フネとは
「マギスさんのお肌って、すごく綺麗だね!」
デュークが薄桃のマギスのお肌――生きている宇宙船の強固な生体積層装甲をしげしげと眺めます。
「ねぇ、その肌の下にも武器を持っているんでしょ? どんなのがあるの? 触れるな危険ってコードが邪魔してわからないんだ」
マギスのカラダの各所には、大小の射出口がたくさんあるのです。
「あまり見せるものではないけれど……まぁ、子どもだからいいか」
マギスはそう言いながら、カラダについている無数の射出口をカシャカシャと開閉させ、中にある様々な兵器をチラリと見せました。
「多くは生体誘導弾よ、内蔵型の近接防御火器ユニットも入ってるわ。時々、中身が生え変わったりするのよ」
生きている軍艦の兵装は、歯が生えたり爪が伸びたりといった感じで生え変わるもので、その内容は成長と老化に合わせて調整されていくのです。
「でも、やっぱりメインなのは、この主砲ね。これで敵を撃つのよ!」
マギスは背中に付いた四つの砲塔をくるくると回しました。
「そういえば、敵と戦うのが戦艦って言ってたね。戦争? それがお仕事なの?」
「どちらかって言うと、戦争が起こらないように睨みを利かせるのが仕事かな。ここから先は通さないぞ……戦艦というものは、そこにいるだけで敵を下がらせることができるの」
「でも、それでも敵が向かってきたら、どうするの?」
「攻めてこられたらやるしかないわねぇ。最前線でドンパチをするのが私たちの仕事だから。今はコンスルフリート所属だから、あんまりやらないけれど、昔はそんなことがあったわ」
マギスは、共生宇宙軍での仕事についてかいつまんで説明しました。
「仲間たちと一緒に、敵と殴り合いをしたものだわ。一歩も引かない覚悟で撃ち合ってたら――そのうち、敵さんたちは逃げていったわ」
マギスは、どうだ! とばかりに砲身を振り上げました。
「凄いなぁ……戦艦ってすごいんだなぁ」
デュークは大変感心しました。そして――
「僕も……戦艦になりたいなぁ」
――と言ったのです。
そんな彼の言葉に、切れ長の目をさらに細くしたマギスがこう尋ねます。
「あら、まだデュークは船か、艦か分からないじゃない」
「うん、でも、僕は昔いた大きな戦艦の名前を貰っているから。なんとなく、軍艦になると思ってるんだ」
「そう……でも、それはマザーの思し召し次第よ。フネと言う生き物は、マザーが決めた設計図によって作られるものなの」
「うん、それは知ってる」
「それにね、デューク。我ら龍骨の民――生きている宇宙船――フネなの」
マギスは、「艦とか船とかは、ホントのところはどうでも良いのよ」と言ってから、放熱板を伸ばしてデュークのお腹の辺りをポンポンと突きます。
「縮退炉を持ち、推進器官を動かす。そして、星の世界を自由に航海するのが私たち。それは艦も船も変わらないわ」
彼女は、カラダの後ろについた推進器官を上下左右と躍らせます。デュークもそれを真似て、船足をパタパタさせました。
「では、質問です――貴方は一体何者?」
「えっと、僕は……フネだよ」
マギスは切れ長の目をデュークに向けて尋ねると、デュークは少しばかり龍骨を捩じってから、そう答えました。
「そうね、星の世界を自由に航海するのがフネなの。さて、もう一度聞くわ。あなたは艦なの? 船なの? それとも――」
マギスは切れ長の視覚素子をさらに細くしながら、改めて問いかけました。
「僕は、フネです! 生きている宇宙船です!」
「はい、大変良くできました」
元気いっぱいなデュークの答えを聞いたマギスは、放熱板(翼)を伸ばしてデュークの舳先をなでなでしました。
するとデュークの白いほっぺたに、花丸のような赤みが咲いたのです。




