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ヒツジの按察官

「中央士官学校実習隊――臨時指揮官デューク・テストベッツ以下、士官候補生5名出頭しました」


「ご苦労様、久方ぶりだねデューク君。あれから1年ほどかな?」


「お久しぶりです、その節はありがとうございました」


 デュークを迎えたのは、以前首都星系でデューク達の案内人を務めた執政府高官――ヒツジのメリノー・ジュニアでした。


「按察官の任地は、ここだったのですね」


「ああ、今は辺境代表部の支局長を務めている。かれこれ1年ほどになるな」


 旧知のデュークを目にしたメリノーはベェェと鳴き声を上げ「ナワリン嬢にペトラ嬢もお元気そうでなにより」と柔和な表情で言いました。ナワリンとペトラは「ありがとうございます。按察官」などと、真面目に敬礼を行います。


 そんな彼女達を見つめた連合執政府の高官は、「ほぉ、随分と大人ぶった口ぶりだね」などと満足気な笑みを浮かべ、こう言います――


「初対面の時は、艦尾(ケツ)を舐めろ! などと罵倒されたものだが」


 デューク達は彼と出会ったときにメリノーを面倒な習性を持つヤギ種族と勘違いして、そんな振る舞いをしていたのです。


「「「あ、あれはメリノーさんが、ヤギのフリをしてたから……」」」


 デューク達が言い訳がましくそう言う姿に、ヒツジの高官は手のひらをヒラヒラさせながら「冗談冗談」と笑みを浮かべつつ、こう続けます。


「君たちの活躍は聞いているよ」


 シュッとした顎鬚を撫でたメリノーは「メカロイド戦役では随分と名を上げたそうだね。その名を隠さなければ面倒が起きる程に――」とニッとした笑みを浮かべました。


「そして今は士官候補生――しかも中央士官学校の士官候補生か。ということはあれかね、君は連合艦隊総司令でも目指しているのかな?」


「えっと、一応そう言うことになっています」


「おお、そうなのかね! 良いね。夢は大きくあるべきだ」


 そう言った彼は白い髭を撫でつけながら「さて、君たちを呼んだのは他でもない」といいながら立体スクリーンを立ち上げ、第10支局が存在する星系周辺の主要航路と星系地図が浮べました。


「つい先日君たちが遭遇した海賊の事は覚えているね。量子ビーコンをくっ付けて逃がしたやつだ」


「あ、あのバクーとかいう宇宙海賊ですね」


「うむ、あのビーコンを頼りに辺境代表部、共生宇宙軍、共生宇宙警察の総力を挙げて調査を進めたところ、やつらの秘密基地が第10支局の担当宙域にあることが分かった」


 メリノーは辺境第10支局にある近隣星系の概略図を表示し、主要な航路からスターラインで4回の位置にある星系を示しました。


「主要航路から4つも離れた航路か……相当なそこは危険地帯ですしね」


「ああ、だからこれまで見つけることはできなかったのだ」


 辺境では主要航路こそ一応の安全が確保されていますが、それを外れれば人外魔境と評するのがふさわしい地獄のような宙域が広がっているのです。


「普段ならあえて手を出すような場所でもないのだが、今回は海賊の棲家があると断定できている。ならばどうするか?」


「ええと、航路の安全を確保するために、海賊の基地を叩きます」


 デュークは別段攻撃的な性格ではありませんが、海賊に対する嫌悪感と、これまでの教育と経験がそう言わせました。


「うむ、私も同感だ。だが、いささか戦力に不足を感じていてな」


「戦力に?」


「海賊団マクーと言えば、辺境ではかなりの大物。推定される戦力は500隻、こちらが出せる艦隊は800隻――主要航路の維持の観点からはそれが限界なのだ」


 辺境パトロール艦隊の主任務は通商路の安全の確保ですから、通常の任務をおろそかにすることができないため、出せる戦力には限りがあるです。


「なるほど、それで僕達に仕事をということですね」


「うむ、貴重な超大型戦艦、高速戦艦に重巡洋艦――使わん手はないさ。支局長権限で要請させてもらうことにした」


 そこでメリノーはデューク達に付き添っている教官リリィを見やり「アライグマの皇女殿下――いやいや、リリィ教官どの、かまいませんな?」などと尋ね、リリィは両の手をスリスリさせながら「良い経験になるでしょう」と答えました。


「よろしい、中央士官学校のお墨付きも得られた。では君たちの実習任務、その一環として辺境パトロール艦隊とともに海賊討伐任務にあたってほしい」


「わかりました。お役に立てるように頑張ります」


 デュークがサッと敬礼を行い、他の候補生も同じように拳を掲げます。その様子に

ニマっとした笑みを浮かべたメリノーは、執政府の役人がするような手を広げる式の答礼ではなく――


「よろしくたのむ」


 と、やはり拳を掲げる共生宇宙軍式の答礼――それは民間人が軍人の真似をしているようなそれではなく、実に色気のある本職のようなそれでしたから――デュークは「あれれ」と艦首を傾げました。


「メリノーさんって、もしかして元軍人ですか?」


「実はそうなんだ。若いころ、若気の至りで家を飛び出して、共生宇宙軍に入隊したことがあってね」


 メリノーはベェェと鳴きながら「そこなペンギンの皇子やキツネの侯爵令嬢と同じだね」と、スイキーとエクセレーネに向かって、少しばかりニヒルな笑みを浮かべまたのです。

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