせますが、さしもの共生宇宙軍戦艦部隊とはいえ機雷源を抜けたばかりですから、まだ時間がかかりそうです。


「あと3回くらい耐えないと――って、すっごい数の観測波がきてる!?」


 射撃レーダーの電磁波がナワリンのカラダをなめるようにしています。海賊帝国側はナワリンの艦外障壁をさらに解析し、より正確で有効な打撃を加えようと企んでいたのです。


「マズイわっ!? 艦外障壁のパターンを読まれてるっ⁈」


 艦外障壁は必ずしも万能なものではなく、その出力パターンを捉えることで、その効果を低下させることが可能です。それをさせないためにも、本来は乱数加速を行いな、艦外障壁のパターンを読まれにくくする行動を取るのが本来ですから――


「くっ……こうなったら突撃をかまして一発逆転をかますか?」


 などとと、基本的に脳筋なアームドフラウ氏族のナワリンは見敵必殺・単艦突撃な行動に出て状況を強引に変えようと、ほんの一瞬だけ思い――


「駄目よ駄目、この場合の最適解は私が動かないことなんだから」


 と、士官候補生として訓練された彼女の龍骨はそれを否定します。事前の作戦行動を実施するのであれば、そう言うことになるのです。


 でも、動かなければ艦外障壁のパターンを読み切られ、これまでとは比べ物にならないような被害を受け、下手をすれば一撃轟沈というようこともありえます。そのような二律背反めいた状況下において彼女は――


「やっぱり奥の手を使わざるを得ないのね……」


 と、切れ長の目に涙を浮かべながら、ものかなしげにつぶやいたのです。

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