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幼生期の終わり ~繭に眠る~

 一重(ひとえ)に連なる先達の言葉

 二重(ふたえ)に交わる祖先の追憶

 三重(みえ)に重なる祖霊の図面

 四重(よえ)に継がれる魂の系譜


 生きている宇宙船、その龍骨には、過去のフネたちの記録が保持されています。

 フネの型式は、これらが龍骨の中で混ざり合うことで決まります。

 

 大変な食欲は、それが始まったことを示しているのです。


「ご飯――もっと食べたい!」


「ま、まだ食べるのかいなっ!? ってこたぁ、もっと大きくなるんじゃのぉ……」


「すご~い! すご~い!」


 たくさんのご飯を食べた、デュークのカラダはどんどん膨らんでいます。メーネははしゃいでいればいいのですが、老骨船たちは顔面蒼白――


「隣のネストで借りてきたご飯が、そろそろなくなる……」


 大量にあったご飯ですが、その残りも僅か――ゴルゴンは、もっと貰って来るんだと、大変悔やみました。


「ええい、こうなりゃ、奥の手だ……ネストの設備をたたっ壊してかまわん!

 ゆけぃ、オライオ――ッ!」


「よっしゃ、その手のことは大の得意なんじゃ――!」


 オライオがネスト中の資源を徴発(かき集め)に向かいました。


 その間もデュークは、「いくら食べてもお腹がいっぱいにならないよぉ……」とモグモグモグと食べ続けます。


 ゴルゴンはそこで「ふっ」と排気を漏らし、こう続けました。


「限界が見えぬ…………まるで”餓えた竜”のようだな」


「餓えた竜って~~?」


 ポツリと漏れた言葉に、脇にいたネーメが不思議そうな顔をしました。


「上代、はるか昔にいたと言われる宇宙怪獣のことだ。それはこのような神話として伝わっておる――」


 ゴルゴンは、大きな目を細めて――


龍骨の民が存在したか定かではないほどの昔、大きな竜が宇宙を彷徨っていました。

 

竜は知性の欠片も持たず、ただ絶えることない空腹感に満たされていました。

美味しいとか不味いと感じる知性も無く、目につくものを片端から食べるのです。

何もかも、遠慮無く、別け隔てなく竜は飲み込むのです。


小さな知性体も、大きな宇宙船も、巨大なステーションも、等しく食べ物でした。

それらを飲み込むごとに、竜はドンドン大きくなってゆくのです。


そして竜は、もっともっと大きなものを食べはじめます。


小惑星や彗星がバリバリと裂かれ、冷たい氷型惑星がゴリゴリと砕かれます。

岩石惑星がムシャリを飲みこまれ、熱いガス惑星からは大気をズズズと奪うのです。


竜は惑星すら飲み込み、それらを全てがカラダの一部としました。

もう、残されているのは太陽だけでした。


そして、竜は輝く太陽を飲み込もうと――


 ゴルゴンは、そこで言葉を区切り、シュッと吐息を漏らしました。

 神話は、そこで終わっていたからです。


「太陽を食べようとした竜はどうなったの~?」


「さぁな、太陽に飲み込まれたか……

 今でも食べ続けている、かもしらん……」


「じゃぁ、デュークお兄ちゃんも、食べ続けるの?」


「それはない。我らはそのようには作られてはおらんのだ。必要な量を食べ、必要なカタチになる、それがフネというものだから」


 神話は寓話であり、もしかしたら龍骨の民と関係があるのかもしれませんが、彼らの龍骨には、太陽を食べる程大きくなるという設計図は入っていないのです。


「ん……戻ってきたか」


 ゴルゴンが、そのような“おはなし”をしていると――


「発着所のカタパルトから、蓄電池を持ってきたぞい!」


「ベッド(船渠)の毛布をはがしてきましたぞ」


「部屋の前の扉を外してきたわよ。プライバシーもへったくれもないわ」


 老骨船たちが、バッテリーやブランケット、ルームドアなどを、えっちらおっちらと抱えて戻ってきました。


「ご飯……だッ!」


 コンベアまで食べたデュークですから、なんでもご飯に見えるのでしょう。そんな臨時の食料をデュークが「モゴモゴ」と食べていると――


 ズドォン! ズドォン! ズドォン! 


 と、ネストの外で激しい爆撃音のようなものが鳴り響きました。


「きたぞ! アーレイのコンテナだ。マザーが飲み込む前に回収するのだ!」


 老骨船達は総出でコンテナを回収し、デュークの下へ持ち込みました。


 うず高く積まれたご飯を見たデュークは、嬉しげに口に放り込み、咀嚼し、さらにカラダのサイズを膨れ上がらせるのです。


「これで足りるだろう……高純度のマテリアルだからな……とっても高いのだ……」


 ゴルゴンの一年分の年金が吹っ飛ぶほどのご飯でした。


 さて、小一時間もしたところで、メーネはデュークの手がピタリと止まっているのに気づきました。


「どしたの? お兄ちゃん」


「うーん……なんか物足りないなぁ。何か別の物が食べたい……」


 デュークは、艦首を一つ捩じると――


「次は太陽を食べたいなァ……」


 などと、のたまいました。


「……”竜”がいるぅぅぅぅぅっ⁈ たべられちゃうぅぅぅ!」


 デュークの突然の言葉に、メーネは驚愕しアタフタとそこらを駆けまわってから、ネストの構造物の影に隠れます。


「冗談! 冗談だよメーネ」


 デュークは、気まずそうにカラダを縮めようとしましたが、お腹がパンパンに膨らんでいるのでそれもできません。


「腹が満ちたな、デューク?」


「うん、突然ピタリと、空腹感が無くなって…………眠気が………………」


 デュークの目がぼんやりとしたものになっていました。

 彼の龍骨にはこれまで感じたことのないほどの、強い睡魔が現れているのです。


「では、しっかりと眠るといい」


「うん……」


 ゴルゴンがそう告げると、デュークは重力スラスタの機能を停止して、大きな視覚素子にバイザーが覆いかぶせ、ネストの床で深い眠りに入りこみました。


「始まるな……」


「ああ、始まるのじゃ」


 見守るゴルゴンとオライオが、他の老骨船達がデュークを見つめます。


 デュークのカラダからは、体内を流れる液体水素がシュルルシュルルと駆け巡り、ポコポコと弾けるような音が聞こえていました。


 その音が、段々と大きくなってきます。


 音が大きくなるにつれて、デュークの白い外皮が変化を見せ始めました。


 彼の白い肌の表面から糸のような物が、スルスルと生えてくるのです。


「繭化がはじまったな」


「おお、これを見るのは、9カ月ぶりくらいかの」 


 伸び上がった糸が、繭のようにデュークのカラダを覆い始めました。


 繭は次第に厚みを増していき、しばらくするとデュークの姿がまったく見えなくなります。


「――フネの型式を決める準備が整った、か」


 繭化はフネが大きく成長したり変化したりする時に起るものであり、フネとしての種類を決めるものなのです。


「さてはて、どんなフネになるのかのぉ? ワシは、夢に出てきたジジィのような戦艦だと思うのじゃが……」


「ふむ、全てはマザーの思し召し次第なのだがね……」


 そこでゴルゴンは――


 ドクが話していた未来の夢を思い出しました。


「大戦艦、か……」


 ポンポンと繭を撫でたゴルゴンは、そう呟き、暖かな笑みを浮かべたのです。

( ˘ω˘)スヤァ

食ったら寝る、寝る子は育つ、至言。

次回、デュークが目覚めた時、彼はどんなフネになっていることでしょうか。

旅立ちの時が、近づいてきました。


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[気になる点] 空腹感に満たされるってなんだよ
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