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幼生期の終わり ~前兆~

 チェフォデラー前執政官とその護衛達がネストを離れ、ネイビスが里帰りを終えて現役に戻った頃――

 

 モグモグ、モグモグ、モグモグ――デュークが大きな口をフル回転させて、たくさんのご飯を食べています。


 ゴロゴロゴロ、ガラガラガラ! デュークの脇にベルトコンベアが設置されて、様々な物質(マテリアル)が次々と運ばれています。


 デュークはそれを、放熱板やクレーンを使って、一心不乱に口の中に放り込んでいます。


 モリモリと、小惑星の欠片(フレーク)を頬張って

 ゴリゴリと、重金属の合板(サンドウィッチ)を齧りとり

 ムシャリと、柔らかな藻土(サラダ)を咀嚼して

 ゴクゴクと、溶かした潤油(シチュー)を飲込んで

 ツルツルと、煮込んだ繊維(パスタ)を啜りこみ

 ジュルリと、電池の樹脂(ゼリー)を舐めとると

 グィグィと、冷たい燃料(ジュース)を飲干します

 

 切断機のような鋭い前歯で切り裂いて、重い臼歯ですりつぶし、しなやかな舌を動かしながら、口中に潤滑油(唾液)をジワリと広げて、デュークはご飯を飲み込んでいます。


「ご飯、美味しい――――っ!」


 デュークの大きな口は止まるところを知らず、後から後から流れて来る物質を掴み取り、バクバクと頬張りました。


「あ、これも美味しい! こっちも美味しい! 手が止まらないよ!」


 彼は口の入ったご飯を一つ一つ味わいながらも、手の回転を止めずに大量の物資を吸収してゆきます。


 デュークはこのようにして、もう半日ほども食べ続けているのです。

 そして実のところ、これはいつもの見慣れた光景ではありません。


「お兄ちゃん、大丈夫なの……?」


 デュークの脇では、少しばかり大きくなった幼生体メーネ(妹)が目を丸くしながら、心配そうにしています。


 龍骨の民の子どもはトン単位でご飯を食べますが、

 本日の彼の摂取量はすでに10万トンを軽く超え、――20万トンも目前でした。


「いくら食べてもお腹がいっぱいにならないんだ――それ取って!」


 メーネは「これ?」と言いながら、コンベアから零れ落ちた太い金属のパイプをウンショウンショと拾って手渡します。デュークはそれを野菜スティックのようにボリボリと齧ると、パイプはあっという間に消えてゆきました。


「おやおや、すごい勢いで食べとるのぉ」


 メーネが呆れるほどの大食漢っぷりを発揮しているデュークのところへ、老骨船オライオがやって来ました。


「にいちゃん、ずっと食べてるの。変なの!」


「そうか、タターリアの言ったとおりじゃなぁ……」


 メーネが心配そうにするのですが、オライオは放熱板(手)で口元をちょいと撫でさすり、満足げな笑みを浮かべました。


「よし、もっと食べろ! ドンドン食べろ! 限界まで食べるのだ! よし、厨房のタターリアに精錬(調理)の速度をあげるように伝える!」


「おお、じゃぁ、ワシはコンベアの速度をあげるとするかのぉ!」


 オライオは続けて「ポチッとな」と言って、ご飯を運ぶコンベアのボタンを押し込みました。すると、コンベアの速度が限界を超えたような凄まじいものになり、ご飯の供給量が飛躍的に増すのです。

 

 ご飯が飛ぶように進んでくるので、デュークは大きな口を開けて、コンベアの端で待ち構えながら、食べ続けます。


「モグモグ――――! 次のご飯! 次のご飯――――!」


「……おお、これは、凄いことになっておるな」


 顔を出してきた工作艦ゴルゴンも、デュークが大量のご飯を次々に飲み込む姿に唸りをあげました。


「タターリア。次のご飯はまだか? なに、間に合わないだと? では、素材のまま載せるのだ! かまわん、やれ!」


 ゴルゴンがそう言うと、コンベアに生の素材が並び始めます。


 小惑星のかけらや、生の金属素材、ミルクの粉が入ったコンテナといったものが、速射砲のようにポンポンと、デュークの口の中に飛び込んでゆくのです。


「ううむ、生のままでも美味しいなぁ! ガツガツ――――! グビグビ――ズバババ――! ガツガツモグモグ――――!」


 そしてあるところで、コンベアは何も載らなくなりました。


「むぅ? なにをやっとるタターリア! 倉庫の中のものを全部出せと言ったろうに……なに……材料が切れたというのか!?」


 デュークはネストの食料庫の中身を全て食べきったのです。


「もっと食べたいのにぃ――――お腹減った――――――――!」


 ……なのに、お腹はまだまだ満足していませんでした。

 トンデモナく大きな、重力波のおかわりがネストを震わせます。


「わ、わしゃ、ネストの中で食べ物を探してくるぞい!」


「おお、他の皆にも何か持ってくるように伝えてくれ!」


 オライオがひとっ走り食べ物を持って来ると言ったのですが――


「モグモグ……モグモグ……意外とコンベアって美味しいなぁ!」


 デュークは待ちきれずに、目の前にあるコンベアに齧りつきます。


 「歯車とゴム、金属パイプが美味しい!」


 コンベアを食べながら、ズルズルと前進する始末――


「はぁ……お兄ちゃん、一体どしたのかな?」


「ああ、これはな、フネのカタチを決めるため、龍骨がそうさせているのだ」


 デュークの有様をポカーンとしながら眺めていたメーネが尋ねると、ゴルゴンは「龍骨の民が大きく成長する時、皆、こうなるのだ」と言いました。


「そしてデュークのカラダは大きい。……いや、大きすぎると言ったほうが良い。だからそれに見合った大量のご飯が必要なのだ」


 そんなところに、ネストの老骨船達がわらわらと集まってきます。


 彼らはデュークの様子に「うは、コンベアまで食べているのか」「あれはそれなりに美味しいのですぞ」などと言いながら、手にした持ち物や、格納庫に詰めた荷物をデュークの前に投げ出します。


 それは老骨船達が手元に蓄えていた金属ペレットや、ネイビスが持ち帰っていたお土産の残りや、様々なスクラップなどでした。


「うわぁい! ご飯だ――――!」


 普通の種族であれば、リサイクルショップに持ち込む様な代物ですが、今のデュークには立派なご飯――彼は、それを嬉々として食べ始めました。


「これも食べるのじゃ!」


 オライオは手にした物資――


 軍を退役した際に退職金代わりに貰って来た特殊な装甲板やら、弾頭が抜かれたミサイルなどをデュークにポイポイと投げつけました。デュークはそれにも飛びつき、片端から飲み込んでいくのです。


「ぬぉ……凄い勢いじゃのぉ……

 これでは手持ちの物資では足らなくなるかもしれんのじゃ……」


「そうだな……よし、アーレイには軌道ステーションに買い出しにゆかせろ! 私とオライオ、ベッカリアは、他のネストへ――!」


 などとゴルゴンが、お隣にご飯を借りに行くと言ったときでした。


「足らない、全然足らない……もっとご飯ぉぉぉぉぉぉぉっ!

 我にご飯をぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」


「じゃぁ、メーネも食べよっと~~♪」


「…………いや、ネスト総出だ! 総員出撃だっ! 払いは私がなんとかするっ!

 なりふり構うなっ! 全氏族から根こそぎだっ! 行け、行け、行けっ――!」


 デュークの様子に、全くご飯が不足するだろうと考えたゴルゴンは、テストベッツネストにデフコン1を発令したのです。

ルビ遊び、ご指摘いただき、随分前に修正しました。

プレート→サンドウィッチ。グリース→シチュー。

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