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大尉相当官

「デューク・テストベッツ士官候補生、討伐艦隊補給戦闘団に着任します!」


 デュークが元気いっぱいに着任の挨拶を行うと、 筋肉質でバランスの取れた体躯を持つイヌ型ヒューマノイドが「着任ご苦労さま」とにこやかに返礼します。


「私が補給戦闘団長のコーギー大佐だ、よろしくたのむ」


 補給戦闘団とは、補給用の艦船とその護衛を含めた討伐艦隊全体の補給を担当する戦闘補給弾列を構成する部隊でした。そしてその戦闘団長であるコーギーが、少し長めのマズルをヒクヒクとさせながら、興味深げにこう言います。


「士官候補生として辺境で実習中だね。しかし何だね、龍骨の民が士官、それも中央士官学校の学生とは珍しいな」


 シェルット大佐は小ぶりな顔に実に興味深げな表情を浮かばせながら「実に珍しい」と、率直で好奇心に溢れる感想を漏らしました。


「あ、やっぱり、珍しいのですね。僕みたいのは」


「うむ、士官になりたいという龍骨の民は100隻に1隻くらいか? 中央士官学校ともなれば1000隻に1隻くらいか」


 龍骨の民は本能的に職務に忠実ではありますが面倒ごとや厄介事が苦手で、ただの士官ならまだしも、政治色の強い中央士官学校に入るのは極めて稀でした。それを指摘したコーギー大佐はこうも付け加えます。


「そもそも入校すること自体が難しい――私は入学試験で跳ねられてね。ま、君は優秀なのだろう」


 シェルットは「はっはっは」と特段の含意もなく、ただ単に率直な思いを伝えているのですが、デュークは「い、いえ、そんなことは」と謙遜するばかりです。


「かしこまられると此方も困るぞ。なにせ君は初陣からミサイルの乱打戦、メカロニア戦役では旗艦を務め、アーナンケ要塞脱出作戦の立役者と言うじ実戦経験者じゃないか。」


「そ、それは、いろんな人たちのお力があったからです」


「なるほど、カラダの大きさに比して謙虚と言うのは本当なんだな」


 コーギー大佐はデュークの考課表を眺めたことがあるようで、彼の経歴について良く知っているようです。


「だ、聞くところによると、龍骨の民――その白い装甲を持った超大型戦艦はメカロニア戦役で沈んだはずだが?」


「あ、ええと、それは偽装ってことらしいです」


 デュークがこれまでの経緯をカクカクシカジカ・マルマルウマウマと、四捨五入して過不足ない説明を行うと、大佐は「いろいろと大変だな」などと苦笑いを浮かべて理解を示しました。


「さて、君にはわが戦闘団の一部隊を率いてもらう」


「はい、小隊規模の部隊と聞いています」


 と、デュークが「候補生なのに小隊長とは、光栄です」と、ちょっとばかり如才のなさを発揮すると――


「ああ、行き違いがあったようだ。君には25隻ほどのフネを任せるよ。君自身の戦力を加味すれば中隊と言うことになる」


「ふぇぇ⁈ 中隊長といえば大尉が務めるものですけれど」


「そうだね大尉だね。大尉相当官ということだ」


「た、大尉相当官――――!?」


 共生宇宙軍の艦隊運用では小隊編成は10隻とされ、30隻前後で中隊となるのです。小隊長を任されると聞いていたデュークは「話が違いますよぉ!」と、ビックリ仰天してしまいました。


 しかしそんなデュークを他所に、コーギー大佐はこのような事を言うのです。


「中隊長ではあれか、不足かね。では100隻を任せるから大隊長をやってみるか?」


「ま、待ってください。なんでエスカレートするんですかっ?!」


 デュークは「それは少佐ってやつです! 無茶です! 勘弁してください!」などと混乱するのですが――


「いや、君なら補給ラインの半分を任せてもいいかもしれん。いけるいける、君ならやれる、中佐相当官をやってみんかァ?」


「中佐――⁈」


「按察官のお墨付きはあるから、そこまでは私の一存でいけるんだァ!」


「そ、そんな――――!」


 と、デュークが慌てふためくのですが、シェルットの顔にはなにやらお茶目でニマニマとした笑みが浮かんでいます。


「ご、ご冗談がきつすぎます!」


 デュークの言葉には「いじめだ、いじめ駄目絶対!」という感情が乗っています。コーギー大佐は「本気で行けば権限的にはいけるのだがね――さすがに可愛がりが過ぎるな」と、ペロリと舌出しました。


「ははは、すまんすまん。だが中隊長というのは冗談ではない。君の成績、経歴から問題ないと判断した。メリノー按察官殿も同意されている」


「あ、そこは本当なんですね……」


「なに、心配するな」


 コーギーは「最大限の配慮はする」と、長い口吻をヒクヒクさせながら真顔になり、キッパリとした口調でそう言いました。


「さて、君の部隊の配置だが――」


 補給戦闘団の配置を表示したシェルットは「後方側面、右側だ」とデュークが入るべき位置を示します。


「船団護衛のプロトコルは履修しているはずだな。この位置が意味するところは?」


「そこが一番危険ということですか」


 デュークは船団護衛の手引きを思い出しつつ、次元超獣から狙われた経験からも、正しい答えの一つを導き出します。


「他には?」


「後方ですから全体が見える場所です。そこで学べということですか?」


「ほぉ……君は物が良く見えているな。付け加えるならば最後方の部隊には補給戦闘団次席指揮官を置いている。何かがあったとしてもカバーできる」


 コーギーは「だから存分に学んでくるといい」と言うものですからデュークは「ああ、配慮とはそういう事か」と得心しました。イヌの補給戦闘団長はデュークを総合評価した上で、戦力として活用しつつ、指揮官になるための経験を学びやすい環境を構築していたのです。


「すでに討伐艦隊の第一陣が進発を初めている。民間船を含めた我々補給戦闘団の出立は明朝1800。それまで部隊の把握に努め、次席指揮官にも挨拶をしておくといい」


 そしてコーギート大佐は「これより君は、大尉相当官となる。復唱――」と続けました。


「はい、デューク・テストベッツ、大尉相当官、拝命します!」


「うむ、期待しているぞ」


 なにやらいろいろ飛び越して大変な責任と任務を与えられたデュークですが、メカロニア戦役を乗り越え「僕は宇宙軍司令になるぞ!」 という宣言までした彼ですから、その重責に真正面からぶつかる気構えに不足はありませんでした。

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